2024.12.19 5G/6G ICR研究員の眼

ミリ波帯の可能性を広げる国内外の動き

Image by Mohamed Hassan from Pixabay

5G技術の高度化に向けた取り組みが国内外で進んでいます。最近では、高周波数のミリ波帯を活用した最新事例の発表が目を引きます。

日本国内では、KDDIと京セラが12月16日に、ミリ波(28GHz帯)の通信エリア拡大を実現する革新的な無線中継技術の開発に成功したと発表しました。この技術は、東京都西新宿のビル街で実証され、ミリ波の道路カバー率を従来の33%から99%まで拡大することに成功したとのことです。中継器が自律的に中継網を形成する仕組みを備え、ミリ波のカバーエリアを効率的に拡張できることが特長とされています。高速通信を可能にしつつも、遮へい物に弱く、設備・運用コストも従来より掛かりやすいといったミリ波特有の課題の克服につながる技術と言えます。

一方、米国では通信大手T-Mobileが11月5日、カリフォルニア州イングルウッドのSoFiスタジアムにおける自社5Gネットワーク上の実証実験で、ミリ波帯を活用し、アップリンク(上り)通信速度2.2Gbpsという世界記録を達成したと発表しました[i]。この記録は、オーストラリアの通信大手Telstraがわずか1か月前に樹立した447Mbpsを約5倍上回る成果です。

5GNR-DC技術の採用

Telstraは1.8GHz帯と2.6GHz帯のミッドバンド周波数を組み合わせたキャリア・アグリゲーション(CA)技術を活用していましたが、T-Mobileは今回、5Gデュアル・コネクティビティ(NR-DC)という技術を採用しました。この技術では、広域通信に適した2.5GHz帯のミッドバンド(n41)とハイバンドのミリ波帯(n258)の基地局を同時に活用しつつ、アップリンク通信に割り当てられるミリ波の無線リソースを従来の20%から60%に拡大することで、通信速度を大幅に向上させることに成功しました。この実験には、Ericssonの5G NR-DCソリューションや、Qualcommが開発中の次世代5Gモデム「Snapdragon X80」を搭載したテスト端末が使用されたということです。

実験環境とその意義

今回の実験が行われたSoFiスタジアムは、2020年に設立された最先端の多目的施設です。2022年にはスーパーボウルの会場として使用され、2026年のFIFAワールドカップや2028年のロサンゼルスオリンピックの会場としても予定されています。このスタジアムは、巨大な360度4Kスクリーンをはじめとする革新的な設備を備え、観客体験の向上を追求していることで知られています。今回の実験では、数万人規模の観客が同時にSNS投稿やライブ配信を行うといった、高負荷な通信環境を想定して実施されました。

T-Mobileの技術部門担当社長であるウルフ・エヴァルドソン氏は、この記録達成を受けて次のようにコメントしています。

「T-Mobileは、顧客が最も必要とする場所で、これまでにない優れたサービスを提供する挑戦を続けています。今回の成果は、我々が過去5年間で築き上げてきたネットワークの真価を示すものであり、ポケットの中のデバイス(スマートフォン)を超えて、広範囲に応用可能な卓越した能力を提供できることを証明しています。」

この発言からも分かる通り、T-Mobileは、アップリンク通信の強化をスタジアム向けにとどめず、広範囲な用途での活用を視野に入れていると言えます。

アップリンク通信強化の必要性

高性能なアップリンク通信は、例えば最近ニーズが高まりつつあるAIによるリアルタイムのカメラ画像処理や高解像度のライブストリーミング、AR/VRなどのインタラクティブ技術等において重要な技術基盤となるものです。また、今年10月に開催されたMWCラスベガス2024のコネクテッドカーサミットにおいて、米国の自動車業界関係者が、自動運転車で想定されている各種ユースケースでは、既存ネットワークのアップリンク通信の強化が不可欠であるとの見方を強調していたことが思い出されます。例えば車両内から動画や音声を利用する事故時の緊急対応では、外部との即時的なやり取りが求められるため、高いアップリンク性能が必要と指摘されていました。

広がる可能性

今回のT-Mobileの実験は、スタジアムという限られた空間で行われたものであり、自動車のように広域エリアの移動が想定される環境とは異なりますが、例えばKDDIが発表した冒頭の市中でのエリアカバレッジを補完するような技術と組み合わせることで、ミリ波などの高周波数帯の活用範囲をさらに広げる可能性があるかもしれません。

なお、ミリ波の普及には、対応デバイスの不足といった課題もあります。現状では、ミリ波対応のスマートフォンやIoTデバイスは一部の高価格帯モデルに限られ、その普及にはまだ時間がかかると予想されています。

いずれにせよ、ミリ波帯の活用やアップリンク通信の強化は次世代通信技術のポイントの一つと言え、今後の発展に注目していきたいところです。

[i] https://www.t-mobile.com/news/network/t-mobile-shatters-for-5g-uplink-speed

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池田 泰久 (Yasuhisa Ikeda)の記事

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