2019年2月26日掲載 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

コーポレートガバナンス法制、2019年以降に大きな変化



2018年度が終了し、4月からは2019年度が始まります。元号では、平成31年は4月で終わって、新元号が5月から始まるので節目の時を迎えています。ICT分野では、今年は将来に向かって激動に備える年と本誌1月号で指摘しましたが、さらに視野を広げてみると、コーポレートガバナンス関連の会社法制で大きな変化が予定されているので、改めて内容を確認して会社法制と企業経営に関するポイントをまとめておきたいと思います。

まず最初の事項は、2月に法制審議会が企業統治関係の会社法制改正要綱を法務大臣に答申していることです。これは既に1月16日に会社法制(企業統治等関係)部会から法制審総会に会社法改正要綱が報告されていますので、その内容が確定したということです。コーポレートガバナンスに関する主な項目は、(1)株主総会資料の電子提供制度の導入、(2)株主提案権行使を10に制限、(3)会社役員の報酬等に関する情報開示、(4)社外取締役の義務付け、の4点に集約できます。この会社法改正法案は2019年の通常国会、または秋の臨時国会に提出予定で2020年の施行を目指していますので、早ければ来年度には株主総会の招集や運営に大きな変化があり得るし、ICTの利活用の検討をあらかじめ進めておく必要がありそうです。

特に、株主総会資料の株主への提供では狭義の招集通知と議決権行使書面を除いて、その他の書類は電子提供が原則となり、これまでのような書面交付は例外的に基準日までの事前の請求者に対してだけ行えばよいことになります。作成・印刷や郵送などのコスト面の合理化が図られるのはもちろんですが、電子的な作成となると動画URLの張り付けなど、会社情報提供の充実が図られるので、株主との対話が一層進んで株主総会での議論の活性化が図られるものと期待できます。併せて、これまでにたびたび指摘されてきた株主総会の運営を混乱させている、一人で多数の株主提案権を行使する事象は、提案数が10に制限されるので、ようやく収まるのではないかと企業関係者は期待しています。

次いで、社外取締役を置くことの義務付けは、既に証券取引所の上場規則で複数の独立社外取締役の選任が求められていて、東証上場会社では既に8割以上で複数者が選任されており、配置すること自体には特に大きなインパクトはなくなっています。ただし、今後は複数人の起用でも不祥事が続くだけに、社外取締役の実効性が焦点になってくると想定できます。

最後に、企業関係者が大きな関心(懸念?)を抱いているのは前述③の会社役員の報酬等に関する情報開示についてです。今回の会社法(企業統治等関係)の改正要綱では、事業報告による情報開示に関する規定の充実を図ることとし、具体的に、会社役員の報酬等の決定方針、取締役会の決議による報酬等の決定の委任、業績連動報酬等に関する事項や報酬等の種類ごとの総額などを開示することを規定しています。しかし、会社法改正より先に、本年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書(今年3月末決算会社からが対象)から適用される「企業内容等の開示に関する内閣府令」(2019.1.31公布・施行)の中にある、“建設的な対話の促進に向けた情報の提供”の項目に3月決算会社の関係者は早急な対応を迫られる事態となっています。実務的には、上場会社が金融商品取引法上、決算後に取りまとめて開示する義務のある有価証券報告書の記載事項の追加に過ぎません。しかし、その対象と内容は、最近のコーポレートガバナンスコードに基づく報告書(CG報告書)の規制の流れに沿ったものとなっていて、こうした役員報酬に関するもののほか、政策保有株式や会計監査(監査役会)の状況などの追加記載が必要となっていますので、要注意です。

政策保有株式の取り扱いについては、上場各社でCG報告書が昨年中に提出(公表)されていますので、株式市場や対外関係の配慮から考え方が示されているところですが、役員報酬や監査役会については会社の内輪のことと捉えて対応が十分になされて来たとは言えない状況です。特に、CG報告書がソフトローに拠るcomply or explainベースの記載であるのに対し、内閣府令による有価証券報告書の記載事項は金融商品取引法を根拠に持つだけに十分に注意を払う必要があります。証券取引所上場規則に基づくCG報告書とは違って、自社の取り組みの考え方をexplainすればよいとはなりません。直近の日産自動車トップ幹部に係る有価証券報告書の虚偽記載(金商法違反)事案もあるので懸念が先立ちます。

役員報酬に係る有価証券報告書の追加記載事項の主なものは、業績連動報酬とそれ以外の報酬の支給割合、業績連動報酬の指標や額の決定方法、役員報酬算定の役職ごとの方針、業績連動報酬の指標目標と実績、役員報酬の額や算定方針の決定権者と権限の内容など、非常に詳細な情報開示が記載様式上、定められています。これは、役員報酬の情報開示を一層進めることで、企業幹部(トップ)に対するお手盛り報酬への世間(株主だけではなく)の不信感を払拭する狙いがあり、さらに機関投資家に対するスチュワードシップコードの徹底と相まって、株式市場を活性化しようとする政策意図はよく理解できるところです。

しかし、本当に役員報酬の決め方、決定の手順や方法、決定権者の権限の内容等まで開示して、取締役会や社長などCEOの判断や裁量を実質的に制約してよいものかどうか、私には疑問が残ります。欧米の企業経営執行責任者と取締役会との関係、取締役会(役員)と株主総会(株主)との権限分立関係などと日本での企業経営のあり方、会社幹部昇進の仕組み、役員登用の方法等は異なる風土・環境の下にあります。特に、企業トップにとっての最大の資質・権能は会社を巡る制度や規則によるよりむしろ、社員・従業員や取引先などのステークホルダーからの先人としての人間的な信頼にあり、経歴や実績に裏付けられた活動に拠るものであると私は思っています。あらかじめ指標を決め、目標を設定して実績を計測し、報酬を算定すればそれでよいとはなり得ません。それでは目標の短期化と達成手段を問わない企業経営に陥ることになります。

要は、お手盛り経営排除のためには、企業経営幹部に対し常に緊張関係を強いる存在を維持する仕組みが必要なのです。過去には、監督官庁やメインバンク、労働組合などが実質的にその機能を果たしてきましたが、今は、自律的に社外取締役と社外監査役がその役割を負わなければならないと考えています。社外役員は煙たい憎まれ役でいることが適任なのです。

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