ICT雑感:映画『キングスマン』のSIMカード
話題のスパイ映画『キングスマン』を観た。『キック・アス』のマシュー・ボーン監督と原作者マーク・ミラーが再びコンビを組んでいる。
『キック・アス』といえば、ヒット・ガール。子供体型の可愛らしい少女が縦横無尽に暴れ回るバイオレンス・アクションは強烈な印象を残した。あの時のクロエ・グレース・モレッツにしか演じられない奇跡のようなキャラクターだ。この『キングスマン』も、スピーディでスタイリッシュなアクションと、現実離れした残酷な描写に溢れている。そして、過去のスパイ映画に対する愛のこもった皮肉や当てこすりが随所に散りばめられる。
高級スーツの仕立で有名なロンドン、サビル・ロウにあるテイラー「キングスマン」が世界平和のために戦う超国家的なスパイ組織だという設定は、もちろん ジェイムズ・ボンドへのオマージュだろう。ショーン・コネリー演じる初代ボンドは、スーツを褒められると「サビル・ローだ」と応えるのが常だった。
青年エグジー(タロン・エガートン)は17年前に父を亡くし、荒れた生活をしていた。彼の前に父の元同僚だったハリー(コリン・ファース)が現れ、スパイの新人候補にスカウトする。物語はエグジーを軸に進んでいくが、他のキャラクターが強烈で、正直なところやや影が薄い。コリン・ファースは「これが英国紳士だ」と誰もが納得していしまう格好良さだし、敵役バレンティンを演じる怪優サミュエル・L・ジャクソンや、キングスマンを束ねる名優マイケル・ケインの存在感もすごい。そして、両足に凶器の義足を付けて華麗に跳び回り敵の体をバラバラにするバレンタインの側近ガゼル(ダンサーのソフィー・クッソン)も強烈だ。
ところで、この映画では携帯電話のSIMカードが重要な役割を果たしている。カリスマ的なIT企業創業者バレンティンは、世界各国で無料通話、無料インターネットアクセスが可能な携帯電話のSIMカードの提供を開始する。人々は長蛇の列を作ってこれに群がるが、これは人類が増えすぎて環境を破壊していると信 じるバレンティンの、狂った計画の始まりだった。このSIMカードを利用して信号を送り、人間を凶暴化させ殺し合いをさせることを企てていたのである。クライマックスは、この陰謀を阻止しようとするキングスマンと、バレンティンとの戦いになる。
勿論、現実に全世界で無料のSIMを配ってタダでアクセスを提供することはできないが、端末のSIMフリー化が進む中で、今後はネットワーク・アクセスの選択肢は多様化が進むだろう。現にSIMカード自体は無料に近い形で配布されている場合がある。モバイル・アクセスの主導権を誰が握るのかは、重要なポイントになってくることは間違いない。もはや生活になくてはならないものになっているモバイル・ネットワークのあり方は、我々の想像を超えて人々の生活に影響を与えるかもしれない。
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