能登半島地震・羽田空港航空機事故で見えた課題
2024年は、衝撃的な災害から始まる年となってしまった。災害はまさに、いつ、どこで起きても不思議ではないことを再認識させられた。
元日に起きた令和6年能登半島地震では、たくさんの方が亡くなられた。また、その翌日の2日に起きた羽田空港での航空機衝突事故では、海上保安庁の職員5名が亡くなった。謹んでお悔やみを申し上げるとともに、被災された多くの皆様に心よりお見舞いを申し上げる。
能登半島地震の特徴と見えた課題
執筆時点でも、引き続き懸命な救援・復旧活動が行われている。【表1】に地震の被害状況等を示したが、まだ、被害全貌は把握できていない状況である。また、災害対応がどのようになされたかについても詳細は明らかになっていない。今後、検証が進むと思うが、ここでは現時点で見えている今回の震災の特徴とICT活用に関連した課題について述べたい。

【表1】令和6年能登半島地震の概要
(出典:総務省消防庁「令和6年能登半島地震による被害及び消防機関等の対応状況(第38報)」
(令和6年1月16日)、気象庁「令和6年能登半島地震の評価」(令和6年1月15日))
通信インフラ途絶による被害の把握の困難性
災害発生時は、常に全容を把握することは簡単ではないが、今回の震災では、被害の全貌を把握することが特に困難となっている。発生したのが元日の夕刻であったことも迅速な把握を困難にしたが、通信手段が途絶えた影響は大きい。幸い、各市役所・町村役場(本庁)のエリアに関しては、通信は比較的確保できていた模様だが、多くの携帯基地局が停波した。基地局が無事なエリアにおいても、停電地域では非常用電源が枯渇した。さらに現地への道路も寸断され、燃料供給や復旧工事も進まない中、通信環境の復旧は遅れがちになっている(表2)。東日本大震災の教訓を踏まえて配置された大ゾーン基地局も、人口密集地域を主眼としているため、今回の被災地はカバーできなかった(石川県内では、NTTドコモが金沢市、白山市の2カ所に配置)。1月7日現在、サービスが使えないエリアが、まだ多く存在している(図1)。

【図1】令和6年能登半島地震の影響による復旧エリアマップ(NTTドコモ/LTE)(1月7日19時時点)
(出典:https://servicearea2.nttdocomo.co.jp/inet/DisasterGoRegcorpServlet)
このような中で、今回の震災では、キャリア各社により、新たな復旧対応が進められている。
NTTドコモとKDDIは、共同で船上基地局を輪島市に展開、ソフトバンクはドローン無線中継システムによる移動基地局を配備した。また、衛星通信による復旧も積極的に行われた。KDDIは、1月7日にStarlink Japanと協力して、350台のStarlink端末を石川県に無償提供している。その後、ソフトバンクやNTTドコモも同端末の無償提供を行っている。Starlink端末と接続したWi-Fi環境を用意することで、多くの利用者がインターネットを利用できる。衛星通信の弱点として輻輳の起こりやすさがあるが、地方エリアであれば、人口密集地ほどの輻輳は起こりにくい。山岳が多いわが国では、今回の震災と同様な事態はどこでも起こり得る。このような衛星通信の環境を、地区の拠点施設等に設置しておくか、迅速に配置できるようにしておくことは、地域にとっては心強い。衛星通信を利用したインターネットアクセスサービスについては、技術標準化の取り組みや、【表3】に示すような複数の事業が進められている。さらに今後、スマートフォンから直接衛星通信を利用できるサービスも整備されつつある。衛星通信は、災害時における有効な通信手段として、今後大きく期待できるものと考える。
短時間で襲った津波
通常は、津波警報のような緊急情報は、地方自治体から、防災行政無線、緊急速報メールの他、独自の手段として個別メール、防災アプリ、IP告知システム、防災ラジオ等により瞬時に伝えられる。
今回の震災では、震源地が、陸地から近い海域であったために、早いところでは地震発生からわずか数分で津波が到達したといわれている。また、大津波警報が発表されたのが震度7の地震の発生の14分後の16時24分であった。今回の震災において、津波情報の伝達や避難対応がどのように行われたかは、今後検証が必要だが、従来の仕組みだけで迅速に周知することは難しく、津波の検知や伝達の仕組みについては検討が必要と考える。
