2017年6月1日掲載 IoT InfoCom T&S World Trend Report

IoT向け通信プラットフォームが主役になる?~情報通信政策の方向



本稿は、「InfoCom T&S World Trend Report」(2017年6月号)からの全文掲載です。

先日、福家秀紀氏(前・駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授)の最新の著書『IoT時代の情報通信政策』(2017年、白桃書房)をようやく読み終えました。この本は福家先生の研究活動のまとめともとれる内容で、この分野を学ぶ学生・研究者ばかりでなく、情報通信産業に携わる、特に若い人達に読んでもらいたい誠に素晴らしいものです。福家先生の前著『ブロードバンド時代の情報通信政策』(2007年、NTT出版)から約10年が経過して、この間の情報通信市場の構造変化の特徴を明らかにして規制政策上の課題を取り上げています。急速に変化する情報通信市場について改めて全体像を把握し、政策上の諸課題を理解する上で大いに参考になりますので、是非一度目を通されることをお奨めします。福家先生は、私と電電公社 (NTT) 入社同期の親しい友人であり、ここ情報通信総合研究所の取締役を経てアカデミアの世界に移られた方で、学問研究の世界からも情報通信事業の実業に対して大変貴重な御指摘や御意見を下さる本当に頼りになる方です。この3月で駒澤大学教授を退職されましたが、引き続き情報通信産業や政策分野で情報発信を続けて下さることを期待しています。

今月の巻頭“論”では、福家先生の著書『IoT時代の情報通信政策』のなかで指摘されている政策上の課題から以下の3項目を取り上げて私なりのコメントを加えてみたいと思います。

  1. 規制の透明性の確保――独立規制機関のあり方
  2. 周波数割当――オークション方式の導入
  3. 対象領域の拡大――物理的ネットワークからコンテンツ、プラットフォーム分野まで


第1の規制の透明性の確保の問題はかねてより我が国の行政のあり方の基本と関連して、産業振興と規制・監督の二重化 / 未分離を指摘するものです。このため時として裁量的行政指導が多用されて産業サイドからは透明性を欠く姿と映ってきました。特に、変化発展の著しい情報通信産業では、イノベーションの芽や流れを歪めないために規制緩和が求められて規制に躊躇することも見受けられましたが、他方で既存のネットワークに対しては事前規制が長く温存されて行政指導による裁量が続いて今日に至っています。そこで産業振興と規制・監督を分離して、前者は内閣にとどめて後者を独立規制機関、例えば公正取引委員会や個人情報保護委員会のような独立委員会に担当させるという考え方です。福家先生は、一般によく言われている「日本版FCC」という言葉に引きずられることなく、情報通信分野のあり方は言論・表現の自由、消費者利益とも密接に関わる重要な問題なので広く活発な議論が行われることを期待すると結んでいます。この点について、私はイノベーションを進め産業振興を図る立場と消費者利益を確保して公平・公正な透明性の高い規制・監督を行う立場とは相反することが多いので、両面をバランスよく推進するためには分離して、一方を内閣に他方を独立委員会の業務とすることに賛成です。事例として、個人情報の保護と利活用を車の両輪として推進するために個人情報保護委員会を設立して保護を明確に打ち出すことで利活用が進み出していることが参考になります。ただ、独立した規制委員会を設ける場合には、既存の通信や放送の分野に限定せず、省庁のさまざまな分野に分散しているコンテンツやプラットフォーム、ビッグデータなどに関しても統合して規制・監督し得る仕組みとすることが求められます。これにより、これまで国内事業者には厳しい規制をしつつ、外国の事業者には限定的な姿勢となってきた、例えばネット上の検索広告などの取り扱いも中立的になると期待します。また、福家先生は行き過ぎた規制緩和がもたらしている、透明性の面で効果の乏しい行政指導の例として、スマートフォン価格の適正化の問題を指摘していますが、これも法改正による必要な規制の導入と透明性の高い規制機関の必要性を示しています。私もこの点については産業振興、競争促進に傾き過ぎた結果ではないかと考えています。規制面からの回復措置が急がれます。また、店頭での特定商品(端末)の販売への加重など適切さを欠くケースが見受けられることに対し、内外製品不差別に公平・中立な立場での規制でないと規制機関の信頼性は失われてしまいます。第1の課題について、私も政党間の争いの種でなく専門家を含めた幅広い議論が巻き起こることを望んでいます。

次に第2の項目、周波数の割当については本書では研究者や専門家の多数意見となっているオークション方式を取り上げています。これについても私は同意見ですが、問題はオークション方式の具体的な制度設計に帰着すると思っています。これまでオークション方式を導入してきた各国では、周波数割当による金額を国家財政上の歳入として最大化のみに力点が置かれてしまい、産業政策上の観点が後退してしまう事例が見られてきました。オークション方式の最大の狙いは、国家財政への短期的な補填ではなく、モバイル通信サービスを担う適当な事業者を公平・公正に選別することにあります。特にオークションによって事業の開始に初期費用として周波数獲得費用を負担することになるので、それに耐え得る事業者を選別する必要があるからです。問題は価格の高騰の結果、この初期負担が過重になって当該周波数を使用するサービス開始が遅れるケースが世界で多発していることにあります。オークション方式を単純な入札方式ととらえず、競争促進の産業政策と透明性の高い規制・監督とが調和した具体的な制度設計を事業の動向に応じてあらかじめ検討しておくことが何より大切であると考えています。モバイルネットワーク事業者の数は現状、世界のほとんどの国で3~4社に収れんしていますので、結果的に3~4社に統合されていく過程を見定めて、オークションの制度設計を行い統合・合併に進む規制も考慮しておく必要があるということです。オークション方式の問題も過去に政治上の政策論争になってきた歴史があるだけに過熱した論争にならないよう注意が必要でしょう。

最後の課題、情報通信政策上の対象領域の拡大の問題は産業振興面からする産業政策上も、消費者利益の確保や競争政策上の規制・監督面からも当然の流れであり指摘のとおりだと思います。しかしながら、行政の分野、特に省庁の所掌領域に触れるだけに簡単に物事が進むとは思えません。情報通信の世界は、歴史的にNTTやNHK・放送会社のように免許を得て事業が行われてきたので、行政・政策の対象領域は物理的ネットワークや放送施設・番組など明確に線引きされてきました。しかし、近年になってブロードバンドが進展し、ITが普及拡大するに伴って従来のネットワーク規制、事業者規制では到底対応できないコンテンツやプラットフォーム、さらにIoT、ビッグデータ、AIなどさまざまな領域が情報通信分野=ICTとして広く意識されるようになってきています。政府レベルではIT戦略本部の取り組みによって新しい試み・取り組みが図られていますが、政府組織の見直しにまで踏み込んだ動きはまだ十分ではありません。第1の課題でみたとおり、独立の規制機関によって規制の透明性を高める際には、ここで取り上げるコンテンツやビッグデータの情報流通と通信プラットフォームまで対象範囲としておかないと意味はありません。今や、eSIMとクラウドを利用したMVNOがIoT向け通信プラットフォームの主役の座を占めようとしている時代の流れにあるのですから、新しい事業戦略も必要ですし、情報通信政策のポイントもそこにあるように思います。成熟化したモバイルアクセス網とクラウドサービスをベースにしてICT資源を契約サービスとして調達すれば、自分で物理的ネットワークを作らずにIoT向けの通信プラットフォームは提供できる時代なのですから尚更です。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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