2016年2月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

iPhone販売の功罪-モバイル通信事業構造への影響-


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昨年12月16日に「ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG 携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」(何と長い名前か-通称;有識者会議)が、10月19日の第1回会合以降5回に渉り議論・検討してきた結果を取りまとめ公表しました。これを受けて総務省は早速、取組方針を策定し、併せて高市総務大臣が携帯3社の社長に対し、講ずべき措置を要請しました。そのポイントは、(1)スマートフォンの料金負担の軽減、(2)スマートフォンの端末販売の適正化、の2点であり、また総務省当局においては、MVNOのサービス多様化を通じた料金競争を促進するべく、MNOの有する加入者管理機能をMVNOに開放するためにガイドラインの改正を行うとされています。

今回の有識者会議は2ヵ月間で5回の会合という極めて短期間で意見集約がなされましたが、その第1回会合時に構成員である北俊一氏(野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部上席コンサルタント)が検討開始当初に示した意見“我が国の携帯電話料金の課題と解決の方向性”は誠に貴重で示唆に富み参考になるものでした。曰く、

  1. 家計支出に占める携帯電話関連支出は増加する仕組みになっている
  2. キャリアの同質化(土管化)に伴い、過度な端末安売り競争が進展
  3. ARPU低下、端末高度化にもかかわらず、端末販売奨励金が増加
  4. 携帯電話料金全体の値下げという話ではない
    ユーザー間の行きすぎた不公平性の是正がポイント
  5. 通信料金の低廉化に向けた各者の努力が必要(ユーザー、キャリア、総務省)
    今回の有識者会議の取りまとめを踏えて総務省が策定した取組方針にある前述の3点と、ICT産業に関して専門的見地から整理している北氏の見解とは微妙に違いがあるように感じられます。この違いのキーワードは“携帯電話ユーザー間の行きすぎた不公正性の是正”であり、背景にある“キャリアの同質化(土管化)が過度な端末安売り競争”を招いてきたということに整理できます。

有識者会議の取りまとめでは、3項目の検討課題を端的に取り上げているだけで、課題を生じた背景や経緯などは十分整理されておらず事業構造まで立ち入った認識は示されていません。そこで改めてキャリアの同質化の要因を探ってみると、2007年9月に総務省のモバイルビジネス研究会が示した報告書を受けて同年末に端末価格と通信料金の分離プランが始まり、携帯3社によるiPhoneの取り扱い開始(2009年6月ソフトバンク、2011年10月au、2013年9月NTTドコモ)によって同質化が加速しました。それまでのフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の時代は、携帯端末の違いがキャリアの通信サービスの差を生み出して携帯会社各社が競争する市場でしたが、取り扱い端末の共通化・同一化によって、それも世界中に認められた優れた使い勝手のよい端末によって、通信サービスもグローバル規格のものに同質化してしまい、結局のところ市場競争は通信サービスそのものではなく、端末販売価格の競争へと変質し過度に進展していきました。それが異常とも言えるキャッシュバックの横行に繋ったのではないかと思います。

特に、最後にNTTドコモがiPhone販売を始めて以降、MNPを利用して携帯会社を乗り換えると同時にiPhone購入をセットで行うと多額のキャッシュバックが行われていたことから、iPhoneという優れた人気ブランドの端末を携帯3社が等しく取り扱うようになったことで携帯キャリアの同質化は急速に進展しました。iPhoneというグローバルに販売されている人気のブランド端末が我が国のスマートフォン普及・拡大に貢献したことは確かです。iPhoneのお蔭と言ってよいと思います。それまで、日本では携帯キャリアが端末の仕様を決めて製造メーカーに発注し、その製品を買い取って自らのリスクで販売する方式を取ってきたので、iモードなどネットワークと端末とを一体化したサービスが各社で開発され普及していました。その結果、モバイル通信サービスの水準はスマートフォン以前には世界で最も高い状況でしたし、スマートフォンの発売後も暫くの間は普及は進みませんでした(我が国では現在でもスマートフォンの普及が6割に止まり、世界の8割より低水準なのも頷けます)。この状況を打破したのがiPhoneであり、ソフトバンクによる発売開始だったことは周知のとおりです。ただ、こうしたiPhoneの功績はまた他方で、我が国のスマートフォン全体の販売シェアでアップル社が5割以上という現実をもたらしていて、iPhoneを巡る過剰な販売競争の姿が浮び上ってきます。全世界でのアップル社の出荷台数シェアが20%前後に止まっているのに比べて、日本国内のシェアの高さが極立っているのが分かります。

