スマホ特定ソフトウェア競争促進法の意義と課題(6)
本稿は「スマホ特定ソフトウェア競争促進法の意義と課題」の第6回目です。
前稿(本誌440号(2025)28頁以下)までにおいて、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下、「本法」とする)に関して、規制対象事業者に対する具体的な規制の内容のうち遵守事項(4.(3))について整理した。これに引き続き、本稿では本法におけるエンフォースメントの内容を整理する。
4.規制対象事業者に対する規制とエンフォースメント
(4)エンフォースメント
①全体像の概観
本法の運用姿勢として、公取委は、前記4.(2)および(3)〔本誌435号および440号参照〕の規制を実効的に行うために、アプリ事業者等のステークホルダーと継続的にコミュニケーションを取りながら、指定事業者に対してビジネスモデルの改善を求めるなど競争環境を整備していくとともに、継続的なコミュニケーションを通じて問題となり得る行為が改善されない場合や違反行為が認められた場合には、調査を実施して是正を命じるなど、厳正に対処していくとの姿勢が示されている[1]。
本法の仕組みとしても、いわば従来的な独禁法のエンフォースメントを採用しつつ、定期的な報告等を通じて政府が指定事業者を継続的に監督するという透明化法のような、いわゆる共同規制の手法も採用されている[2]。
公取委の調査権限については、本法が独禁法の補完的な役割を担うものであることから、同法と同様のものが規定されている。このほか、法令に違反した場合のエンフォースメントも基本的には独禁法と同様のものが予定されている。例えば、禁止事項(前記4.(2))に違反した場合には、排除措置命令(18条)の対象となり、確定した排除措置命令に違反した場合には刑事罰(50条)の対象となる。また、禁止事項に対する違反の疑いがある場合において、裁判所は、緊急の必要があると認めるとき、公取委の申立てにより、当該行為の一時停止を命じる緊急停止命令を発出することができる(40条)。
もっとも、各エンフォースメントの内容は完全に独禁法と同内容とされているわけでもなく、本法の「事前規制」としての性格に沿ったものや検討対象市場ないしエコシステムの状況も踏まえた特徴も見られる。以下では、特に課徴金制度、確約手続、私訴に関わる制度、その他に区分して整理する。
②課徴金制度(19条~21条)
本法19条以下では、特定の禁止事項に違反した場合に課徴金納付命令の対象となる旨が規定されている。課徴金納付命令の対象とされている禁止事項は、OSに係る指定事業者の禁止行為(7条〔前記4.(2)③〕)と、アプリストアに係る指定事業者の禁止行為(8条〔前記4.(2)④〕)のうち他の課金システムの利用妨害(1号)およびアプリ外課金等の提供妨害(2号)である。
課徴金制度は、「違反行為者に対して経済的不利益を与えることで違反行為の誘因を小さくして、違反行為を抑止することを目的とする行政上の措置」であると説明されるが[3]、従来の独禁法改正時において算定基準を検討する際には、違反行為者が当該違反行為によって得た不当利得や経済的利得の水準如何が重要な手がかりとされてきた[4]。このような制度理解を前提として、本法では課徴金納付命令の対象が限定された。すなわち、対象外とされた禁止行為と課徴金対象とされた禁止行為を比較した場合に、前者については不当利得を明確に観念できると考えられなかったことから、OSに係る指定事業者の禁止行為と、アプリストアに係る指定事業者の禁止行為のうち他の課金システムの利用妨害およびアプリ外課金等の提供妨害に限定されている[5]。
例えば、検索結果の表示における自社優遇(9条〔前記4.(2)⑤〕)については、これにより、優先的に表示された指定事業者の提供する商品とか役務の売上げが増加をして不当利得が生じる場合があると考えうるが、どの部分が違反行為によって生じた不当利得なのかどうかを確定することが困難である[6]。そのため、本法の課徴金納付命令の対象から除外されている。
本法の課徴金納付命令が発出される場合には、独禁法の課徴金と同じように、「違反行為に係るサービス等の売上額×一定の算定率」という公式によって算定された金額が命じられることになる。ここで想定される売上額は、例えば、他のアプリストアの提供妨害の場合におけるアプリストアの手数料などである[7]。
本法における課徴金納付命令の特徴としては、算定率が高めに設定されているということが挙げられる。本法では、基本的な算定率が20%とされており、10年以内に違反行為が繰り返された場合の算定率は30%とされている。独禁法における課徴金納付命令を想定してみると、例えば排除型私的独占の場合の課徴金算定率が6%とされているため、本法における算定率は相当程度高めに設定されていると言える。
このような高めの算定率については、指定事業者として想定されるAppleやGoogleの全事業の売上高営業利益率が25%から30%程度であるということを踏まえ、規制の実効性を十分に確保する観点から設定されていると説明されている[8]。
[1] 稲葉葉僚太「スマートフォンにおいて利用さる特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律について」NBL1273号(2024)33頁。
[2] 滝澤紗矢子「スマホソフトウェア競争促進法の全体像」ジュリスト1603号(2024)38頁。
[3] 第213回国会 経済産業委員会 第16号(令和6年5月22日(水曜日))[古谷一之政府特別補佐人発言](https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_ kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009821320240522016.htm, 2026年1月27日最終閲覧)。
[4] 根岸哲編著『注釈独占禁止法』[岸井大太郎](有斐閣、2009)150頁。
[5] 第213回国会・前掲注3)[古谷一之政府特別補佐人発言]。
[6] 第213回国会・前掲注3)[古谷一之政府特別補佐人発言]。
[7] 稲葉・前掲注1)34頁。
[8] 第213回国会・前掲注3)[塚田益徳政府参考人発言]。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開したものです。
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