ICT雑感:1泊2日、広島「完全キャッシュレス旅」から見えてきたもの
昨年末、広島の大学で土曜日に特別講義の依頼を頂戴した。折角なので、自己資金(ここ強調)で1泊し、翌日は終日、広島市内の観光を行った。その際、巷で話題の「キャッシュレス・ライフ」を遅ればせながら体験するために、自宅を出てから帰宅するまで、一切の物理的貨幣を使用しない「完全キャッシュレスしばりの旅」というテーマを自分に課した。結論から言えば、見事、そのテーマを完遂することができたが、3カ所で現金を使わざるを得ない場面に直面した。これは、他の製品を「キャッシュレスで買う」(しかし妙な表現だ)ことで乗り切った。本当は飲みたい、食べたいものばかりだったのだが。
昨今、キャッシュレス生活に関するレポートは少なからずあるようだが、最先端の若手ヒルズ族的な人々とは、年齢もライフスタイルも大きく異なる私の初めての体験が、未経験者の参考になるかもしれないので、あえて恥ずかしながら筆を執らせて頂いた。これができれば、私もあなたも、消費税の一部減免という恩恵をもれなく享受できるのみならず、数年後にあちらこちらに登場するであろう「現金お断り」の店で途方に暮れることもなくなるだろう。
私的キャッシュレス旅行の「三種の神器」
世間では、ファミリーマートが2019年夏の電子マネー(「ファミペイ」)発行を年末に表明するなど、相変わらず同市場への新規参入が相次いでいる。その数は既に数十種類に達しており、正直なところ、どれを使うのがベストなのか判断は難しい。そのような状況の中、今回のキャッシュレス旅行の三種の神器は「(1)某社クレジットカード」、「(2)交通系カード(Suica)」、「(3)スマホ」とした。実際には、(1)はプラスチックカードを持ち歩いたが、(2)はスマホ内のアプリ(オートチャージ機能オン)を利用したので「二種の神器」であったが。上記以外の電子マネー・アプリも移動先で随時、簡単にダウンロード、アクティベート可能であろうが、事前に準備したもの以外は利用しないというルールを課すことにした。そのルールに何の意味があるのか深く追求しないで頂きたい。キャッシュレス・プロフェッショナル(お金の無いプロという意味ではありません)の方々から「あの知る人ぞ知る便利なアプリをなぜ使わなかったのか」、「裏技として、あのアプリとあのアプリを組み合わせていれば」...云々の指摘が出るのが怖かっただけである。
キャッシュレスが通用しなかった場所はどこか?
さて、本題だが、今回の1泊2日の広島市内観光では、交通機関として、空港リムジンバス、JR西日本のローカル線、路線バス、路面電車(ヒロデン)、そしてタクシーを利用したが、そのすべてでモバイルSuica(JR西管内の連携カードはICOCA)を利用することができた。試しに、予備的に持参したPASMOのプラスチックカード(広島ではPASPY)も試してみたが、それも全面的にOKであった。また、ほぼすべての飲食、買い物をモバイルSuicaで済ますことができた。ただし、東京での体験だが、タクシーは会社や運転手によっては、交通系カードが使えなかったり、クレジット払いを断られたりすることがあるので、広島では珍しく運が良かったのかもしれない。
しかし、「今、これが欲しい、食べたい!」と思ったものの、現金のみだったので諦めたケースが3回だけあった。それは以下のとおりである。
- 大学構内の清涼飲料水の旧型自動販売機
- 広島バスセンター内のフードコートのベーカリー
- 広島空港内の地場ラーメン店
1については、土曜日の特別講義のため生協などが閉店していたが、開いていれば問題なくキャッシュレスで飲料水は買えたと思われる。しかし、その選択肢がなかったため、講師控室の茶碗に入れたお茶を、学生の待ちかまえる教室にこぼさないように恐る恐る持参するという、ややバツの悪い登壇となった。
2は空港リムジンバスや岡山、山口、四国方面行きの中遠距離バスが頻繁に発着する一大ターミナル内の土産物、レストラン街の中のフードコートのため、他にキャッシュレスで食事をする場所はいくつもあった。しかし、その時は短時間で軽くパンとコーヒーにしたかったので、少し不便な思いをした。
3も2と同様、「食べる」という点では空港内に多数の選択肢があったが、地場ならではのラーメンが無性に食べたかったので、思わず現金を使おうという誘惑に駆られた(が踏みとどまった)。なお、このお店は完全な現金オンリーではなく、某大手スーパー系の電子マネー(1種類)は受け入れていた。
以上の3カ所は少額(数百円)の物品を販売する場であり、「現金のみ」はやむを得ないのかもしれない。しかし、考えてみれば、それらは留学生、訪日観光客がとりわけ多い場所である。今や、欧米のみならずアジア諸国の多くが日本と比べて「キャッシュレス先進国」である。彼らが「Why, not?」と首をすくめないか、少し心配になったのは事実である。
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