2016年7月1日掲載 ICT経済 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

グローバルICTインディケーター(装備量)が示すICTの世界的な普及と分析



当社情報通信総合研究所では5月26日、「グローバルICTインディケーターによる情報通信技術の世界的な普及の分析」を発表しました。今回の主要テーマは“ICT普及、100年以上かかった先進国の水準に遅れていたアフリカでも15年で到達”となっています。

このレポートは、グローバルICTインディケーターに基づいて情報通信技術(ICT)の世界レベルの普及と変遷を集約し分析するもので、ICTの普及度合を「装備量」として計測しています。グローバルICTインディケーターとは、パソコン、携帯電話、インターネット接続サービス等のICT製品・サービスを同列の装備として扱って装備量を示す指標です。このグローバルICTインディケーターで用いているデータ系列は固定電話回線数、携帯電話加入者数、固定ブロードバンドインターネット回線数、インターネットユーザ数(除固定BB)、コンピュータ保有世帯数の5種類で構成されていて、これらを装備ととらえて集計しています。

ICT装備量は、総量と1人当たりに分けて推移を分析することが可能で、また国や地域別の分類を見ることができます。まず、2014年の日本の1人当たりのICT装備量は2.918で世界20位、先進国中で最上位ではありません。上位には、この種の統計の宿命であるマカオや香港、モナコといった都市中心の国家・地域や人口の少ない小国が名を連ねています。地域別には、EU諸国や湾岸諸国が上位を占めていますが、日本は人口1億人以上の国では最上位となっています。日本を含めて上位の国・地域では1人当たり3装備の水準となっていますので、携帯電話を中心にインターネットと固定ブロードバンド、固定電話を使い分けている姿が浮かび上がってきます。回線として携帯と固定、サービスとしてインターネットとブロードバンドを使ってICTを活用しています。もちろん、この装備量には企業などの法人契約が含まれますので、個人の生活中、プライベートな時間・空間だけでなくオフィス等のビジネス時間・空間での装備も合計されています(ただし、コンピュータは保有世帯数なので個人使用のみ)。つまり、上位先進国では、人々はプライベート/ビジネス等いろいろな時間・空間を通して、1人でICTを3装備活用する生活をしている訳です。私達、日本での日常生活を見ても、ビジネスに携わる人間ならケータイを持ち、インターネットを利用し、オフィス等では固定電話や固定ブロードバンドを使って仕事をしているので、少なくとも3装備はあるでしょう。しかし、小学生以下の子供や高齢者まで含めて平均で1人当たり3装備となると、スマホとタブレットの2台持ちなどの現象が浸透・拡大しているものと想定できます。

世界全体の1人当たりICT装備量と媒体別内訳の推移

世界全体の1人当たりのICT装備量と媒体別の推移をみてみると、2014年で1.63に達しており、内訳では携帯電話が0.96となっています。つまり全世界では、携帯電話は既に1人1契約になっているのです。ただし、携帯電話の普及はASEANでは1人当たり1.23でむしろ先進国より高いレベルにある一方、その他の途上国(アフリカを除く)で0.92、アフリカで0.74と水準が低くなっています。つまり、携帯電話ではASEAN諸国は既に先進国を追い越していますが、インターネットや固定ブロードバンドではまだまだ遠く及びません。これには2つの要因が考えられます。第1は携帯電話の契約パターンがプリペイド中心で、機能を絞った低価格端末が数多く、数量的に多くカウントされるもののインターネットやブロードバンド接続までは進展していないこと、第2は固定電話が十分に普及する前に携帯電話の時代となり、固定回線の基盤的なインフラ投資が十分でないので、特にローカルエリアの固定ブロードバンド回線の普及が進んでいないことです。

