2021.11.11 メディア2030 InfoCom T&S World Trend Report

2020年のゲーム市場とGoogleやMicrosoftの動きから考察するクラウドゲーム市場

昨年、GoogleやMicrosoftに続いてFacebook やAmazonがクラウドゲーム市場に参入した。通信技術の進化やゲームプレイ人口の増加により、クラウドゲームに参入する企業が増えている。動画配信サービスを提供するNetflixも2022年頃にはゲーム市場に参入する可能性があり、今後もその動向に注目が必要だ。

それぞれの企業がサービスを充実させようとしているが、Microsoftは自社スタジオ制作のオリジナルタイトルを提供することで他サービスとの差別化を図っている。同様にStadiaのゲームスタジオでオリジナルタイトルを制作するとしていたGoogleは、2021年2月にロサンゼルスとモントリオールに位置する自社のゲーム制作スタジオを閉鎖し、オリジナルゲームを開発するという戦略を大きく変更した。

クラウドゲーム市場は拡大が期待されながらも、いまだに大きな市場にはなっていない。本稿ではゲーム市場全体の動きやGoogle、Microsoft等がクラウドゲームを活用して目指すビジネスについて解説し、新規参入が相次ぐクラウドゲーム市場の今後の動きについて考察する。

2020年のゲーム市場

新型コロナウイルスの影響による巣ごもり消費の拡大はゲームコンテンツ市場にも大きく影響を与えた。2020年のゲーム市場を支配したのは間違いなく任天堂であり、2020年3月に任天堂から発売された「あつまれ どうぶつの森」は発売当初から爆発的な売れ行きを記録し、年間販売本数は900万本を超えると推計されている。それに伴い、Switchの販売台数も伸びた。

2020年11月にはPlayStaionとXboxの新機種にあたる「PlayStation 5」と「Xbox Series X/S」が発売されたが、機器の供給不足に陥ったため、十分な台数を販売することができず、現在も品薄状態が続いている。

株式会社角川アスキー総合研究所の「ファミ通ゲーム白書2021」によると、2020年の世界のゲームコンテンツ市場規模は前年比約131.6%の20兆6,417億円と推計されている(図1)。特にアジアや北米での成長が著しく、北米ではPCゲーム市場が家庭用ゲーム市場を上回る成長率を記録している。

【図1】世界の地域別ゲームコンテンツ市場

【図1】世界の地域別ゲームコンテンツ市場
(出典:角川アスキー総合研究所『ファミ通ゲーム白書2021』(2021年7月))

同様に国内のゲーム市場規模も成長しており、2020年に初めて2兆円を突破した。そのうち、オンラインプラットフォーム市場が1兆3,164億円となっており、国内のゲーム市場の大半を占めている。また、2020年の国内クラウドゲーム市場規模は15.3億円と推計され、わずかに増加している(図2)。2024年には137億円を超えると推計されているが、本格的なクラウドゲーム市場の立ち上がりにはまだ時間がかかると見られている。

【図2】国内クラウドゲーム市場規模推移

【図2】国内クラウドゲーム市場規模推移
(出典:角川アスキー総合研究所『ファミ通ゲーム白書2021』(2021年7月))

インディーゲームの躍進

近年のゲーム市場の注目すべき動きとしては、インディーゲームの躍進があげられる。2020年にリリースされた『Fall Guys』や『Among Us』がブレイクしたのは記憶に新しい。ゲームエンジンの進化やライブラリの共通化、ゲームストアのオープン化、決済プロセスの進化などがこれを後押ししているとされる。また、以前はコンテンツのプロモーションにもそれなりの資金が必要であったが、昨今の動画配信サービスの台頭により、プロモーションも比較的簡単かつ安価に行えるようになっている。最近増えているプロモーション手法が人気のあるストリーマーにゲームを先行プレイしてもらい、その様子をライブ配信させるというものだ。人気ストリーマーの中には1,000万人を超えるチャンネル登録者を保有する者もいるため、状況次第でTV広告を打つよりも効果的に宣伝することが可能だ。今後のゲームのプロモーションでは、人気のストリーマーを集めることや宣伝するゲームに合ったストリーマーを選ぶことなどが重要になりそうだ。また、クラウドゲームの普及はゲームの販路を増やすという点でも、インディーゲームの更なる躍進につながるのではないだろうか。

ポータブルゲーミングPC「Steam Deck」の開発

これまでゲームはコンソールやPCでプレイするものが主流だったが、上述の『Among Us』などに見られるように、近年は持ち運びができるモバイル端末でプレイするゲームが増えている。

