2017年6月1日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

MARTECH 2017 San Francisco速報~AdTechからMarTechへ、そしてその後の時代へ



本稿は、「InfoCom T&S World Trend Report」(2017年6月号)からの全文掲載です。

MARTECH2017 MARTECH2017

MarketingとITの融合

本年5月9日から11日まで、サンフランシスコで開催されたMarTech San Franciscoというカンファレンスに参加した。そもそも日本では、この「MarTech(マーテック)」という言葉そのものを聞いたことがある人さえも極めて少ないだろう。

言葉の意味としては、ここ数年話題となっているFinTech(フィンテック)がFinance(ファイナンス)とITが合体した造語であるように、MarTechはMarketing(マーケティング)とITが融合したものとなっている。

AdTechとMarTechのVC出資額の推移

【図1】AdTechとMarTechのVC出資額の推移
出典:「Why Venture Capitalists Are Betting on Marketing Tech Over Ad Tech」(By Jack Marshall, Aug. 26, 2016)

AdTechと何が違うのか?

「それだったら、『AdTech(アドテック)』というのが、既に何年も前からあったじゃないか」と指摘されてしかるべきだ。実は筆者本人も当初は両者を混同していたし、長年ITジャーナリストをしている知人からも「違いは何なのか?」と質問攻めにあったことがある。

AdTechのAd (Advertisement) は「広告」を意味するが、日本ではこれをマーケティングの意味として捉えている傾向がある。

AdTechとMarTech、それぞれに定義で厳密に分類するのは困難であるが、概ね以下のとおりに理解して間違いないと考える。

AdTechとは:

ある商品やサービス等に関する認知獲得のため広告配信に関するITを活用するもの。具体的にはWebメディアそのものや、それらメディアに効率的にクライアントの広告を配信する仕組みが主になっている。

MarTechとは:

上記のAdTechがターゲットにしているのが、クライアントが顧客情報を持たない不特定多数を対象としたサービスであるのに対し、MarTechは、Webページへのアクセスログを含む様々な顧客データをいかに活用するかというというところに主眼が置かれている。こうしたコンセプトのシステム化として長く使われている言葉としてCRM (Customer Relationship Management) がある。筆者の理解ではMarTechは端的に例えれば、「現代版デジタル最大活用CRM」と言っても間違いではないと考える。

参画企業にも違い

AdTechをリードし提供してきたのはWebメディア関連や広告配信ASP企業であるのに対し、MarTechでは、ソフトウェア、特にクラウドサービス関連企業となっている。

市場の期待はMarTech優勢に

急激に影を潜めるAdTech

下のグラフはThe Wall Street Journalが発表した米国のベンチャーキャピタルがAdTechとMarTechそれぞれに出資した総額を表している。

AdTechは2011年の投資が突然ピークを迎え、翌年は急激に減少し、その後も右肩下がりが続いており、2016年には過去10年で最低となった。

MarTechはそれとは違った動きを見せている。MarTech企業に対する投資は増加基調で2014年にピークを迎えAdTech企業に対する投資を上回った。それ以降は減少傾向が続いているが、2016年ではAdTechの2倍以上の投資を未だに集めている。

熱気につつまれるMarTech

筆者は数字以外にも現場の肌感覚を大切にしているのだが、昨年11月にこれらの数字を知らないままに、ニューヨークで開催されたAdTechカンファレンスである「ad:Tech NY 2016」に参加した。正直に言えば、活気のなさと何やらあきらめにも似た業界の雰囲気を痛切に感じた。

一方、今回参加した「MarTech SF」は全くその逆で、活気に満ち溢れていたことを先ずお伝えしたい。

キーノート

年間ほぼ倍々で増加するMarTech企業群

最初のキーノートはMarTechのProgram ChairのScott Brinker氏だった。

同氏はこの業界が年々盛り上がりを見せていることを繰り返し強調。2011年に約150社程度であったMarTech関連企業はその後も年間ほぼ倍々に増加しているという。事務局の発表によれば今年、2017年には5,000社を超える見込みだという。

MarTech企業数の推移

【写真1】MarTech企業数の推移

デジタル時代のマーケティングの本質を漫画で説明

マーケター兼漫画家でもあるTom Fishburne氏が「Adapting a Marketing Mindset for the Modern Digital World」として、一コマ漫画を使ったプレゼンでデジタル時代のマーケティングの心得を解説した。

