世界の街角から:ついに訪問、1年越しの「Sphere」(体験レポ) ~昨年のリベンジ:「1年ぶりに帰ってきたぞ、ラスベガス!」

昨年に引き続き、ラスベガスを訪れる機会を得た。カジノやエンターテインメントで知られる観光地ではあるが、今回の目的も「仕事」だ。今年も米国最大級のモバイル関連カンファレンス「MWCラスベガス」に参加し、昨年と同様に米国通信業界の最新トレンドを肌で感じることができた。昨年掲載した本誌の「世界の街角から」でも触れたが、筆者はこの種のカンファレンスに参加する際、「観光」という発想を排除して臨むことを信条としている。特に、ラスベガスのように24時間営業のカジノや世界的に有名なショーなど、数々の誘惑が溢れる「厄介な街」では、その意識が一層重要だ。しかし、昨年は「観光」を完全に切り捨てた結果、一つ大きな失敗をしてしまった。それは「Sphere」(写真1)を訪れ損ねたことだ。「Sphere」は、奇しくも筆者がカンファレンスに参加していた昨年の10月29日にオープンした、超巨大なエンターテインメント施設である。360度のLEDディスプレーに包まれた球体内部では、音響と映像が完全に一体化し、これまでにない没入感を提供するという。そんな次元を超えたエンターテインメント体験を味わうチャンスを目の前で逃した悔しさは、今でも忘れられない。この苦い経験を生かし、今年は事前に「Sphere」のイベントスケジュールを確認し、チケットを予約して念願の訪問を果たした。
圧倒的な存在感を放つ「Sphere」の外観
ラスベガスの夜景の中で、ひときわ目を引く巨大な球体。それが「Sphere」だ。この球体型エンターテインメント施設は、高さ約112m、幅約157mを誇り、面積54,000㎡の表面壁を120万個のLEDが覆っている。
「Sphere」の外観は、昼夜を問わずさまざまな映像が映し出され、訪れる人々を驚かせている。「Sphere」に近づくと、まずその表面の独特な質感に目を奪われる。球体全体を覆う構造物には、金網のように、無数のLEDユニットが格子状に規則正しく配置されている(写真2)。一方、この金網のような外装を遠くからみると、まるで滑らかな一枚のディスプレーのように見える。
未来のエンターテインメント体験を提供する「Sphere」の内観
「Sphere」のエントランスからエレベーターで上がると、まず目に飛び込んでくるのは広大な吹き抜けのロビーだ。その開放感と未来的なデザインには圧倒されるばかりである。このロビーでは、AIロボットが展示されており、訪問者がさまざまな質問をするとリアルタイムで答えてくれる(次ページ写真3)。最先端技術がふんだんに取り入れられたこのエリアは、「Sphere」が単なる施設ではなく、未来そのものを体感できる場であることを物語っている。
ロビーを進むと、各フロアに映画館のようなスタンドが設置されているのが見えてくる(写真4)。ここでは「Sphere」関連のグッズや飲み物を購入でき、観覧前の期待感をさらに高めてくれる。まるで巨大なテーマパークに足を踏み入れたかのようなワクワク感が味わえるのだ。
「Sphere」の上映エリアは、18,000席以上の座席を備え、最大20,000人を収容できる規模を誇る。座席は急勾配に配置されており、高所恐怖症の筆者は、自分の席に向かう途中で思わず足がすくむような感覚を味わった。今回、施設のほぼ中央に位置する席を予約したが、その座席にたどり着くのは思いのほか大変だった(写真5)。
2億6,000万画素が創る没入感
座席に着くと、目の前には全天全周型のモニターが広がり、視界を完全に覆い尽くす。施設全体の壮大さを改めて実感させられる瞬間だった。このモニターは総LED画素数が約2億6,000万個に上り、16K相当の超高解像度映像を実現している。今回、筆者が「Sphere」で観たのは、同施設オリジナル映画の「The Sphere Experience」。1時間45分にわたって「Sphere」ならではの映像体験を堪能できる作品だ。映画のプロローグでは、まず通常の映画スクリーンサイズの地球が映し出される。そのサイズだけでも圧倒されるが、映画が進むにつれて地球がどんどん大きくなり、やがて全天全周型モニター全体を埋め尽くす壮大な映像へと移行する。この瞬間、観客席からは自然と「ワァオー」という歓声が上がり、筆者自身も思わず声を漏らしてしまった。
その感覚は、まるで山頂に立ち、目の前に広がる自然豊かな風景を目の当たりにしたときのものに近い。視界の隅々まで映像に覆われるため、目の前の光景がスクリーンではなく現実そのものに感じられる。リアルで没入感のある風景が、見る者をどこか遠くの地へと誘うような体験を提供してくれるのだ。
ふと、自分が施設の中にいることを思い出すのは、視線を下に傾けたときだ。座席や床を見た瞬間、「ここは『Sphere』の中だ」という現実に引き戻される。それほどまでに映像のクオリティーと没入感が高く、現実とスクリーンの境界を忘れさせる映像体験だった(写真6)。
外ではリアル「Sphere」と……5G?
上映時間は1時間45分と映画並みの長さではあったが、その時間を感じさせないほど没入し、あっという間に上映が終了した。「Sphere」での体験は、それほど特別で濃密だったのだ。
MWCのようなカンファレンスに参加していると、最先端技術を使った体験型アトラクションに触れる機会は多い。もちろん、どれも素晴らしいと感じるものの、「今すぐもう一度体験したい」とまで思うことはまれだ。しかし、「Sphere」での体験は違った。不思議なことに、すぐにでも再び体験したいという気持ちが湧き上がり、何度でも味わいたいと思わせる魅力があったのだ。
そんな気持ちを噛みしめながら「Sphere」を出ると、目の前には夕焼けに染まる空が広がっていた(写真7)。柔らかくオレンジ色に輝く空は、まるで映像の余韻を現実にまで引き伸ばしたかのような美しさで、「Sphere」の体験が続いているかのような感覚に包まれたのがまた不思議だった。現実と映像の境界が曖昧になるほど、この施設の体験は強烈だったと言える。
余韻を胸に、「Sphere」の外観を振り返りながら感動に浸っていると、視界の隅に通信設備が見えた。よく見ると、それはT-Mobileの5G基地局だった。ラスベガスでは現在、F1ラスベガスGPが開催されており、T-Mobileはプライベート5Gやネットワーク・スライシングを提供しているという。どうやら、この基地局もその関連施設らしい(写真8)。
最新技術を体感できるラスベガス
「Sphere」の感動に浸る一方で、つい基地局に目がいってしまう自分に苦笑した。職業柄、このような技術的な設備に意識が向いてしまうのは避けられない。「職業病だな」と自覚しつつも、最先端技術が街全体を支えていることに改めて感心させられた。そして、「Sphere」だけでなく、その周辺を支えるテクノロジーの存在に思いを馳せた。もしラスベガスを訪れる機会があるなら、ぜひ「Sphere」の体験をお勧めしたい。その圧倒的な没入感と革新的な技術は、訪れた者に忘れられない感動を与えてくれるだろう。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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中村 邦明 (Kuniaki Nakamura)の記事
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