大手デジタルゲームストアSteamを運営するValveは2021年7月にポータブルゲーミングPC「Steam Deck」を開発していることを発表した。これにより、ユーザーはPCゲームを、場所に関わらず手軽に遊ぶことができるようになる。2021年12月に欧米(米国、カナダ、EU諸国、英国)で、その他の地域では2022年に発売開始予定だ。価格は64GBモデル(eMMC)が399ドル、256GBモデル(NVMe SSD)が529ドル、512GBモデル(NVMe SSD)が649ドルとされている。OSにはLinux系の自社製OS「SteamOS」を採用しており、既にSteam上にあるSteamOS用のLinux向けゲームに対応していることに加えて、Windows向けゲームにはValveが開発するエミュレーターを通じて対応する予定だ。ユーザー自身のSteamアカウントと同期することで、PCのSteam上で所有するゲームをSteam Deck上でプレイすることができる。

また、Steam Deckではクラウドゲームサービスの利用もできる。MicrosoftのXbox事業責任者のフィルスペンサー氏はSteam DeckでMicrosoftのクラウドゲームサービスが快適に動作することを公表しており、これがウェブブラウザとアプリのどちらを使用してのことかは不明だが、いずれかの方法によりMicrosoftのクラウドゲームサービスもSteam Deckで動作するということになる。

【図3】Steam Deck

【図3】Steam Deck
(出典:Steam)

Steam Deckに象徴されるように、これまでPCやコンソールで遊ぶものだったハイクオリティなゲームをモバイル端末で遊ぶ流れは加速しており、今後、コンソールやプラットフォーム提供事業者が競争に勝つためには、スマートフォンでモバイルゲームをプレイするユーザーをSteam Deckのようなモバイル端末やクラウドゲームサービスに取り込んでいくことが必要となるだろう。

クラウドゲーム普及の障壁となるApp Storeにおけるクラウドゲームアプリの規制

2020年にクラウドゲーム市場の発展を妨げる出来事があった。AppleがApp Store上で、クラウドゲームアプリを配信することに対して規制をかけたのだ。2020年9月にAppleはApp Store Reviewガイドラインを改訂し、「Streaming games」の項目を追加した。これは当時サービスを開始していたStadiaやGeForce Now、Microsoftのクラウドゲームサービスに対する規制となっている。AppleはStreaming gamesに記載されるすべてのガイドラインを遵守する限りにおいて、App Storeにおいて、クラウドゲームアプリの提供を認めるとしてた。

上記ガイドラインの内容は2点ある。1点目は提供されるすべてのクラウドゲームは個別のアプリとしてApp Storeに提出され、アップデートなども個別に提出される必要があるということだ。また、それぞれのクラウドゲームアプリは個別のApp Store製品ページを準備して、検索やランキング、レビュー・評価の対象にできるようにする必要がある。2点目は、カタログアプリとして多数のクラウドゲームを一つのアプリ上で提供する場合においても、上記と同様に個別のゲームアプリページを準備し、カタログページからそれぞれのアプリへリンクさせる必要がある。また、サブスクリプション費用の支払いには「Appleでサインインする」「App内課金を使用する」オプションを提供しなければならない。

Netflixでドラマや映画を視聴する時のように、一つのカタログアプリの上で即座に目的のゲームを起動できることが強みの一つとなるクラウドゲームだが、App Storeの規制により、App Store上でのクラウドゲームアプリの提供には制約が生じることとなった。これらのガイドラインを回避するために、MicrosoftやGoogle、NVIDIAなどのクラウドゲームプラットフォーマーはiOS向けにはApp Store上でのアプリの提供を諦め、ウェブブラウザを通して、クラウドゲームサービスを提供している。

このようにゲーム市場における様々な動きに伴い、クラウドゲーム市場を取り巻く環境も変動を続けている。以降では各クラウドゲームサービスの2020、21年の動向について解説する。

Stadiaゲームスタジオを閉鎖し、ゲームタイトルの開発を諦めたGoogle

2019年11月にサービスが開始されたGoogleの Stadiaでは、当初、2019年9月に開設したStadiaのゲームスタジオで制作するオリジナルゲームをプラットフォーム上で販売していくとされていた。しかし、Googleは2021年2月にモントリオールとロサンゼルスに位置するゲームスタジオを閉鎖することを発表、オリジナルゲームを一つも開発することなくスタジオを閉鎖し、社内におけるゲームの開発を中止した。同社はStadiaについてはクラウドゲームのプラットフォームとして、サードパーティ製のゲームを調達するという方向に舵を切ったと考えられる。

