2016年9月16日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

巨大OTTのグローバル戦略に身構える欧州



欧州連合 (EU) は2010年代に入り、OTT (Over the Top) プレイヤーに対して競争法や税法を利用した摘発を活発化させている。その対象の多くが、Google、Facebookなど米国の代表的なOTTであるため、米国側も警戒を強めている。例えば、The New York Times (NYT) 紙は2016年6月30日の「欧州はいかにしてGoogle、Amazonなどの米国ハイテク巨人を追い回しているのか?」と題する記事の中で、個々のOTTの摘発状況を報道している。それをまとめたのが表1であるが、主要OTTは例外なくEUから摘発(×部分)を受けているのがわかる。

EUは2015年5月、「デジタル単一市場 (DSM:Digital Single Market)」の名のもとに、オンライン・サービスに関連する法規類の大規模な見直しを行う戦略を発表した。その中心的な目的は、オンライン・サービスのEU域内におけるクロスボーダー(越境)利用(例:仏国民が独の音楽配信サービスに契約)の促進である。DSM戦略は、その目的達成のために、域内の越境型オンライン利用を阻害している加盟国間の障壁(「ジオ・ブロッキング」)を撤廃すると宣言している。そのため、DSM戦略を構成する16項目の施策には、従来の電子通信規制[1]の包括的な見直しのみならず、税制 (VAT)、物流、契約などの周辺制度の統一化も含まれている。

EUは、DSM戦略の背景にある域内のオンライン・サービス利用実態をアンケート結果で示している。それによれば、EU域内市民の一つの国内に閉じたサービス利用は42%だが、域内の越境型利用は4%に過ぎず、後者の数値を上昇させることがDSM戦略の役割であるとしている。ここで、残りの回答者 (54%) は米国系サービスを利用していると答えているので、DSM戦略は米国系OTTから欧州顧客を奪還することを少なからず意味している。

EUの競争当局はまた、DSM戦略の発表と同日、オンライン・サービスの中の電子商取引分野について包括的な競争法調査を開始すると発表した。EUによる業界固有の競争法調査は、過去にもエネルギー、金融、化粧品などの例があるが、今回の調査は「情報通信」の中の「オンライン・サービス」の一部である「電子商取引」だけに着目している点で、従来の業界調査よりも対象分野が大きく絞り込まれている印象が強い。

以上のとおり、2015年以降のEU(およびその行政機関の欧州委員会 (EC))は、冒頭のNYT紙が報じているような従来の取り締まりについて、それを強化する可能性を秘めた競争法調査を行いつつ、より包括的な汎欧州オンライン戦略(すなわちDSM戦略)を並行的に推進することで、OTTに対する本格的な規制に乗り出す意欲を強めている。DSM戦略の中には、現行の電子通信規制枠組み(直近では2009年に改訂)の7年ぶりの全面的・包括的な見直しが含まれているように、同戦略を構成する16施策の多くは事前規制とも関連している。このように、EUはOTTに関連する「事後規制(競争法など)」のみならず、今まで手薄であった「事前規制(電子通信法規類など)」の整備も視野に入れており、従来の姿勢から明らかに大きな変化が出始めている。

当然、米国側の警戒感はより高まっているが、EUはそれに対処すべく、DSM戦略を発表した直後の2015年5月末、担当のEC委員であるAndrus Ansip副委員長[2]がワシントンDCに飛び、ブルッキングス研究所で「DSM戦略はマスメディアが喧伝するような対米戦略ではないし、欧州の要塞化でもない」と弁明のスピーチを行っている。上述のNYT紙の記事も、オリジナルはDSM戦略の発表直前の昨年4月に執筆されており、今回(2016年6月)の記事は、その後のQualcommの競争法による摘発(2015年12月)などの事実を追加した改訂 (update) 版という珍しい形態を取っている。米国側の本件への関心が引き続き高いことを物語るエピソードと言えるだろう。

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