2026.3.30 地方創生 InfoCom T&S World Trend Report

人々を旅に向かわせる動機とは? ~旅のリテラシーと「自走化」に向けた試案

AIによる生成画像です

はじめに

テレビ東京の番組『YOUは何しに日本へ?』をときどき見ている。空港という、旅の出発点とも言える場所で、外国人旅行者に声をかけ、日本に来た理由を尋ねる。構成としては極めてシンプルだが、旅という行為の核心がむき出しになる番組でもある。

そこで語られる動機は、実に多様だ。アニメや音楽、日本食、歴史的建造物、雪景色。日本という国は、私たち日本人が思っている以上に、さまざまな入り口を持ち、異なる文脈から人を引き寄せているのだと、あらためて気づかされる。

同時に、私はこうも思う。旅の動機と訪問地の選択は、一体いつ、どこで芽生えているのだろうか。航空券を予約する直前か、宿泊先を押さえようとするときか。それとも、もっと前――SNSで偶然目にした一枚の写真や、誰かの何気ない一言、あるいは心の奥に残っていた記憶が、「行ってみたい」という曖昧な衝動に変わった瞬間から、すでに旅は始まっているのではないか。

この動機に関する問いは、観光や地域政策を考える際にも、あまり正面から扱われてこなかったように思える。数値や成果の手前にある、こうした曖昧で個人的な動機にこそ、旅を理解するための重要な手がかりが潜んでいるのではないだろうか。

地域側・受け入れ側から見た「旅の設計」

観光を地域づくりや産業として捉える場合、まず前提とされるのは、地域側、すなわち受け入れ側の観点である。どのような来訪者を想定し、どんな体験を提供し、どの場面で、どのように消費につなげていくのか。こうした問いに答えるため、ペルソナが設定され、カスタマージャーニーマップが描かれ、情報発信やメディア戦略が組み立てられる。「モノ」から「コト」へ、すなわち体験価値を重視すべきだという議論も、今や観光分野では定番の考え方となっている。

例えば富裕層を呼び込みたいのであれば、ラグジュアリーホテルの整備は分かりやすく、理解されやすい施策である。加えて、その宿泊施設に見合った質の高い食事、現地ならではのアクティビティ、地域の歴史や文化に触れる体験が用意されていなければ、期待値とのズレが生じ、満足度は高まらない。

一方で、昼間のアクティビティが充実している地域では、それを受け止める宿泊施設が不足し、結果として日帰り観光にとどまってしまうという問題も起こりがちだ。宿泊と体験、供給と需要のバランスをどう取るか。この設計を誤れば、過度な価格競争やオーバーツーリズム、さらには地元住民との摩擦といった別の課題が表面化する。こうした論点は決して的外れではなく、持続可能な観光を考えるうえでは不可欠である。

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ただし私は、このようなサプライヤー側からの見方だけでは、旅という行為の本質に関わる重要な部分が、どうしてもこぼれ落ちてしまうのではないか、という気がしている。

旅の動機とは?

地域側・受け入れ側の理屈をいったん脇に置き、旅行者個人の側に立ってみると、旅の姿は少し違って見えてくる。

旅は、誰かに設計された動線を忠実になぞることもあれば、むしろ、その設計からこぼれ落ちた偶然や、その場の気分、予期せぬ出会いによって、強く記憶に残るものになることもある。あらかじめ用意された「正解」をたどる安心感と、予定外の出来事に身を委ねる不確かさ。そのどちらもが、旅の重要な要素として語られがちである。

例えば、ツアー型の旅には明確な価値がある。空港に着けば迎えが来ていて、バスに乗れば効率よく名所を巡れる。移動や手配に頭を使う必要がなく、迷うことも少ない。結果として、失敗のリスクは抑えられ、一定水準の満足が保証される。家族旅行や高齢者を含む旅、あるいは限られた日程で多くを見て回りたい場合など、この安心感は非常に大きな意味を持つ。

一方で、私個人はどちらかといえば「自走化した旅」を好む。行き先を自分で決め、交通手段を調べ、現地での過ごし方も事前に計画したり、その場の状況に応じて臨機応変に組み替えたりする。思い通りにいかないことも含めて、自分の手で旅の輪郭を形づくり、「一点もの」の体験を組み上げていく感覚に魅力を感じている。だからといって、修学旅行や家族旅行、団体旅行を否定する気は一切なく、状況によっては「ツアー型」の旅に身を委ねるほうが適していると思う場面もあるだろう。

