2020.1.1 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

近江八幡を探訪-近江商人の歴史とお菓子のテーマパークで集客

新年、明ましておめでとうございます。昨年は猛暑から風水害と災厄の多い年でしたので、今年こそ穏やかな年であってほしいと願っています。また、国際情勢も厳しい事態が予想されるので平和であることを祈っています。

今月の風見鶏では昨年11月に訪れた滋賀県近江八幡市のことをまとめてみます。特別講義で京都市内の大学に往復する途中、晩秋の半日、近江八幡に立寄って来ました。何故、近江八幡かと言うと、城跡探訪が趣味の私としては安土城跡に登って天下の名城を味わいながら信長が見た琵琶湖と湖東平野の景色を眺めてみたいと思って、近くの近江八幡に1泊しました。しかし、当日は朝から小雨が降って、とても安土城の天守台にまで登ることが難しく、城跡からの展望も無理と判断して近江八幡市内の散策に切り換えて時間を過すことになった次第です。

近江八幡は戦国時代末に豊臣秀次によって開かれ、本能寺の変の後、安土の町から人々を移す形で整備・発展が図られました。城郭(八幡山城)は城主が追放・処分されて10年間だけで廃城となり、今は石垣だけが残っているだけですが、街並みはその後の商業の発展とともに拡大して琵琶湖の舟運を利用した大商業地として江戸時代から近代に至るまで栄えてきました。よく言われる「近江商人」の土地柄です。舟運と言っても琵琶湖に直接面している訳でなく、小さな入江を経て運河を開削して町の中心まで「八幡堀」を引き入れて利用したのです。八幡山城の掘割の役目を負った運河ではありましたが、廃城後はもっぱら琵琶湖の舟運と直結した物流の大動脈として数百年に渉り利用されてきました。

昔の姿のままの「八幡堀」

昔の姿のままの「八幡堀」

八幡堀の周辺には古い商家の屋敷や蔵が数多く保存されていて、運河と街並みは江戸時代にタイムスリップした印象です。近江商人の息遣いが伝わって来ます。

商家屋敷の続く街並み

商家屋敷の続く街並み

この歴史的に貴重な八幡堀は実は近江八幡市民の活動によって復活したものなのです。昭和40年代には運河の機能を失い、また汚泥の浚渫も行われなくなってヘドロが堆積、悪臭を放つ状態となっていたのを、八幡堀復活を求める署名活動や自主清掃活動から始まって堀の保存修景運動が展開されてきました。昭和50年代になり浚渫工事や堀沿いの遊歩道などが整備されて見事に歴史遺産の復活を果しました。その後、重要文化的景観の保護制度(文化財保護法)の第1号に選ばれて今日に至っています。近江商人の街を支えた物流インフラの姿は近江八幡市民の誇りであるとともに、貴重な観光資源ともなっています。私が訪れた日にも小雨の平日にも拘らず、観光バスが何台もやって来ていました。周辺を含めてこの近江八幡の水郷は、水運が盛んに行われた江戸を舞台とする時代劇によく登場していますので、現地でその雰囲気を十分に味わうことができました。

次に訪れたのは、「ラ コリーナ近江八幡」という、お菓子のテーマパークとも言うべき施設で、八幡堀の舟巡り乗船場からすぐ近くにあり市内観光の新しい目玉のところです。ここは近江八幡に本部をおく菓子製造・販売の「たねや」が2015年にオープンしたところで、年間300万人を集客する一大観光スポットです。入場料はなく誰でも入れるところですが、テーマパークとしては非常に多くの集客数でお菓子という単一のテーマの下での集客なので人気の程がよく分かります。近江八幡の古い街並みからほんの少し郊外に出たところで周りののどかな田園の中に突然とても奇抜な建物が現われて来場者をワクワクさせてくれます。ここにも何台もの観光バスと数多くの自家用車が駐車場一杯に並んでいました。もちろん、いくつもある建物の中はお菓子を買い、食事をする人達であふれていました。

「ラ コリーナ近江八幡」の中庭

「ラ コリーナ近江八幡」の中庭

女性中心の客層ですが、ここではただお菓子(有名なのはバウムクーヘンとカステラ)の販売やレストランがあるだけでなく、自然環境保護に根差した教育活動やイベントツアーなどが数多く催されていて、近江八幡市内の機関・組織や県内の大学などとの協力関係も実現しているとのことでした(「ラ コリーナ」というのはイタリア語で丘という意味)。ここは現在、滋賀県内第一の観光拠点となっていて、土日には行列ができて入場制限となるほどで、ホームページにも東京ディズニーリゾートと同様の混雑情報が案内されています。びっくりです。

近江商人の思考・行動哲学として、「陰徳善事」や「三方よし-売り手よし、買い手よし、世間よし」が有名ですが、近江八幡市内の二大観光スポットである歴史に根付く「八幡堀」と新しいお菓子というテーマの下で活動・集客する「ラ コリーナ近江八幡」の両方を訪れてみて地元に根差す心意気を感じました。古い先人の遺産を今に伝え残す活動を元に観光資源を再生させた市民の行動と創業の地から日本各地に販売網を広げながら地元に拠点を作って各地のテーマパーク以上の集客に成功している地元企業のことを知って、そこに地方創生の取り組みの原点を見た近江八幡探訪となりました。地元の歴史への深い愛情と地元から発する新しい情熱のコラボレーションこそが地方創生の原泉であるとつくづく感じました。私達ICTビジネスに携わる者として、こうした地元の力の源泉を理解し、日本中、世界中に発信し支援する途こそ何より大切なことと思っています。最後に、私自身は近江八幡にはまったく利害関係を持っておりませんので、念のため申し添えておきます。

情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。

調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら

関連キーワード

平田 正之の記事

関連記事

メンバーズレター

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

メンバーズ登録(無料)

各種サービスへの問い合わせ

ICTに関わる調査研究のご依頼 研究員への執筆・講演のご依頼 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信サービスの専門誌の無料サンプル、お見積り

InfoCom T&S World Data Book

グローバルICT市場の総合データ集の紹介資料ダウンロード