2020.4.28 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

Beyond 5G(6G)の検討/研究開発とIOWNの連携に期待

総務省で「Beyond 5G推進戦略懇談会(座長 五神 真 東京大学総長)」の第1回会合が1月27日に開催され、今年夏頃を目途に取りまとめを行うこととなりました。5Gサービスが世界で始まったところですが、3GPPでの標準化もリリース16でスタンドアローン方式に対応した5G仕様を策定している段階なので、これから製品・サービスの普及が本格化すると見込まれています。日本は5Gサービスの開始で約1年出遅れているとか、5G標準規格必須特許出願件数約7,300件のうち、日本からはNTTドコモが5.5%(6位)、ソニー2.5%(10位)、シャープ・富士通・NECはそれぞれ1%台で、サムスン8.9%、ファーウェイ8.3%、クアルコム7.4%などに大きく差をつけられているといった厳しい指摘があります。こうした認識から、5Gの次の世代「Beyond 5G」の導入を2030年頃と見込んで、ニーズや技術進歩等を踏まえた総合戦略(ロードマップ)策定の取り組み開始となりました。具体的には、通信インフラ、必要技術に加えて国際競争力向上(国際標準化策定プロセスへの関与など)や政策実現の方向性などを検討し、夏頃目途に取りまとめる予定となっています。この懇談会に関して、新聞では“今夏に「6G」総合戦略 世界先陣へ仕切り直し”(2020.1.21日経)、“「6G」はや先陣争い 日本、失地回復へ官民会議”(2020.1.27日経)といった記事が並んで、米中韓などの研究着手への強い危機感を示しています。また、第1回会合の総務省事務局作成資料では、インクルーシブ、コネクテッド、トランスフォームの3点が提示されていますので、これらをベースとして議論が進むと想定できますが、特に、五神座長提出の資料で知識集約型社会へのパラダイムシフト(経済・社会のゲームチェンジ)をすると同時に、AI・IoT関連機器の消費電力増大への懸念を表明している点が注目されます。第1回会合で設置が決まった「検討ワーキンググループ(主査 森川博之 東京大学工学系研究科教授)」での議論、検討に期待しています。

 こうした総務省の動きと並行してNTTドコモは今年1月22日にホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」を公開しています。5Gの高度化(5G evolution)と6Gに向けた検討・研究開発を2018年から進めていて、今回のホワイトペーパーでユースケース、目標性能、技術要素などの技術コンセプトをまとめています。方向性としては、まず、5G evolutionでは5G開始時に既に見えている技術課題、ミリ波カバレッジの改善、上りリンクの性能改善、産業用途向け高性能提供(通信品質保証)を取り上げており、さらに6Gに向けては次の6項目の要求条件を示しています。

  1. 超高速・大容量通信‐ピークレート100Gbps超、新しい周波数開拓
  2. 超カバレッジ拡張‐どこでもGbpsレベルの提供、空・海・宇宙をエリア化
  3. 超低消費電力・低コスト‐無線による給電、低価格ミリ波デバイス
  4. 超低遅延‐エンドエンドで1ms以下
  5. 超高信頼通信‐品質保証型通信(高信頼・高セキュリティの実現)
  6. 超多接続・センシング‐1,000万デバイス/㎢、超高精度測位(誤差10㎝)

全体として個々の要求条件を同時に実現する“複数要求条件の同時実現”を目指すと結んでいます。NTTドコモがこのホワイトペーパーで積極的に示した技術課題、方向性、要求条件等が「検討ワーキンググループ」でも議論されることと思います。特に、前述の5G標準規格必須特許出額件数上位中では、通信会社から唯一の存在であるNTTドコモからの提示なので、世界の通信業界にも大きなインパクトを与えていますので注目しています。必須特許の出願件数では、サムスン、ファーウェイ、クアルコムなど世界の大ベンダーと比較して日本ベンダーの地位が低落していて、国際競争力の強化が叫ばれていますが、通信会社では世界でNTTドコモだけが存在感を示しているのもまた実態です。懇談会の第1回会合で“3G以降の進化の中で日本は通信(高能率変調方式等)では善戦してきたが、半導体産業の衰退が続き、集積回路への低消費電力実装技術で遅れている(通信方式やアンテナ等素材部品での競争力しかない/チップ化の知財がない)”(藤原 洋 構成員)との指摘があり、省庁の壁を超えた研究開発方針、電波政策の一貫性、産業政策の実施を政府に求めています。今回の懇談会でも、セキュリティ面で強みを持つ東芝やNECの量子暗号技術に期待がかかっているだけに、総務省による一過性の取り組みに終わることなく、省庁を越えた政府の施策となるよう望みます。

 また、懇談会の場で徳田英幸構成員から、「光の技術は日本がまたリードするチャンスがある」との発言があったとの新聞報道があります(2020.1.27日経)。第1回会合の総務省事務局資料でも「IOWN Global Forum」設立が取り上げられています。「IOWN」を構成するオールフォトニクス・ネットワークでは目標性能として、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドエンド遅延200分の1を掲げています。IOWN構想はこのオールフォトニクス・ネットワークの他、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションの3要素で構成されていて、これによりインターネットを超える新しいインフラを2030年に提供したい、それに向けた基本仕様を2024年に固める計画を表明しています。未来のネットワークのスタンダードを創造する構想なので期待が高まります。ところで、IOWNとはInnovative Optical and Wireless Networkの略なので、無線の要素も当然入っているのですが、NTTの説明の中では目立っていません。例えば、無線デバイスへの光技術の導入で消費電力や遅延を小さくすることや周波数特性、環境特性、トラフィック特性に応じたベストな無線通信を実現するとの説明がありますが、これらはどちらかと言うとBeyond 5G(6G)の領域の検討/研究開発に属するような気がしています。

 ここで原点に立ち戻ってみると、NTT法第1条の目的、第2条の事業と続けて、「電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究」の語句が並んでいます。第3条の責務には、「今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もって公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。」とあります。実務面ではNTTの研究開発部門が行う基盤的研究開発活動は領域・対象・内容・費用などをNTTとNTTグループ各社の協調・協力に拠っています。前述のNTTドコモのホワイトペーパーの中にも、充電不要な超低消費電力端末や低価格ミリ波デバイスの記載があり、また、移動体通信以外の無線技術のインテグレーションにも言及がありますので、やはり、IOWN構想との連携が不可欠です。Beyond 5G(6G)に関しては、総務省をはじめ省庁の壁を越えた産業政策の実現が求められ、また、海外の民間企業まで含めた国際連携研究開発体制(例えば、IOWN Global Forum)が必要との意見が懇談会の場でもある一方で、NTTグループ内の持株とドコモの研究開発体制と取り組みの考え方に齟齬はないのか少々懸念を感じています。NTTドコモのホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」の中にもIOWN構想に関する記述はないし、IOWNの説明の際にも5G高度化や6Gに関する部分は明示されていません。世界では無線領域で関係機関・関係国などが鎬を削っているだけに不思議な気がしています。両社の資料や発表などに相互に言及がほとんどなく国際的なアピールにも影響しているのではないかと心配です。標準化活動や国際的なフォーラムの場に向けて強力な体制を示していく必要があります。

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