Googleは2021年7月にゲーム開発者向け会議「Google for Games Developer Summit 2021」で、Stadiaの手数料引き下げなど、開発者側の増収を促進するプログラムを複数発表しており、サードパーティ製のゲームの調達促進に向けて動き出している。同会議でGoogleが発表した開発者に対する手数料の引き下げが特に注目を集めており、2021年10月1日以降にStadiaストアでリリースされるタイトルについては売上が300万ドル(約3億3,000万円)に達するまでは手数料を15%に引き下げるとしている。なお、引き下げ以前の手数料については明かされていないが、30%程度であると考えられている。300万ドルを超えた売上については引き下げ以前の手数料が課されることになる。Googleはこのプログラムは2023年末に終了するとしている。

また、Google StadiaのサブスクリプションプランStadia Proでは特定タイトルが遊び放題になるが、遊び放題になるタイトルに関しては収益を「セッション日数」[1]に応じて開発者に還元することとしている。また、GoogleはStadia Proに新たに加わるタイトルに対し、Stadia Proのサブスクリプション収益の70%をセッション日数に応じて分配する予定だ。

他にもGoogleは、Stadiaの「Click to Play[2]」機能を強化するため、Click to Playにアフィリエイト機能を持たせることを発表した。新たなユーザーがClick to Playを通じてStadia Proに加入した場合、リンク作成者は1ユーザーあたり10ドルを受け取れる仕組みで、アフィリエイトによる収益の分配を受け取るには、それにより得た収益が500ドルに達する必要がある。YouTubeのみならずその他のSNSなどにリンクを貼ることで、Stadiaへのアクセス機会を広げ、利用者を増やすのが狙いだ。

Googleは2020年12月に、新たに欧州の8カ国をStadiaのサービス提供地域に加えている。しかし、サービス提供地域は現在欧米の22カ国のみにとどまっており、新たなサービスの提供などの動きも見られないなど、クラウドゲーム事業を拡大させることに対してそれほど意欲が感じられない状況となっている。

日本でクラウドゲームサービスを開始したMicrosoft

Microsoftはクラウドゲームサービスを2020年9月から開始しており、2021年10月1日より日本国内でのサービスを開始している。Microsoftはクラウドゲームサービスを「Xbox Game Pass Ultimate」契約者に追加料金なしで提供しているが、Google Stadiaとは異なり、クラウドゲームサービス対象タイトルは新たに購入する必要はなく、定額遊び放題となっている。また、この中にはXbox Game Studiosで制作されたオリジナルタイトルも含まれている。Xbox Game Pass Ultimateのゲームライブラリに表示されるゲームタイトルで、ストリーミング対象のものにはクラウドマークが表示され、それを選ぶことで即座にゲームがストリーミングされる仕組みとなっている。

Microsoftは家庭用ハードウェアであるXboxも販売しているが、2021年のホリデーシーズンにはXbox OneやXbox X/Sなどのコンソールに対してもクラウドゲームサービスの提供を開始することを発表しており、できるだけ多くのデバイスからクラウドゲームにアクセスできる環境の構築を目指している(現在はWindows PC、タブレット、スマートフォンでもアクセス可能)。また、Microsoftは自社のクラウドゲームサービスに対応したスマートテレビの開発やXboxゲームストリーミングスティックの開発を進めており、近い将来それらのデバイスも市場に送り出すつもりだ。

さらに、Microsoftは設備のアップグレードも進めている。Microsoftはクラウドゲームサービス開始当初、Azureデータセンターに設置されているブレードサーバーをXbox One Sハードウェアとして活用していた。しかし、それらの設備をアップグレードすることを発表し、最新機種であるXbox Series Xのハードウェアに入れ替え、サーバーの更新を進めている。これにより、Microsoftのクラウドゲームのロード時間などは大幅に短縮され、グラフィック表示やレイテンシも改善されることになる。現在Microsoftは2021年10月1日から新たにクラウドゲームサービスの提供を開始した日本、豪州、ブラジル、メキシコを含めた26カ国でサービスを提供している。