このように、旅には明らかに複数のモードが存在しており、人は目的や同行者、置かれた条件に応じて、それらを使い分けながら旅をしているのだと思う。

(試案)「旅の自走化」を2つの軸で整理してみる

これらの違いを整理するために、試しに2つの軸を立ててみた。

1つ目の軸は、その訪問地の選択が「他者の旅を参考にする」のか、それとも「個人の判断」によるものかという点である。これを縦軸に据えて考えてみたい。ガイドブックに掲載されたモデルコース、自治体や観光協会が用意したパンフレット、SNSで拡散される口コミやランキングなど。メディア上には、誰かがすでに選び抜いた旅の「おすすめ」や「正解」があふれている。こうした情報を手がかりに旅を組み立てることは、効率的で失敗も少なく、多くの人にとっては合理的な選択だろう。

一方で、こうした既存の情報に必ずしも依拠せず、自分自身の興味や問題意識を起点に訪問地を選び取る旅もある。有名ではない場所や日常の光景、評価が定まっていない地域に足を運ぶケース、あるいは旅の対象そのものが移動する場合などだ。この場合、旅の選択基準は他者が提示した「正解」ではなく、自分の内側にある動機そのものになる。そこでは、選択の責任も満足の基準も、より強く個人に委ねられることになる。

2つ目の軸は、「場所性を問うか、問わないか」という横軸である。ここで言う場所性とは、その体験が「その場所でなければならない理由」をどれだけ強く持っているか、という意味合いだ。そこが東京であること、四国であること、あるいは特定の町や地域、店舗であること自体に意味があるのか。それとも、体験そのものが主であり、場所はあくまで舞台にすぎず、どこにでも存在しうる、別の地域でも代替可能なものなのかという着眼点である。

同じ「旅」という行為でも、場所性を強く問う場合と、問わない場合とでは、地域との関係の結び方は大きく異なる。前者では、その土地の歴史や文化、風土といった固有性が旅の中核となる。一方、後者では、テーマや目的が先に立ち、場所はその実現手段として選ばれる。旅行地選択は優先事項ではないとも言えよう(図1)。

【図1】旅の自走化(試案)

【図1】旅の自走化(試案)
(出典:著者作成)

旅は一見すると、個別具体的な体験の集合に見えるが、視点を少し引き上げることで、そこには共通する型や傾向が浮かび上がってくる。この違いを意識することで、旅の動機や構造が、居住地、年齢、性別、年収といった単純な分類を超えて、より立体的に見えてくるように思う。

本稿では、先に示した2つの軸を手がかりにしながら、旅を特徴づけるいくつかの要素を整理してみたい。言い換えれば、旅の在り方を読み解くための「属性」とでも呼ぶべきものだ。具体的には、旅の在り方を5つに分けて考えることで、そもそも人々がどのように旅と向き合い、どのような動機で旅に向かい、どのように訪問地と関係を結んでいくのかを、もう少し具体的に捉えられるのではないかと考えている。

  1. 旅に無関心
  2. はとバス・ツアー型
  3. お遍路型
  4. 推し活型
  5. 旅の自走型

そして「旅のリテラシー」という言葉について考えてみたい。私がここで言う旅のリテラシーとは、観光地についての知識量や訪問回数の多さ、あるいはガイドブックをどれだけ読み込んでいるかといった、表面的な情報量の話ではない。むしろ重要なのは、旅という行為を、自分自身の判断でどのように組み立て、その行為にどのような意味を与えているかという姿勢そのものだと考えている。

言い換えれば、旅のリテラシーとは「どこに行ったか」よりも、「なぜそこへ行き、そこで何を感じ、それをどう自分の物語として回収しているか」に関わる力である。たとえ訪問先が有名観光地であっても、他者が用意した正解をなぞるだけで終わる旅と、自分なりの関心や文脈を持って向き合う旅とでは、体験への期待やインプットの意味、アウトプットの質量は大きく異なる。前者が消費に近い行為だとすれば、後者は編集や解釈に近い行為だと言えるかもしれない。

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各層の説明──旅のリテラシーはどこで分かれるのか

結び|旅のリテラシーを底上げするという発想

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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