同氏は、現在はデジタル・マーケティングという言葉が先行しており、マーケティング分野にITの活用が過剰に期待されている事実も挙げながら、「これまでのマーケティングの大御所といったものはもはや存在しない」「テクノロジーはダメなマーケティングを手助けするわけではなく、良いものにさらに素晴らしい結果をもたらす」「最も良いマーケティングはマーケティングだと感じさせない」「一発当てることを目指さないこと、そして何よりも自社ではなく顧客が胸を張れる状態にすることが最も大切」と主張した。

【写真2】講演中のTom Fishburne氏

講演中のTom Fishburne氏

注目はAIとブロックチェーン

既に活用が進むマーケティング分野でのAI

実は、既に人工知能はマーケティングの分野では商用が進んでいる。最も簡単な活用の仕方にWebサイトの最適化がある。例えば、Webサイトの効率性を上げるための、A / Bテストという方法がある。顧客それぞれに別々の、仮にAとBという異なるデザインや訴求方法を提供し、それらの良い方を最終的に組み合わせて利用していくという方法だ。

簡単そうに見えるが階層が深くなるとA / Bテストでもパターンが非常に増えることになる。

5階層あれば、2の5乗となり32パターン、10階層だと1,024の分岐が存在することになる。これらを人間がすべて実施すると当然ながら想像を絶する労力と時間が必要となるが、アルゴリズムに人工知能を使った場合、自動的かつスピーディに難なく結果が出せる。この分野ではAmplero社が目覚ましい結果を出しており、Sprint社のマーケティングで610%のROIを出していることをプレゼンしていたことが印象に残っている。

AI時代のマーケティングを力説(Amplero社)

【写真3】AI時代のマーケティングを力説(Amplero社)

注目を集めるブロックチェーン

個別セッションではここでもブロックチェーンに関する興味が非常に高いことが分かった。

この話題についてはNever Stop Marketing社のJeremy Epstein氏が「Marketing in a Blockchain World」という題で講演を行った。

Jeremy Epstein氏スライドトップ

【写真4】Jeremy Epstein氏スライドトップ

内容は主にブロックチェーン技術の基本的な解説とその可能性についてであり、マーケティング分野での事例については触れられなかったが、聴講者は非常に熱心に耳を傾けていることが察せられた。

同氏からは最後に、ブロックチェーンについてビジネスの情報を引き続き集めること、技術者を育成すること、そしてスマートコントラクトに強い弁護士を早期に見つけることの3つのアドバイスがなされた。

ひしめく出展者達

過去最多の出展者

MarTech分野の企業が急激に増加しているのに合わせて、同カンファレンスへの出展者も著しく増加しているとのこと。

大手は表立って参加せず

クラウドを利用したデジタル・マーケティングツールの分野ではAdobe、OracleそしてIBMが存在する。しかしながら、今回のカンファレンスでは、それら企業が大々的にブースを構えるようなことは全くなかった。

小規模の企業がひしめくブース

前述したように、この業界はソフトウェア開発企業がほとんどで、クラウドでサービスを提供する形式のため、ITの分野としては参入障壁が低いと言える。そのため、各社の展示ブースは小さく、ベンチャーがひしめくように並んでいる状態となっている。

展示スペースに所狭しと並ぶブース

【写真5】展示スペースに所狭しと並ぶブース

考察:今後のMarTech

期待される着実な成長

AdTechについては、以前に記事にしたアドブロックや市場としての成長領域が、Facebook、Googleの寡占状態となっていることは明らかとなっている。その一方でMarTechは、企業が顧客との関係をどう構築するかを模索する領域であるため、これからも終わることはなく、デジタルで情報が入手できる領域がさらに増えるにつれ、市場は着実に成長し続けるだろう。

プラットフォームとしての弱小性

しかしながら、現在MarTechを盛り上げている企業は独自の解析技術を売りにしているものの、本来の意味でプラットフォームとなるには対象領域が限られたものとなっており、1社で顧客が望むマーケティング機能をすべて提供することは不可能となっている。

数年で大手買収と統合が進み安定した市場に

一方でAdobeやOracle、IBMといった大手はマーケティングに必要な機能をすべてセットで提供可能となっている。また、大手も同様にクラウドでサービスを提供していることから、MarTech分野で素晴らしい技術と顧客を持つ企業を買収し、マーケティング・スタックのツールの一つとして自社のサービスに組み込んでいくことは想像するにたやすい。

つまり、顧客のデジタル・マーケティングに対するニーズにより、市場は確実に成長するが、ここ1、2年で現在5,000社を超えるMarTech企業は大手の買収をきっかけに収束が進み、落ち着きのある安定した市場が形成されていくことだろう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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