この結果、携帯各社のサービスや通信料金の違いによる訴求は乏しくなり、MNPによって頻繁に端末を買い換え・携帯キャリアを乗り換えるユーザーに特に有利な販売方策が採用されてきました。iPhoneはユーザの多くが望むとても素晴らしいデバイスで、さまざまなサービスを提供してくれるものですが、他方、携帯会社に対して通信サービス提供者というより、むしろ端末販売会社として役割を果すプレッシャーを与えてきました。携帯会社もiPhone発売に当たって、世界のすう勢に反してSIMロックを付けて契約期間2年縛りの担保とし、こうした販売機関としての役目を推進してきたと言えます。

本来、グローバルに通用する優れた端末であれば、SIMロックによって携帯会社(回線)を固定する必要性はサービス上は乏しいのでしょうが、携帯会社が端末の販売をより一層進めるためには通信サービスによる費用回収を促進する方策が必要でした。これが契約期間2年縛りの実態であり、多額のキャッシュバックの姿なのだと想定しています。しかし今や、SIMロック解除が制度化され、SIMロックフリー端末が多くのメーカーから販売され、さらに中古端末市場が確立しつつある今日、通信サービス収入によってキャッシュバックの原資である端末の販売奨励金を回収することは難しくなっています。iPhoneに特に大きなキャッシュバックを付けることには世間の眼が光り批判にさらされることでしょう。総務省もMNP利用者等に対する端末購入補助の適正化について取組状況の報告を求めており、店頭での実態調査を実施して改善指導を行うとしているので、今後の適正化を期待しています。

こうした端末購入補助の適正化が進められても、通信料金と端末価格との一体化・不分明化の流れに構造的なメスを入れない限り、市場構造からの圧力がある以上、再び同様のことが起こり得ます。前回2007年9月の総務省モバイル研究会がいわゆる分離プラン、即ち端末価格と通信料金の分離を要請しましたが、結局のところ“ゼロ円端末”が“端末実質ゼロ円”と変わっただけでした。構造的・制度的なメスを入れない限り、MNP利用者に特に有利な優遇措置はなくならないでしょう。MNPはユーザーの利便性向上のための方策であって、ユーザー間の不公平感を助長するものではないはずです。少なくとも端末価格差を正当化するものではありません。

最後に、年度末の商戦期を前にして携帯3社ともまずは25歳以下の若者向けにパケット増量サービスを打ち出していて、やはり若年層向けの競争が激化しています。携帯3社が今回のように無料のデータ増量で足並みをそろえたのは、やはりヘビーユーザーを将来にわたり囲い込むのが狙いとみられ、スマートフォン販売で端末購入補助に制約が加わる逆風のなかで販売店サイドでは好感されているようです。しかし本来、有識者会議や総務省からはデータ使用量の少ない利用者向けに新しい低価格の料金プランの設定が求められているなか、各社とも“学割”から打って出るところに現状が強く表れています。携帯3社は、スマートフォンの端末販売の適正化は1月末までに、ライトユーザーや長期利用者等に対応した料金プランの導入などは速やかに総務省に報告することが要請されているので、今月の具体的な行動が注目されます。1月下旬現在、携帯3社では端末実質ゼロ円を改めて、1~2万円程度値上げするとの観測報道が既に見られます。

携帯キャリアにとっては、端末の魅力がユーザーの選択を生み、キャリアの選択は後付けになることが明確になっている今日、SIMロック解除、SIMフリー端末、中古端末が一般化していることをも踏えて、通信ネットワークサービスの多様性と厚みを増して、新しいアプリケーションやコンテンツに対応して収入源を増やす努力が第一です。加えて、今日まで主に端末販売に主力を傾けてきた(もちろん通信サービスのサポートを行っていますが)販売店の理解度や説明力などの顧客サービス面での成熟度を高めて、端末の安売り販売に止らず光回線はもとより、さらに保険・金融商品の販売や電力・ガスといったインフラ商品とのセット販売にまで立ち入ることが必要となります。こうなると携帯会社の販売店管理も端末販売・サービス契約・メンテナンスだけでなく、多様な取り扱い商品・サービスを効率よく販売できるよう支援する専門部署・担当が絶対必要となるし、現場の応対や説明をサポートしてスムーズな受付・契約を進めるためのAIの活用など新しいイノベーションと販売網・担当組織の構造改革が急務です。

今回の有識者会議が取り上げた課題と総務省の取組方針を単純に目先きの現象の改善策と受け止めてはなりません。現状をもたらした市場構造にまで踏み込んで認識を改め、当面の販売数への影響やiPhone取扱面での軋轢などを乗り越えて中長期的な構造改革の契機とすることが肝要です。

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