2024.7.11 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

急増するデータセンターの電力需要

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データセンターが使用する電力は増え続けている。国際エネルギー機関(IEA)[1]は、2022年、データセンターはグローバルで460テラワット時の電力を消費したが、AIと暗号通貨の電力需要に押され、これがわずか4年で倍増すると予測している。2026年までには、データセンターは年間1,000テラワット時の電力を使用するようになり、この需要は人口1億2,500万人の日本の電力消費量にほぼ匹敵するという。インフラへの圧迫に対処するには、規制の見直しと効率化技術が求められている。

生成AIの電力消費は

生成AIの利用拡大が電力消費をどれほど増大させるかは、未だ不確実性が高い。今後の需要予測は未知の領域に近く、生成AIのインパクトを予測に織り込もうとする動きは始まったところといえる。

AIモデルは通常、過去20年間にデータセンターの成長を牽引したデータ検索、ストリーミング、通信アプリケーションよりも、はるかにエネルギー集約型である。

AIアプリケーションのデータセンター電力消費は、米国の電力調査機関EPRIによると現在データセンター全体のわずか10~20%と推定されるが、その率は急速に増大している[2]。2017~2021年の5年間で、META、Amazon、Microsoft、Googleのクラウド大手4社の電力消費は2倍増超となった。

EPRIによる2024年5月の報告書では、ChatGPTリクエストを1件あたり2.9ワット時(質問、回答)とすると、AIクエリは従来のGoogleクエリ1件0.3ワットと比べ10倍の電力が必要になると推定している。モデルにクエリを送る度に全体がアクティブになるので、計算の観点からは非効率的ともいえる。他方、画像、音声、映像の生成など新たな計算集約型機能の電力消費に関しては推定の前例がない[3]

2022年11月にリリースされたOpenAIのChatGPTにより、生成AIが突然一般に広く認識され、産業、日常生活にインパクトを及ぼすに至って、データセンター向け予測は見直しを迫られることになった。

EPRIは2023-2030年のデータセンター電力負荷を成長シナリオ別に推計すると、2030年にはデータセンターが米国電力消費量の4.6%から9.1%を占めるようになるとしている(現在は4%、図1)。

【図1】米国のデータセンター電力消費予測(2023-2030年)

【図1】米国のデータセンター電力消費予測(2023-2030年)
2030年の電力消費%はデータセンター以外の全電力消費が年率1%で成長すると仮定した予測値
(出典:EPRI, “Powering Intelligence: Analyzing Artificial Intelligence and Data Center Energy Consumption,” May 2024)

データセンター建設と電力安定性

経済振興を目的にデータセンター誘致を進める地域では、大規模設備が集積する。米国のデータセンター電力需要の80%は15州に集中している[4]。上位3州はバージニア州、テキサス州、カリフォルニア州であり、中でもバージニア州は最大のハブで、現在世界のハイパースケーラー35%が集まっている。この州にあっても2022 年11月のChatGPT開始直後からの需要急増で、送電容量のボトルネックが表面化した経緯[5]がある。

欧州で早くからIT産業の誘致を進めていたアイルランドでは、2022年の電力消費のうち17%に相当する量がデータセンター向けであった。AI普及を受けた同国の今後のデータセンターの電力消費は、当局の認可が順調に下りれば2026年に全体の32%に上るとも予測されている。1国の電力のうち1/3がデータセンター向けということになる(図2)。

【図2】国内電力需要全体に占めるデータセンター電力消費割合の推定値(2022年、2026年)

【図2】国内電力需要全体に占めるデータセンター電力消費割合の推定値(2022年、2026年)
(出典:IEA, “Electricity 2024: Analysis and forecast to 2026 (Revised version, January and May 2024)”)

急増するデータセンターセクターからの需要の中で、電力システムの安定と信頼性を守るために、アイルランド公益事業規制当局は2021年にデータセンターの接続申請に対し、以下基準を適用して審査することを発表した。

  1. 立地が電力系統の制約地域内か否か
  2. 需給調整可能な発電設備(dispatchable generation)もしくはこれに相当する蓄電能力を敷地内に併設できるか
  3. 系統運用者から要請された際に出力を抑制するような柔軟性を備えているか。

これら要件は、再エネ電源を組み込んだ送電網の効率的な利用の受け入れを求める内容ともなっている。

国営の送電事業者であるEirGridは、グレーターダブリンにおけるデータセンターストックの急増、特に同地域における送電網の混雑を理由に、2022年、新規アクセスの停止を決定した。この停止により、2022年後半から2028年までデータセンター計画申請の提出ができなくなる(既に契約手続きに入っているものは妨げられない)。アイルランドの電力網に接続する代わりに、ダブリンのガス網に接続して自家発電するデータセンターもあるが、この回避策も政府によって停止させられた。

アイルランドの電力システムは2023 年6月、供給が需要を下回る可能性の警報に見舞われた。これは、風力発電と太陽光発電の両方が低調だったことと、複数の発電機で停電が発生したことが原因だった。停電への懸念から、当初2025年に廃止される予定だったマネーポイント石炭火力発電所は、石炭から石油に転換され、寿命が延長されることになった。さらに、ピーク時の緊急バックアップ発電機としてガス火力発電所も建設されている。

米国ではAI登場がもたらした電力需要の増大と、送電網における信頼性懸念の表面化により、ガス火力、石炭火力の退役時期の延長を求める声が上がり、発電所閉鎖のペースが落ち始めていると報じられている。需給調節可能な石炭・ガス火力を、これに代わる再エネ電源を確保する前に退役させることにならないか。電力供給の信頼性に問題は生じないのかが問われている。


2040年を見据えて脱炭素社会に向けた「グリーントランスフォーメーション(GX)推進戦略」の見直し[6]を発表した日本政府も、2022年の生成AI登場以降に展開された業界見通しの変貌を前に、電源、系統、立地と改めて検討することになる。AIセクターの成功は、最終的には地政学問題に関わるといわれる。政府発表に表れる危機感は多くの関係者が共有している。

[1] IEA, “Electricity 2024: Analysis and forecast to 2026 (Revised version, January and May 2024)”

[2] The Electric Power Research Institute, “Powering Intelligence: Analyzing Artificial Intelligence and Data Center Energy Consumption,” May 2024

[3] さらには運用前のモデル構築には大量のデータ収集と、労働集約的なインプットも必要となり、これを考慮すれば生成AIのエネルギー消費量は特定タスク向けソフトウェアに比べて33倍に上るという研究もある。https://www.bbc.com/news/articles/cj5ll89dy2mo

[4] バージニア州、テキサス州、カリフォルニア州、イリノイ州、オレゴン州、アリゾナ州、アイオワ州、ジョージア州、ワシントン州、ペンシルベニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ネブラスカ州、ノースダコタ州、ネバダ州。

[5] https://www.theregister.com/2022/07/29/the_us_biggest_datacenter_market/ および
https://www.ft.com/content/d4f5b114-d49c-4b6c-9c67-5e5da32e2508

[6] GX実行推進担当大臣「我が国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて」(令和6年5月13日)

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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