地域別1人当たりICT装備量の推移

1人当たりのICT装備量をみる限り、携帯電話の急速な普及・拡大の結果、世界各地域の格差は急速に縮小しており、残るアフリカでも1人当たりのICT装備量は、2014年にほぼ1の水準となり、先進国が電話の発明から100年以上かけて到達した1998年の水準(1人1装備)に達しています。携帯電話の普及・拡大は、今や先進国では成熟段階で伸び率は大幅に低下しており、ASEANや途上国でも次第にその段階に近づいているのが実情です。アフリカでも例外ではなく、ここ1~2年で携帯電話の普及が1を越えて、ASEANやBRICSの水準と肩を並べることになるでしょう。携帯電話の普及は1人当たりのICT装備水準を急速に高めて、ICTを引き金とする社会・経済・政治の変化を全世界でもたらすことは避けられません。その上、先進国が100年以上かけて到達した水準にわずか10~15年で到達して先進国との格差を縮めてしまうのです。

問題は、この急速な拡大に期待するICT産業界の成長を取り込む姿勢ではありません。確かにICT装備量の成長はアフリカやその他の途上国中心にまだ数年は続くことでしょう。しかし、数年で1人当たりの装備量も現在の先進国並みの2.5に近づく時がきます。問題は世界中がこうした成熟段階に達することを考えると、先進国では新たなICT装備を作り上げる時を迎えているということです。グローバルICTインディケーターは、今回の情総研の発表の中に示されているとおり、篠崎彰彦・田原大輔両氏の2012年、2013年の論文(注)で構築された世界のICT関連と、経済・社会関連のデータセットを継承して作成しているもので、計測結果を長期的に観測でき、かつ分かり易く直観的に理解できるところに特徴があります。しかし、数年で大きな変化を遂げるICTの世界(特にサービスやコスト構造、ベンダーやプロバイダー・プラットフォーマーの変化など)では、特に先進国で単純にICT装備の伸展が停滞している印象を与えるので注意が必要です。

人口が停滞・減少している先進国では1人当たりだけでなく、装備量総量も成長は鈍化していますが、装備量を個人の契約数や保有数だけでなく、例えばWi-Fi、IoTやAI、ロボットの普及のように個人ではなく社会の中に装備されたものを個人が使え、間接的にICT装備を充実するものをどのように取り込んでいくのかが今後の計測・分析に際しての課題だと思います。

ICT製品的には、IoTに使用されるセンサーやモジュールの数量、Wi-Fiなど非免許帯域を使用する無線通信装備、サービス的には通信回線に接続するタブレットやテレビジョンセットなど日常生活を支えるICT装備は多様性を増すばかりです。先進国では、この種の新しい領域こそがイノベーションの中核を占めてICT装備の中心課題となっていますので、今回のグローバルICTインディケーターをさらに継承・発展させて、これからの変化を長く計測・分析できる指標の確立を望んで止みません。もちろん、計測データの把握が極めて困難であることは承知していますが、現行のままでは、いずれ近いうちに世界各地域の格差が接近して普及の差が見られなくなってしまうのではないかと懸念しています。

(追伸)最後に一言、本欄「風見鶏」は2013年9月から毎月掲載を続けてきましたが、体力・気力の低下に従って今後(2016年7月以降)は隔月、原則奇数月に掲載することに改めます。どうぞ、これからもよろしくお願い申し上げます。

(注)

  • 篠﨑彰彦・田原大輔(2012)「ICTの普及が経済の発展と格差に及ぼすグローバルな影響の分析:国際的議論の変遷と実態変化のデータ観察」内閣府 経済社会総合研究所, ESRI Discussion Paper Series, No.289, 2012年9月, pp.1-22.
  • 篠﨑彰彦・田原大輔(2013)「教育・所得水準とICTの普及に関するグローバルな動態変化の分析:デジタル・ディバイドから経済発展の可能性へ」情報通信総合研究所, InfoCom REVIEW, No.62, 2014年3月, pp.18-35. 
  • 野口正人・山本悠介・篠﨑彰彦(2015)「データで読む情報通信技術の世界的な普及と変遷の特徴:グローバルICTインディケーターによる地域別・媒体別の長期観察」情報通信総合研究所, InfoCom Economic Study Discussion Paper Series, No.1, 2015年1月, pp.1-25.
    (出典:PRESS RELEASE 「 ICT普及、100年以上かかった先進国の水準に遅れていたアフリカでも15年で到達 2016.5.26」4頁)

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