2018.12.26 イベントレポート InfoCom T&S World Trend Report

re:Invent 2018に見たAWSの本気

CEO Andy Jessy氏Keynote

【図1】CEO Andy Jessy氏Keynoteの模様
(出典:以降文中掲載のすべての写真は著者撮影)

re:Inventとは

AWS re:Inventはパブリッククラウド(IaaS/PaaS)最大手のAmazon Web Services(AWS)が開発者向けに開催する年次会議で、2018年11月25~30日にかけてLas Vegasで開催された。

Sand Expoの外観

【図2】メイン会場の一つSand Expoの外観

例年このイベント期間中に複数の新サービスの他、過去1年間に行われたインフラ拡充状況のアップデート、今後の開発方針等が発表される。

今回で8回目を数えるre:Inventは参加者数も年々急激に増加を続けており、同社の発表によると今回の参加者数は2017年から数千人増加し、5万人となった。また、ネットライブの視聴者数は10万人を超える。さらに、今回は日本からの参加者数も前年の1,031人から1,381人と増加しており、日本国内での同社が提供するクラウドサービスの普及の勢いと関心の高さがうかがえる。

このように世界中から参加者が増加していることで、イベント会場も拡大し続けており、Las VegasのVenetian Hotel、Sand Expoをメイン会場に、2018年は2017年よりもさらに1拠点増加し、7カ所の巨大ホテル・イベントスペースで開催された。これら会場を使ったセッション数も2,100を超える。

筆者は2017年に続き2回目の参加となったが、参加するたびに、AWS1社のイベントが拡大し、今やCESの如く、Las Vegasの中心街にある有名ホテルを独占する規模となっていること、そして、それがさらに拡大中であることに驚きを覚え、同社の成長とIT分野における世界的な影響力の大きさを暗に感じさせられた。

今回リリースされた新サービス

「今回リリースされた新サービスや新機能の数は?」という問いに正確に答えられる者は、実はだれもいない。その理由はクラウドという特性上、厳密にサービスと機能を分類することが不可能かつ無意味であるということだけでなく、単純におびただしい数のサービス/新機能が発表されていることにある。後にAWSの日本側責任者に確認したところによると、「100を超える」という答えが返ってきた。ちなみに前年度は40超であったことから、同社のサービス強化が加速していることがご理解いただけるかと思う。

本紙ではすべての内容を網羅することは到底できないが、筆者が特に気になったポイントについてピックアップして紹介したい。

Monday Night Live

クラウドの中でもIaaS分野の差別化ポイント・競争力の源泉はデータセンター設置場所の数、それらを結ぶネットワークの品質等のインフラによるところが大きい。例年この部分についての発表はMonday Night Liveという名前のついたKeynoteとして月曜の夜に行われ、今回もそのスタイルが踏襲された。ちなみに、このMonday Night LiveはWelcomeレセプションに続いて行われ、会場でもビール等の飲み物が振る舞われるなど、ほろ酔い気分でショーを観るようなリラックスした雰囲気で行われる。

ビール缶とカバー

【図3】Monday Night Liveで配られたビール缶とカバー

今回の「Live」では、主にNetwork、Compute、Serverlessというテーマで取り組みが語られた。

AWSは現在提供ロケーションの単位としてリージョンという表現を使うが、現在19あるそれらリージョンにバーレーン、ストックホルム、ケープタウン、ミラノ、香港の5カ所が追加されることが発表され、地理的な提供範囲の強化が示された。

AWSはクラウド事業者ではあるが、自社利用のためのハードウェア開発も積極的に進めている。その分野で興味深かったものに自社開発した光ファイバーケーブルがあり、2016年と比較して2倍の芯線数が収容可能になったという。

光ファイバー

【図4】紹介された光ファイバー

その他、主力サービスであるEC2で利用できるプロセッサーとして従来のIntelの他、AMD EPYC ProcessorそしてAWS Gravitation Processorとワークロードに合わせた選択肢を用意したことが発表された。また、同社はニーズの高い機械学習トレーニング用高性能GPUを搭載したP3dn Instancesも同時に発表している。

また、Serverlessといわれる、時間単位ではなく、実際にアプリケーションが利用した量に基づいて課金される形式のサービスの利用が非常に伸びていることがre:Inventの会期中繰り返し語られた。

CEO Keynote

CEO Andy Jessy氏のKeynoteでは冒頭、大手サービス・プロバイダやSaaS(Software as a Service)事業者間でさらなるAWSの採用が進んでおり、前年度比46%の成長を遂げる好調な業績であることが語られた。

また、同氏は世界規模でのクラウド事業のシェアについては51%と他の競合事業者を圧倒的に引き離しており、特に何かと敵対関係が報じられているOracleとのシェアがかけ離れていることをユーモラスに語り、会場からの笑いを誘った。

CEO Keynoteでシェアを語るスライド

【図5】CEO Keynoteでシェアを語るスライド
(顔写真はOracle創業者会長ラリー・エリソン)

