情報通信総合研究所では、情報通信(以下、ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「ICT関連経済指標」を作成し、四半期ごとに公表しております。「InfoCom ICT経済アップデート」について2023年7-9月期がまとまりましたのでご報告いたします。
【2023年7-9月期のポイント(前年同期比)】
2023年7-9月期のICT経済は、総合指標が前年同期比マイナス2.0%と減少に転じた(4-6月期:同0.7%から2.7ポイント悪化)。財・サービス別にみると、ICT財は、同マイナス11.9%と4期連続で減少し、減少幅が拡大した(4-6月期:同マイナス5.6%から6.3ポイント悪化)。一方、ICTサービスは、同1.5%増と6期連続で増加したものの(4-6月期:同2.7%から1.2ポイント悪化)、財の減少をカバーできなかった[1](図表1)。
今期のICT経済は、供給サイドの財生産では半導体・フラットパネル製造装置等の低迷により減少幅が拡大した。ただし、ICT財は在庫調整局面にあり、電子デバイスや集積回路の在庫が減少に転じたことにより、増加幅が縮小した。一方、ICTサービスは、情報サービス業が牽引し、増加を維持した。
需要サイドをみると、ICT消費は9期連続で減少した。スマートフォンなどの本体価格は円安や部材価格の高騰を背景に増加幅が拡大したが、スマートフォン等通信・通話使用料とインターネット接続料の減少が継続した。また、ICT設備投資(民需)は2期連続で減少した。要因は、通信業の通信機への投資の減少継続や電子計算機等が減少に転じたことが挙げられる。
ICT輸出は、半導体市況の低迷を背景にした半導体等電子部品や半導体製造装置の減少により金額ベースでは3期連続で減少し、数量ベースでは6期連続のマイナス成長となった。ICT輸入は、半導体等電子部品、電算機類(含周辺機器)等多くの品目の減少により金額ベースでは2期連続で減少し、数量ベースでは8期連続のマイナス成長となった。
今後については、世界的な半導体市場の低迷は底打ち感がみられ、ICT財生産の本格回復が期待される。要因は、パソコンやスマートフォンはコロナ特需の一巡で販売が低迷しているものの、世界的に市況が悪化したフラッシュメモリーが持ち直したことに加え、生成AIの普及により需要の拡大が見込まれるためである。また、ICTサービスについては、企業のDX推進により、情報サービスへの需要は堅調である。ただし、情報サービス業界では人手不足が続いており、こうした供給面の制約がもたらすマイナスの影響が懸念される。
【2023年7-9月期の動向】
(ICT経済総合)
- 国内ICT経済は前年同期比マイナス2.0%と減少に転じた。前期(4-6月期)に比べて2.7ポイント悪化した(図表1)。
(ICT財)
- ICT財は前年同期比マイナス11.9%と4期連続で減少し、前期(4-6月期)に比べて6.3ポイント悪化した(図表1)。
- 電子部品、集積回路は減少幅が縮小したものの、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置は減少幅が拡大した(図表3)。
(ICT在庫)
- ICT在庫は前年同期比プラス1.0%となり、前期(4-6月期)に比べると増加幅が3.8ポイント縮小した(図表4)。
- 電子デバイスと集積回路が減少に転じたが、民生用電子機械は前期に続き増加した。
(ICTサービス)
- ICTサービスは前年同期比プラス1.5%と6期連続で増加した。前期(4-6月期)に比べて増加幅は1.2ポイント縮小した(図表1)。
- 受注ソフトウェアの増加幅は前期と同程度で堅調となったが、ゲームソフトは減少に転じた(図表5)。
(ICT消費)
- ICT消費は前年同期比マイナス1.9%と9期連続で減少し、前期(4-6月期)に比べると0.8ポイント改善した(図表1)。
- スマートフォン等の通信・通話使用料は減少幅が縮小し、スマートフォン等の本体価格は増加幅が拡大した(図表6)。
(ICT設備投資)
- 民需(除く船舶・電力・携帯電話)は前年同期比マイナス5.3%と2期連続で減少した。前期(4-6月期)に比べて3.4ポイント悪化した(図表1)。
- 通信機の減少幅は縮小したが、電子計算機等は減少に転じた(図表7)。
- 官公需は前年同期比プラス25.8%と3期連続で増加した。
(ICT輸出入)
- ICT輸出(金額ベース)は前年同期比マイナス10.9%と3期連続で減少した(図表1)。半導体等電子部品は減少幅が縮小したが、半導体製造装置は減少幅が拡大し、通信機が減少に転じた(図表8)。数量ベースでは同マイナス11.6%と6期連続で減少した。
- ICT輸入(金額ベース)は前年同期比マイナス10.9%と2期連続で減少した(図表1)。半導体等電子部品、電算機類(含周辺機器)、半導体等製造装置は減少幅が拡大した(図表9)。数量ベースでは同マイナス11.2%と8期連続で減少した(図表1)。
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【関連サイト】ICT経済分析
[1]鉱工業生産指数は、2023年4月分確報より基準年次を2015年から2020年へ基準改定されている。そのため、今回は暫定的な措置として、2015年基準データを2020年基準データの伸び率で延長した。
「InfoCom ICT経済アップデート」の主な内容
- 情報通信産業のマクロ経済への寄与度及び個別品目(サービス)の寄与度の分析
財・サービスの生産面、需要面について、ICT関連経済指標を作成し、マクロ経済の動向を示す総合経済指標の増減に対して、情報通信産業の寄与について定性的、定量的に分析。 - 情報通信の在庫循環分析
情報通信生産と情報通信在庫の循環を分析。
※ICT関連経済指標は、九州大学篠﨑彰彦研究室で開発された指標を、情報通信総合研究所で維持・更新し、必要に応じて改善しているものです。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
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