2015.10.1 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

マイナンバー制度が始まる

今月(10月)以降、国民一人一人に対してマイナンバー(個人番号)の通知が開始されます。市区町村から住民票の住所に通知カードが簡易書留で郵送され、住民票を有するすべての人に1つ1つの番号(12桁)が通知されます。

マイナンバー制度が始まります。

(政府広報)

このマイナンバーは一生の間使うもので、原則変更されません。来年1月以降、社会保障(年金、労働、医療、福祉)、税、災害対策の行政手続でこのマイナンバーが必要になりますので、まずは通知される番号を大切にする必要があります。そして各自で交付申請を行うと1月以降、個人番号(マイナンバー)カードの交付が始まり、利用開始となります。

このマイナンバー制度の導入は民主党政権下の2011年に検討が始まり、2012年に法案が提出されましたが衆議院の解散に伴い廃案、政権交代後の2013年に自民党から再度提出されて成立し現在に到っています。マイナンバー制度は税と年金一体改革の趣旨で消費税等の税制改革と「消えた年金」として現われた年金の管理問題などを一体的に解決する仕組みの基盤として導入が進められてきました。マイナンバー制度が議論される際には、やはり住民基本台帳カード(住基カード)とこれを処理する住基ネットが国民の間で大きな対立を生み最高裁による合憲判決(最判平成20年3月6日)までもつれ込んだことを意識せざるを得ませんでした。住基カードは2003年8月に市区町村から希望者に対し交付が開始されましたが、総務省の発表によれば2014年3月末現在累計交付枚数約834万枚、うち有効交付枚数約666万枚で全人口の5.2%しか交付されていません。また住基ネットへの接続も一部自治体の反対が続き、最終的に全自治体の接続が完了したのは住基カードの交付開始から約11年半後の今年の3月30日でした。住基カードと住基ネットの10年以上の実績・経験から、若干のシステム障害はみられたものの大きな漏洩事故はない一方で、前述の消えた年金問題や東日本大震災避難時の個別の医療や支援の際に利用できていればもっと効率的な処理が可能だったとの思いがあったのも事実です。

住基カードの普及は進まずわずか5%程度であり、かつ、さまざまな対立の調整から利用範囲も限定されていて国民1人1人にはその利便性が実感されていません。典型的な“にわとりとたまご”の関係になりますが、マイナンバー(個人番号)カードも普及が先か利活用の利便が先かが問われるところです。しかし、今回のマイナンバー制度は一国の政策としてはいわばラストチャンスであると考えています。高齢化が進む中、国民生活の利便や福祉、医療などの将来を考えるとITを使っていかに満足度を高め効率化を図っていくのかが何より重要な政策となります。世界をみても先進国のなかでこの種の個人番号制度を持っていない国は日本ぐらいのものです。このままでは世界の大きなIT化の潮流に取り残されてしまいます。しかし一方的に国策だからと国民の理解や協力を無視して国民個々人に負担を押し付け、自由を制限することは許されません。要は小さな負担(例えばマイナンバーカードを常時携行する)で、大きな利便や満足が得られるようさまざまな活用方法を作り上げていくことが何より大切なことです。今回は以前の住基カード(住民ネット)の轍を踏んではいけません。まずは国民に趣旨と手続きをより一層徹底周知して、通知カードを受け取ったら必ずマイナンバー(個人番号)カードの交付申請を行うよう国と市区町村は強く働きかける必要があります。

また、マイナンバーカードの常時携行に見合うメリットとして、電子証明書の機能を利用したオンラインによる行政手続や民間取引、本人確認時の身分証明(現在は運転免許証で代用することが多い)、健康保険証、国家公務員身分証などより多くの利用を急ぎ進める必要があります。9月3日には改正マイナンバー法が可決・成立し、預貯金口座への付番、健保組合の特定健康診査情報の管理や予防接種履歴の情報連携などに利用範囲が拡大されることになっています。直近では、消費税10%への引き上げの際に負担軽減策の一環として、マイナンバーカードを店頭のカードリーダーで読み取った後に商品を購入して、軽減税率適用商品の軽減税分を後から申請して還付を受ける方法が財務省から政府案として提示されました。さらにこれを修正する案も示されていて、与党自民党と公明党はこれらを検討材料として議論して年末までに制度を詰めることになっています。マイナンバーカードの交付・保有と常時携行による利活用に繋がる方策のひとつと考えます。

併せてマイナンバー法改正と同時に個人情報保護法の改正も成立しています。今回通知される個人番号(マイナンバー)は利用範囲は法定されていて法律で定められた事務以外でマイナンバーを利用することはできませんが、これと一般に用られる個人情報とがどうしても混同して認識され議論されてしまっているようです。両法の改正案が同時期に取り上げられ国会でも一括審議・成立となっただけでなく、マイナンバーの運用を監視する「特定個人情報保護委員会」を改組して、個人情報の使われ方全般を監視する第三者機関「個人情報保護委員会」が来年1月に新設されることになっていますので、名称の類似や委員の継続などどうしても紛らわしくなります。

個人情報の利活用にあたっては匿名加工すれば本人の同意なしで第三者に提供できるように改めたのが今回の個人情報保護法改正の趣旨なので、そもそも利用範囲を法律で特定しているマイナンバーとは別次元のものです。しかし、個人番号とか個人情報とか言葉の類似や定義のあいまいさ故に混同されることが多く、マイナンバー制度はプライバシー権の侵害ではないかとの疑問の声もありますが、以前の住基ネットについての最高裁判決(平成20年3月6日)で合憲とされた方式のとおり、現在準備されているマイナンバー制度も情報を集約・管理する共通のデータベースを設けて一元管理する方法ではなく、個人情報は従来どおり各機関において分散して管理する方法となっています。共通データベースによる一元管理方式の方がシステムとしては効率的で低コストで構築・運用できますが、万一情報が漏洩した場合の拡散のリスクの大きさや国家による個人情報の一元管理への危惧への配慮からシステムとしての効率性への制約やコスト面の負担を甘受した分散管理方式となっています。

こうまでして辿り着いたマイナンバー制度なので、開始にあたって何とかマイナンバー(個人番号)カードの普及にまで繋げていってもらいたいと願っています。当面の残された最大の課題は、どうやって郵送された通知カードをなくさずにマイナンバー(個人番号)カードの交付申請を進めてもらうか、個人番号カード交付通知書が送られてきたら、それと本人確認書類を持って市区町村役所の窓口で必ず交付を受けてもらうにはどうやったらよいのか、現場サイドの知恵と工夫が必要なことです。人手と予算の確保に加えて、住民サービスを本旨とする市区町村の担当の方々の一層の努力に期待がかかります。地域の住民一人一人により一層浸透する周知方法(例えば、自治体の広報誌に加えて各戸に配布されているタウン誌などにも掲載)や各種案内のくり返しなどこれから継続した取り組みをお願いしたい。まずは立ち上がりで従前の住基カードの交付数を早期に越えること、交付数が人口の過半数を越えることが幅広い利活用の絶対条件です。どこの市区町村の人口あたりの交付率が高くなっているのか、利便性や満足度の高い事例の紹介など、国民・住民への見える化の施策も併せて必要となると思います。

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