Microsoftは既存のゲーム事業と保有する強靭なクラウドインフラを活用して、クラウドゲーム事業をうまく拡大している。同社はクラウドゲームサービス開始前からゲームのサブスクリプションサービス「Game Pass」を提供していたが、クラウドゲームを新たなサービスとせず、Game Passの中に組み込むことで、自然に会員数を伸ばすことに成功している。またこれらの動向から、Microsoftがフィルスペンサー氏の過去の発言である「Microsoftのクラウドゲームはコンソールを今すぐに代替するものではなく、ユーザーにゲームをプレイする場所の選択肢を増やすためのものである」という戦略に沿って事業を進めていることがわかる。しかし、将来的にはクラウドゲームがメインのプラットフォームになることが十分に考えられ、Microsoftは着実に準備を進めている。

Amazon Lunaベータ版のサービス開始

LunaはAmazonが提供するクラウドゲームサービスで、2020年10月にサービスが開始された。現在は米国内のみでベータ版のサービスが提供されている。他のクラウドゲームサービスと異なる点は、Lunaでは提供されているチャンネルをサブスクライブし、ゲームをプレイする点だ。現在、Lunaでは3つのチャンネルが提供されており(表1)、それらからプレイしたいゲームがあるチャンネルをサブスクライブする。3チャンネルすべてをサブスクライブすることも可能だ。

【表1】Amazon Lunaで提供されているチャンネル

【表1】Amazon Lunaで提供されているチャンネル
(出典: Amazon Lunaのホームページをもとに筆者作成)

Amazonは、GoogleがStadiaとYouTubeの機能を連携させているのと同様に、LunaとTwitchの機能を連携させている。Luna上でTwitchのライブ配信動画などを見ることができ、ユーザーは好きなストリーマーによるTwitch上のゲームプレイ配信動画を見ている際に、Luna上で「Play Now」ボタンを押すことで、同じゲームを即座に起動し、プレイすることができる。また、Lunaコントローラー(Luna専用のコントローラー)を直接サーバーに接続することで、Bluetoothでローカル接続する場合と比較して、17-30ms程度入力操作遅延を減少させることができる。他にもLunaコントローラーをAlexaと接続することができ、ユーザーはボイスコントロールによりゲームを起動することもできる。AmzonはLunaの対象機器も拡大させており、2021年2月からはFire TVにも対応している。LunaアプリをFire TVでダウンロードすることで、ゲームをプレイすることが可能となっている。

現在は米国内でベータ版が提供されているのみであるため、利用者は限られているが、Amazonが既存のクラウドインフラを活用して、サービス提供地域を拡大させ、Amazon Prime VideoなどとLunaを組み合わせた、総合的なエンターテインメントプラットフォームをユーザーに提供する日はそれほど遠くないのかもしれない。

GeForce Nowのサービス提供スキームと国内における新プランの導入

NVIDIAが提供するクラウドゲームサービスGeForce Now(以下、「GFN」)はグローバル規模でサービスが提供されている。他のクラウドゲームサービスと大きく異なる点は2点ある。

1点目は米国や欧州ではNVIDIAが直接ユーザーにGFNのサービスを提供するが、アライアンスパートナーが存在する国では、そのアライアンスパートナーによりサービスが提供されることだ(図4)。日本ではソフトバンクとKDDIがアライアンスパートナーとなり、サービスを提供している。

【図4】NVIDIAのサービス提供スキーム

【図4】NVIDIAのサービス提供スキーム
(出典:NVIDIAの公開情報をもとに筆者作成)

2点目はユーザーがSteamやEpic Gamesなどの大手デジタルストアで既に保有するゲームタイトルを、GFN上でプレイすることができる点だ。ユーザーはGFN上でSteamなどのアカウントをリンクさせれば、ゲームをプレイすることが可能だ。そのため、Steamなどで所有するゲームタイトルについては再度購入する必要はない。

GFNは2021年3月には会員が1,000万人に近づいていることを発表しており、2020年2月の正式サービス開始から1年で大幅に会員数を増やしている。国内では、ソフトバンクが提供するGFN Powered by Softbankは2021年6月から無料プランを新設し、それと同時に「エンタメ特典」の提供を開始した。GFN Powered by Softbankにはソフトバンク以外のキャリア利用者であっても利用登録することができるが、ソフトバンク利用者が、プレミアムプランの利用登録をした場合には、エンタメ特典が提供される。エンタメ特典はプレミアムプラン料金の20%(360円相当)がPayPayボーナスで毎月もらえるサービスで、ソフトバンクユーザーがGFNをより利用しやすくすることを目的としたサービスとなっている。