ただ、どのようなシステムで迅速に伝達できたとしても、時間の猶予はないことに変わりはない。沿岸地域では、住民自らが日ごろから、地震が発生したら津波に備えるという心構えを持つことが、何よりも重要であることを思い知らされた。
道路寸断等による孤立集落が多く発生
今回の震災では、多くの地点で道路が寸断され、多くの孤立集落が発生している。さらに、海底が隆起して使えない港があるなど、被災地へのアクセスは困難を極めている。
石川県の第15回災害対策本部会議資料(1月8日開催)によると、1月7日時点で、県内の孤立集落は少なくとも24地区、判明している人数は3,345人となっている。
全国には、災害時に孤立が懸念される集落が数多く存在する。平成25年時点の内閣府の調査[1]によれば、孤立可能性のある農業集落は17,212、漁業集落は1,933(石川県内では、孤立可能性のある農業集落が179、漁業集落が47)あるとされており、わが国においては、震災発生後、長期間、孤立する集落が多く存在する前提で、防災の取り組みを考える必要がある。
このような中で、地震発生直後は、どの道路が利用可能かの情報を得ることが重要である。石川県では、「石川みち情報ネット」[2]で通行規制の情報を提供していた他、石川県防災ポータル[3]で「奥能登2市2町へのアクセスルート」の情報を提供していた。この他、ITS Japanが、直近の乗用車・トラックの通行実績情報を提供している[4]。このような情報提供は、復旧活動の後押しとなっている。
道路が寸断されているエリアでは、ヘリコプターや人力等に頼っている状況である。この点について、重量物の運搬には必ずしも向かないが、緊急の物資の運搬にドローンの活用は有効である。執筆時点で、今回の震災でのドローンによる物資運搬の事例は見いだせなかったが、今後は積極的な活用が考えられる。ただし、運用体制の整備や飛行の法的な手続きを含め、災害時に急にドローンを活用することは簡単ではない。日常的な物流手段として活用することがその備えにもなると考える。また、ドローン運用に際しても通信環境が必要であり、先述の衛星通信の活用はここでも有効である。
羽田航空機衝突事故を踏まえて
元日に続き、2日に羽田空港で起きた航空機衝突事故は、多くの人に衝撃を与えた。
二重三重の仕組みをすり抜けた、とされるが、空港の離着陸の運用は、訓練された優秀な管制官とパイロットに支えられているからこそ、これだけの安全が保たれていることが、今回の事故でよくわかった。しかし、ヒューマンエラーは誰にでも起こる。今回の事故を踏まえ、事故を防ぐためのサポートの仕組みを見直す必要がある。
羽田空港では、このような事故を防ぐために【表4】に示すようなシステムが備えられている。
航空機ストップバーライトシステムは、何らかの運用上の理由もあって、視界不良時のみの運用となっているものと思われるが、鉄道にたとえると信号と同様な考えのものであり、飛行機事故のリスクを考えると常時運用とすることも検討が必要と考える。
滑走路占有監視支援機能については、管制官が確認する多数の画面のひとつで表示されるものであり、画面の点滅だけでは気づきにくかったことが想定される。音声によるアラート等、管制官が気づきやすくする仕組みの検討が必要かもしれない。また、航空機の機器装備や運用ルールの確立等の難しさもあると考えるが、同システムの情報を着陸機とも共有することが一案として考えられる。
いつ、どこで災害が起こっても不思議はない。今回の災害や事故を教訓として、安全・安心な社会をつくっていくことが大切であることを、あらためて年頭に思った次第である。
[1] 内閣府政策統括官(防災担当)「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査」(平成26年10月)
[2] https://douro.pref.ishikawa.lg.jp/
[3] https://pref-ishikawa.my.salesforce-sites.com/
[4] https://www.its-jp.org/news_info/107997/
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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