2021年12月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

デジタル田園都市国家構想は期待できるか



岸田政権の発足後、複数の会議が設置されている。そのうち「デジタル田園都市国家構想実現会議」「デジタル臨時行政調査会」の2つが「デジタル」に関係するものである。前者は、デジタルの実装による地方の活性化の推進、後者はデジタル化を前提とした規制や行政の改革という、両輪からデジタル化の推進を検討する枠組みとなっている。以前から設置されている「デジタル社会推進会議」「行政改革推進会議」「規制改推進会議」との関係も気になるところではあるが、岸田政権においても「デジタル」が政策の重要な柱に置かれていることは確かなようだ。特に「デジタル田園都市国家構想」は、岸田首相の所信表明演説[1]でも、「新しい資本主義」の成長戦略の2番目の柱とされ、看板政策として掲げられている。

会議名会議の目的
デジタル田園都市国家構想実現会議地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、構想の具体化を図るとともに、デジタル実装を通じた地方活性化を推進する
デジタル臨時行政調査会デジタル化の急速な進展が世界にもたらす根本的な構造変化、発展可能性の拡大を踏まえ、デジタル改革、規制改革、行政改革に係る横断的課題を一体的に検討し 実行することにより、国や地方の制度・システム等の構造変革を早急に進め、個人や事業者が新たな付加価値を創出しやすい社会とする
岸田政権発足後に設置された「デジタル」に関する会議
(出典:各会議第1回会議資料[2]から抜粋)

 

デジタル田園都市国家構想は、先述のとおり、軸足は地方の活性化に置かれている。源流に大平正芳元首相が提唱した「田園都市国家構想」[3]があると言われている。「デジタル田園都市国家構想」は、与党内で温められてきたコンセプトのようであり、自由民主党デジタル社会推進特別委員会(事務局長:牧島かれん現デジタル大臣)において、各方面のヒアリング結果も集約して『デジタル・ニッポン2020 ~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想~』(2021年6月)という191ページにも及ぶ提言書がまとめられている[4]

ちなみに「田園都市」とは、元々は1850年ロンドン生まれのエベネザー・ハワードが1902年(元となった著作は1898年)に著した“Garden Cities of To-morrow(『明日の田園都市』)”で提唱した都市像“Garden City”の訳語である。産業革命後、人口集中により環境が悪化し都市問題を抱えていたロンドンを憂いて提唱した都市像であり、軸足は地方というより都市問題の解決にある。このような都市像は、提唱だけで終わってしまうケースも間々あるが、レッチワース、ウェリンといった都市にて実現され、世界の都市計画にも影響を与えている。この「田園都市」という言葉は、我が国では、都市的要素と農村的要素の「いいとこどり」をした都市・地域像を示す言葉として目にする。今回もこの流れである。

さて、地方の活性化を目的とした、地域×ICTに関する政策は、我が国では40年近く取り組まれてきた。1980年代のいわゆる「ニューメディア・フィーバー」下において、旧郵政省の「テレトピア構想」、旧通商産業省の「ニューメディア・コミュニティ構想」に代表されるような各省庁が競いあった地域情報化政策が端緒と言える。当初は情報通信基盤自体が未整備であったため、主に基盤整備に力点が置かれていたが、以後その利活用の側面が重視されるようになった。近年では、「地方創生」の流れの中で、ICTを活用して地域の課題解決や地方の活性化に向けた取り組みが進められてきた。

今回の「デジタル田園都市国家構想」は、どのようなことを目指しているのであろうか。2021年11月11日に開催された第1回デジタル田園都市国家構想実現会議で、岸田首相は、「デジタル田園都市国家構想は、『新しい資本主義』実現に向けた成長戦略の最も重要な柱です。デジタル技術の活用により、地域の個性を活かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現してまいります。同構想実現のため、時代を先取るデジタル基盤を公共インフラとして整備するとともに、これを活用した地方のデジタル実装を、政策を総動員して支援してまいりたいと考えています。」とし、以下の5つの方針[5]を説明している。