例年CEO Keynoteは、ハウスバンドが各テーマに合わせた曲を演奏し盛り上げながら進められる。今回の最初のテーマはQueenの曲から「I want it all and I want it now」であった。これは顧客の要望に応えて、同社が多様なサービスを迅速に提供し続けていることを象徴した演出で、次々と新たなサービスや機能拡張について語られた。

今回のKeynoteで最も印象に残ったのは各種データベース関連の発表だ。AWSの主力データベースサービスとしてMySQLやPostgreSQLと互換のリレーショナルデータベースAuroraがある。発表では、これがAWSの歴史の中で継続して最も成長し続けているサービスであり、グローバル企業において続々と採用が続いていることが語られた。

その後、非構造化されたデータを扱うDynamoDBの機能拡張についても発表された。

特にデータベース関連で著者が最も興味を引かれたものが次に説明する今回新たに発表された「Amazon Timestream」だ。これは端的にはIoTのデータ管理に向けて開発されたものだ。IoT端末からのデータはタイムフレーム(時系列)ごとに継続的に送り続けられ、これらのデータを管理し利用するには通常のリレーショナルデータベースや時系列型のデータベースでは拡張性やスピードの点で課題が多かった。今回発表された「Amazon Timestream」はこうした課題を解決し、今後増加し続けるIoT向けデータベースのニーズに対してソリューションを提供し、デファクトスタンダード化を狙ったものとして非常に注目される。

Amazon Timestream発表

【図6】Amazon Timestream発表時の様子

データベースとしてはもう一つBlockchainに関するものが興味深かった。データベースにおけるBlockchainの利用について顧客のユースケースから利点と課題を抽出し、独自にAmazon Quantum Ledger DatabaseとしてBlockchainをベースとするledger(台帳)型のデータベースを発表し、顧客の新たなニーズに応えようとしていた。

新しいオモチャ

AWSは特に2017年からAI分野においてサービス提供を加速していることは周知のとおりだ。特にMachine Learning、Deep Learningについては、積極的に様々な学習ツールや実験ツールを提供することで開発者のニーズを満たすと同時に、それら開発者が新分野に取り組む機運を盛り上げてきた。その手段として、開発者が新技術を試して「遊べる」ハードウェア開発も欠かさない。前年はDeep Learning機能を実装したビデオカメラDeepLensを発表し会場を盛り上げた。そして今回、AWSは新たな「オモチャ」を発表。それがAWS DeepRacerだ。このDeepRacerは見た目はやや大きめのラジコンカーだが、実際は外部から操縦するのではなく、開発者が自らDeep Learningを活用して、走行方法をコーディング(プログラミング)し、コースを完全に自動操縦で走行させて「遊ぶ」というものだ。AWSはre:InventでこのDeepRacerを249ドルでプレ・オーダーできることを発表した。そして、Amazon DeepRacer Leagueという参加者がその自動走行技術を競えるコンペティションを同時に設立するなど、参加意欲を盛り上げるのにも余念がない。

AWS DeepRacer

【図7】発表されたAWS DeepRacer

刮目のリリース

実は、同社CEO Andy Jessyはre:InventのKeynoteやセッション等のプログラム以外にプレスに限定して注目すべき新サービスを発表した。それが「Satellite as a Service(サテライト・アズ・ア・サービス)」だ。これは、衛星通信の利用者向けに提供されるサービスで、衛星通信を行う際の地上局との通信サービスを提供するものだ。

これまで衛星通信を行う事業者は衛星だけでなく、地上局の設置を始めハードウェアからデータ処理のためのソフトウェアまで準備する必要があった。

そこでAWSはそれら衛星通信事業者に代わって、世界で複数に展開されているリージョンを活用し、衛星通信アンテナを始め、データ処理、自社通信ネットワークを提供することで衛星通信事業者の設備の負担を軽減することを可能にした。ビジネスパートナーとしてはLockheed Martinといった大手も既に決定している。同社はクラウドサービス以外にインフラの観点から全く新しいビジネス分野を切り開いたといえる。

AWSの「今」と「これから」

2017年と2018年、2回のre:Inventを通じて得た感想として、AWSが2017年はIoT、AIといった急激に注目を集めた分野のデータを受け入れるためのサービスを幅広にリリースしたのに対し、2018年はそれらサービスから得られたデータを、いかに最適化された環境で効率的に活用可能にするかというデータベース機能の点で他社との差別化を図り、競合他社を引き離そうとしているように感じた。特に、企業でリレーショナルデータベースのデファクトとして利用されているOracleに対してAWSはライセンス型に対する価格優位性だけでなく、拡張性の他、IoT分野での新機能提供やAI分野での利用の柔軟性といったところで優位性を示そうとしている。

「Data is new oil」という言葉が近年よく語られる。20世紀に石油が資本を支配したように、これからはデータが石油の如く新たな経済の柱となるという意味だ。

AWSは、好調な業績を追い風に、この石油の貯蔵、精製所としての独占的な地位を本気で固めようとしているように感じた。

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