【表2】NVIDIAの提供プラン

【表2】NVIDIAの提供プラン
(出典:NVIDIAの公開情報をもとに筆者作成)

Netflixのゲーム市場参入

動画配信サービス大手のNetflixもまた、ゲーム市場への参入を目指して動いている。2021年7月には正式にゲーム事業へ参入することを発表しており、まずはモバイル向けのゲームに注力するとしている。Netflixは以前からゲーム業界を意識しており、過去には「Fortniteとの間でユーザーのモバイルディスプレイの奪い合いが起きている」との発言もあった。

Netflixは北米地域でのストリーミングサービスの新規契約者数獲得に難航しており、既存顧客を自社サービス内にとどめておくためにも、新たにゲーム事業を開始しようとしているとも考えられる。また、Netflixがクラウドゲームとしてゲームを配信する場合は既存事業とも相性がよく、シナジーを効かせた事業展開ができるだろう。

Netflixはゲーム事業参入発表後の2021年8月にポーランドで、Android用のモバイルゲームを会員向けに無料で提供開始したことを発表している。Netflixの人気コンテンツである「Stranger Things」を題材としたゲームで、「Stranger Things: 1984」と「Stranger Things 3」の2タイトルをポーランドのGoogle Playストアで公開した。現地のNetflix会員は広告なしでゲームをプレイでき、現在はポーランドに加え、イタリア、スペインで同ゲームが提供されている。しかし、Google Stadiaがオリジナルゲームを開発しようとして、一本も開発できずに失敗したように、ゲームの開発には期間と資金が必要となり、リスクもある。今後もNetflixのゲーム事業動向には注視が必要だ。

おわりに

ゲーム市場全体としてはコロナ禍による追い風の影響が大きく、グローバル、国内ともに市場規模が拡大している。また、国内におけるゲーム人口は5,000万人を超えており、着実に増加している。国内のゲーム人口ではスマートフォンのモバイルアプリゲームをプレイする人口が最も多く、それにコンソール、PCゲームが続く。モバイルアプリゲームの利点は場所を選ばず、どこでも遊ぶことができる手軽さにあるが、クラウドゲームは、同じような手軽さでPCやコンソール用のハイクオリティなゲームを、モバイル端末上で遊ぶことができる可能性を秘めている。また、クラウドゲームではゲームの処理がサーバー上で行われるため、ユーザーがチート[3]をすることが不可能となる。そのため、ユーザーの不正防止にも役立ち、e-Sportsなどでも活用される可能性がある。

クラウドゲーム市場の立ち上がりにはまだ時間がかかりそうだが、各プラットフォームの動向を見ると、MicrosoftとNVIDIAではサービス提供地域を増やし、会員数の増加や新たなプランの提供が見られる。また設備の更新なども行われているため、クラウドゲーム事業に力を入れており、比較的好調であると考えられる。Googleはゲームスタジオを閉鎖し規模縮小しているのに加えて、新たなサービスの提供なども特に見られず、新しい動きもないため、不調という印象だ。

現時点でのクラウドゲームはライトユーザーに受け入れられるレベルであるのは間違いないが、コアゲーマーにサービスを訴求していくにはレイテンシの改善などが必要だ。今後はエッジクラウドを活用し、よりユーザーに近い位置でデータを処理するなどしていく必要がある。また、同時に、事業者はクラウドゲームサービスの訴求を進める必要があるが、ストリーマーをうまく活用したプロモーションを使えば、一層サービスの認知を高めることができるだろう。

市場が大きく成長するであろう5~10年後に向けて、各クラウドゲームプラットフォームはレイテンシを含めた、サービスの改善を進めている。Microsoftが提供するクラウドゲームが他のサービスよりも一歩進んでいるように見受けられるが、今後Netflixの参入可能性などがあり、市場がどのように動くのか、新たな動きに注目したい。

【表3】クラウドゲーム各サービスと市場の外観

【表3】クラウドゲーム各サービスと市場の外観
(出典:各種公開情報をもとに筆者作成)

[1] 1人のユーザーがStadiaでゲームをプレイした日数のこと。1日に2回プレイしてもセッション日数は1日となる。

[2] URLをクリックすることで即座にStadiaでゲームをプレイできる機能。YouTubeやTwitter等のSNSにリンクを貼ることができる。

[3] コンピューターゲームにおいて、プログラムを変更するなどし、ゲーム制作者の意図しない不正な動作を行わせること。

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