  1. デジタル庁が主導して、自治体クラウドや5G、データセンターなどのデジタル基盤を整備
  2. デジタル基盤を活用した、遠隔の医療、教育、防災、リモートワークなどを地方における先導的なデジタル化の取組として支援
  3. 地方創生のための各種交付金のほか、今回の経済対策で新しく創設するデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用
  4.  デジタル臨調やGIGAスクール、スーパーシティ構想、スマート農業等の成果も活用
  5. 誰一人取り残さないよう、デジタル推進委員を全国に展開

現時点では、この粒度の情報であり、各省庁の予算要求も進んでいる時期でもあり、正直なところ、内容的にはこれまでの政策の延長という印象である。新しい内容としては「デジタル田園都市国家構想推進交付金」が創設されるという点である。2021年度補正予算案には、3の「デジタル田園都市国家構想関連地方創生交付金(仮称)〔660億円〕」が計上されており[6]、これが一番の目玉となっている。バラマキで終わらないよう、メリハリのある使い方がされることを期待したいところである。

1については、自治体のシステム標準化・共通化とガバメントクラウド移行は既定路線であるが、「データセンター」との発言もあり、地方の活性化という観点では、地域企業がどう関われるのかも気になる。光ファイバー等の情報通信インフラ整備は着々と進められてきているが、離島等では依然格差が残る。5G含め、地域の事情を踏まえた合理的な方法で整備が進められることを期待したい。

また、地域にとっては、どのように地域の課題を解決するか、2の取り組みが一番の知恵の絞りどころである。また、よく言われることだが、国の支援の終了後に自走できる仕組み作りや、地域や社会への定着が重要である。また、1と2の取り組みをどううまく連動させるかも政策の打ち方としてはポイントであろう。

4のデジタル臨調はこれからであり、GIGAスクールも端末配備は先行したが多くの地域で活用は途上と考えられる。スーパーシティも採択が遅れ本格的には動いていない。全体的にこれからで、言い方を変えると、本構想の推進に合わせてコーディネートの余地があるとも言える。

5の人材確保に関しては様々な支援対象を考える必要があるが、自治体においては、デジタル・ガバメント実行計画、自治体DX推進計画に示された2025年度までの実施事項が多く、対応する人的リソース確保に苦心されている声をよく耳にする。特別交付税措置等の支援措置はあるが、人材自体が民間を含めた取り合いとなっている印象である。自治体のICT人材の育成・確保は、短期的、長期的観点から考えていく必要がある。

いろいろ思いを巡らせつつ過去を振り返ると、地域×ICTの取り組みは、必ずしも成功してきたものばかりとは言えない。「距離を超えるICT」を活用して地域間格差を是正する、といったことは何十年と言われ続けてきたが、必ずしもそのとおりとはならなかった。しかし、現在は、従来とは明らかに違う局面にある。新型コロナ禍は、多くの社会的犠牲をもたらしているが、ICT活用の観点では、図らずも我が国のデジタルの取り組みの遅れを露呈させたと同時に、有無を言わさずその利活用が進んだ。社会にその経験が確実に積まれている。この機を捉えて、上手に政策を打つことによって、地域社会に根付く取り組みを期待したい。

年内を目途に、デジタル田園都市国家構想の具体的施策および中長期的に取り組んでいくべき施策の全体像がとりまとめられることになっている。本稿が読者の目に触れる頃には、構想のより具体的な姿が示されているだろう。新年に際し、2022年こそは新型コロナを克服し、地域×ICTの取り組みが一層成果を上げ、日本中が元気になる年となることを祈念したい。

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1008shoshinhyomei.html

[2] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/pdf/konkyo.pdf 
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20211116_meeting_extraordinary_administrative_research_committee_02.pdf

[3] 大平正芳元首相は、田園都市国家構想について、第87回国会における施政方針演説で「私は、都市の持つ高い生産性、良質な情報と、民族の苗代ともいうべき田園の持つ豊かな自然、うるおいのある人間関係とを結合させ,健康でゆとりのある田園都市づくりの構想を進めてまいりたい」と述べている。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1980/s55-shiryou-10101.htm

[4] https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/200257_1.pdf

[5] https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202111/11digitaldenen.html

[6] https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2021/20211125201916.html

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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