2015年2月3日掲載 ICT経済 地方創生 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

ローカル経済圏とICTの役割

本欄“風見鶏”に昨年9月「1億人維持の人口目標にICTが果す役割は?」と題して掲載した以降も、地方創生・地域活性化に関心を持っていろいろな方の講演を聴いたりフォーラムに参加して、本当にどうしたらよいのか思いを巡らしてきました。そうしたなか、とても参考になる1冊の本に出会い、著者が指摘していることを根拠にして身の回りに起きている現実とICTとの関係やその役割について考えてみました。その本とは、冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)の「なぜローカル経済から日本は甦えるのか―GとLの経済成長戦略」(PHP新書)のことです。最初に少し本の内容を紹介しておきますと、本の題名の如く、「G」グローバルと「L」ローカルという二つの世界の相違の説明から始めて、それぞれを貫く経済法則、なかでもローカル経済圏に着目した戦略、最後にグローバルとローカル両方の使いこなしや選択による多様性こそ、これからの経済成長戦略であると著者は主張しています。


私は、地方経済の活性化に基づく地方創生のあり方を明確に説いているこの本に大いに刺激を受けましたし、人口問題から地方創生の必要性を訴えた、増田寛也氏編著「地方消滅―東京一極集中が招く人口急減」(中公新書)と併せて、今後の我が国のあり様を示した手許に置いておくべき課題解決の参考書だと思いました。是非、お読み下さるようおすすめします。


最近、何故地方創生問題に私がこれほど関心を持つようになったのかというと、第一に日本の危機的な財政状況、即ち、恒常的な財政赤字構造と累増する公債残高がもたらす孫達未来の世代へのツケ回しに平気でいられる私達現在世代の反省、第二に私が長く携わってきた情報通信サービスではここ30年に渉りグローバルの世界に身を置くべく努めてきましたが、この一本道だけでよいのかという振り返り、第三にグローバル路線が進むNTTを始めとする通信事業各社に対してローカル経済圏の領域・分野を捉え直す必要性を感じたからです。


前述の本の中で冨山和彦氏は、「Gの世界とLの世界の相違点」について、市場・商品・雇用など各面での特徴や事例をあげて紹介しています。大まかにいって、大企業中心で場所移動可能なモノや情報を扱い、知識集約型労働をベースとする完全競争追求のグローバルな経済圏と、これとは反対に中小企業が中心で生産と消費の同時性・同場性をもつコトやサービスを扱う労働集約型産業で不完全競争下にあるローカルな経済圏が対比して描かれています。加えて、私が認識不足だったのは、実はグローバル経済圏の割合はGDPと雇用とも全体の30~40%未満しかないこと、逆にローカル経済圏こそ60~70%超を占めていて、今もこれからも経済活動の中核であるという事実でした。


確かに、ICTの世界でもAmazon、FacebookやLINEなどグローバル水準のサービスが身近に浸透している一方で、世帯への配付や配送されるタウン誌・広告誌を用いた電話・FAXやメールレベルでのサービス業もまたローカル経済圏では相当の影響力を持っているといったギャップを実感します。グローバル経済圏ではICTの利活用は当然でそれなくしては市場競争に参加できないのが現実ですが、その一方で、ローカル経済圏では一般にはICTの活用は十分とはいえません。地域に根差した小売りや旅館・ホテル、医療・介護や保育など人手によるサービスやどうしても勘や経験に頼りがちな農業生産などにITやIoTをいかに取り入れて生産性(収獲や売上げ)を上げていけるかがポイントになります。ただ、ICTに携わる事業者はメーカーやサービス提供者とも既にグローバル経済圏に足を踏み入れて久しいので、こうしたローカルな世界から遠のいているのが実情ではないでしょうか。こうした距離感をどうしたら狭められるのか、片方でグローバル化に力を入れて世界市場で稼ぐ段階にあるICT産業界とっては、地方創生/地域活性化は新しい事業課題であり、経営戦略となります。現在のところ、地方創生の政策議論においてもICT分野の人達の声が小さいことが残念でなりません。


光回線やモバイルブロードバンドサービスが成熟化して行き渡っているだけに、回線卸サービスやMVNOなどの消費者向けの競争促進方策が進められていますが、BtoB領域で地方に拠点を置くサービスセンターやメンテナンス、物流・配送サービスなどローカル経済圏に密着した分野でのICTの活用、また地域で主要な担い手となっている第三次産業や農業でのICTの取り込みなどが地域経済の活性化に繋がります。ICT産業内においても全社的な集約化だけでなく、地域の活性化策に応じた地域拠点化(分散化)について再検討することも必要かと思います。併せて、ローカル経済圏内のさまざまな労働集約的で人手を要する産業/事業にきめ細かく応じられる情報通信サービスの提供が可能となるよう、自由な相対取引の形で柔軟に実行できる制度・仕組みが求められます。地方創生に向けた制度改善・柔軟化です。行政側では、市村町などの狭い範囲を超えた広く深い各種のデータベースを整備して公開することが、ローカルの世界だけに閉じこもらずに地域経済を発展させる基盤となりますので、オープンデータの施策をより一層進めることが何より大切です。


ICT産業界でも自社製品・サービスの受注機会との目先の視点を越えて、地方創生に前向きに取り組む場面がこれから増えることになります。これまでのグローバルな世界だけでなく、情報通信インフラ・プラットフォームがローカルの世界に関係する以上、Wi-Fiの整備やIoTの普及・浸透といった柔軟なネットワークの構築や企業内のサービスやメンテナンスの拠点、研究開発・教育研修施設などの配置を含めて、地方創生をイノベーションの一環として捉えておく必要がありそうです。

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