2025.9.11 DX InfoCom T&S World Trend Report

終活や葬儀のDX ~広がるデステックの市場と課題

Image by dagmarbendel from Pixabay

人生の末期をいかに迎えるか、故人をいかに悼むか――。死は誰にでも訪れる、最も普遍的でありながら、最も重いテーマの一つだ。

日本の高齢化率が年々上がり続ける中、死に対する肯定的な受け止め方も徐々に浸透し、人生をしまう「終活」の市場は拡大を続ける。若い頃から死を意識して備える20代、30代も少なくないという。

そうした「最期」をめぐる一連の手続きや関連分野へのIT導入による新領域「デステック」が昨今にぎわいを見せる。特に、AI(人工知能)技術の進歩が関連サービスの裾野を押し広げている。

本稿では、終活や葬儀など死に関連する産業の動向を俯瞰し、拡大するデステックとその関連市場の展望と課題を考察する。

デステックとは

デステックは、読んで字のごとく、人生の最期、「死(Death)」にまつわる「技術(Technology)」全般を指す新たな産業分野で、葬儀の執り行いやお墓の管理にデジタル技術を導入するといったサービスに代表される。日本に根付いて久しい「終活」におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)も、デステックの一環と言えそうだ。

主に自身で人生のしまい方を考える終活に対し、遺族らが故人を悼む葬儀や法事を含めた分野は「フューネラル(葬祭)ビジネス」と呼ばれる。超高齢社会の継続に伴い、国内の関連市場は1兆円台後半で推移すると見込まれる[1]。関連する市場としては、葬儀に特化したIT分野を「葬テック」と呼ぶ動きも2020年ごろから出始めている。

こうした「死」にまつわる関連市場を広く捉えると、終活や葬儀を含む、より広範で業際的な分野を、「エンディング産業」や「ライフエンディング市場」と括ることができる。日本国内の死亡者数は年間150万~160万人台の高い水準で推移しており、国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年ごろにピークを迎える。やや不謹慎ながらも、「多死社会」の進行とともに、関連市場は活況を呈すると予想される(図1)。

【図1】日本の死亡者数の推計(2021~70年)

【図1】日本の死亡者数の推計(2021~70年)
(出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』「日本の将来推計人口(全国)」をもとに情報通信総合研究所作成)

こうした市場は、海外では「デスケアサービス(Death Care Services)」と呼ばれることも多い。米市場調査会社のmarket.usは、デスケアの市場を「火葬(Cremation)」、「葬儀(Funeral)」、「埋葬(Burial)」、「追悼式(Memorial)」、「事前計画(Pre-Planning)」、「防腐処理(Embalming)」といったセグメントに分け、2024年に1,402億ドルだった世界市場は10年後の2034年までに1.5倍の2,177億ドルまで拡大し、年平均成長率(CAGR)は4.5%で推移すると見込む。セグメント別では、火葬が市場全体の5分の2程度を占め、次いで葬儀が5分の1ほどを占める。日本の終活は「事前計画」と位置付けることができる(図2)。

【図2】世界のデスケアサービス市場

【図2】世界のデスケアサービス市場
(出典:market.us, “Global Death Care Services Market,” Feb. 2025)

おおよその分類では、終活は自身で進める生前の死の準備、であるのに対し、デスケアサービスは、亡くなった後の葬儀などを含む一連の追悼の儀式と言える。デステックは終活やデスケアを包含する市場のうち、ITが関連する分野や導入余地がある分野と捉えることができる。

コロナ禍で定着

デステックの市場は、世界の人口動態に連動して死亡者数が増えるにつれ、当面拡大の一途をたどると見込まれる。要因としては、死亡者数の増加に加え、産業が総じて従来型のシステムで成り立っており、デジタル化の余地が大きいことがある。社会通念上、厳粛に、しめやかに執り行うのが礼儀とされてきた「死」や「葬儀」をめぐる分野は、対面やアナログが前提という暗黙の了解が国内外を問わず広く共有されていたと言える。

しかし、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大により、葬儀や法事が望んでも対面で行えないといった状況が生じた。こうした予期せぬ事態を受け、葬式をライブ配信するなどの「葬儀のデジタル化」が一気に進んだ。

接触制限という不可避的な社会的要請をきっかけに、コロナ禍が収束した現在も、リモートでの葬儀などは引き続き需要がある。遠方にいたり、身体的に外出が難しかったりといった事由で参列できない親族のニーズは、以前から潜在的にあったとみられるが、コロナ禍によりオンラインでの挙行に対するハードルが数段下がったものと考えられる。お悔やみを述べながら手渡しするイメージの強い香典も、オンライン決済で行える仕組みが確立されている。

こうした変化は如実に数字に表れている。

冠婚葬祭互助会のくらしの友が2020年7月に40~70歳代の男女400人を対象に行った調査では、「葬儀のネットライブ配信」に「抵抗がある」(「とても抵抗がある」「抵抗がある」「やや抵抗がある」の合計)と答えたのは75.5%だった。依然低くはないものの、前回コロナ禍前の2018年11月調査時の同85.1%と比べ、9.6ポイント低下し、オンラインでの葬儀に対する許容度が増しているのが見て取れる。また、同じ調査で「SNS 等を活用した訃報・葬儀案内」に関し、「抵抗がある」との回答は60代・70代が各60%前後で、2018年調査に比べそれぞれ10ポイントほど低下している(図3)。

【図3】「葬儀のネットライブ配信」への抵抗・受容感の割合(回答者400人)

【図3】「葬儀のネットライブ配信」への抵抗・受容感の割合(回答者400人)
(出典:くらしの友「『新しい葬儀スタイルに関する意識調査』(2020年7月実施)」2021年1月7日)

概して、コロナ禍を経て、デステックの浸透に対する拒否感の薄れが見られるが、IT化、デジタル化の余地が大きい分野、小さい分野にはばらつきも見られる。例えば、同調査の別の質問で、袈裟を着て読経などをする「ロボット導師」に対しては、全体でも、世代別でも「抵抗がある」が90%を超え、18年と20年の両調査で大きな変化はなかった(図4)。

【図4】「ロボット導師」への抵抗・受容感の割合(回答者400人)

【図4】「ロボット導師」への抵抗・受容感の割合(回答者400人)
(出典:くらしの友「『新しい葬儀スタイルに関する意識調査』(2020年7月実施)」2021年1月7日)

こうした葬儀のオンライン化、デジタル化は世界的な潮流となっている。米市場調査会社Market Growth Reportsは、「デジタル葬儀サービス市場が、コロナ禍やテクノロジー導入の加速といった要因により、急速に進化している。2024年には、世界で年間170万件以上のデジタル葬儀・追悼式が行われ、2021年から39%増加した」と指摘した[2]。

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多様化するサービスと企業

追悼のあり方も多様に

倫理的課題も

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1]矢野経済研究所「葬祭ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)」2023年9月14日 https://www.yano.co.jp/press-release/show/ press_id/3342

[2] Market Growth Reports, “Digital Funeral Services Market Size, Share, Growth, and Industry Analysis, By Type (Online Funeral Planning, Virtual Memorials, Webcasting), By Application (Funerals, Grief Support, Memorial Services), Regional Insights and Forecast to 2169,” July 28, 2025  https://www.marketgrowthreports.com/ market-reports/digital-funeral-services-market-114145

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