2016年7月14日掲載 IoT InfoCom T&S World Trend Report

IoT時代にこそ、データ流通市場の確立が求められる



5月号の本欄で、データ流通市場の創設・発展の必要性を述べましたが(記事参照)、IoTサービス・事業が訴求されるのに応じて、異業種の企業や組織・団体の間で提携してデータを交換交流することを望む声が大きくなっていることを感じています。IoTの普及・拡大によって大量の多面的領域のデータが収集されるようになり、他方、AIを用いた解析などデータサイエンスを駆使した分析・評価に大きな進展が見られます。

ICTサービスの3つの領域のうち、ネットワーク・プラットフォーム(インフラ)とアプリ・コンテンツの分野では、既にオープン化が進んでいろいろな主体の参入があり、価格を含めて多様なサービスが現実のものとなっています。米国発のOTTプレーヤーによる事業モデルやモバイル通信デバイスとOSにおけるオープン戦略(例えば、Android OS等)に見られるとおりオープン化がキーとなっていて、自由で多数の参加者(開発者や新規事業者)を取り込むことで発展が促進され急速な市場拡大が図られてきました。

インターネットサービスと結び付いたプラットフォームビジネスはもちろんのこと、従来型のネットワークサービスにおいてもオープン化が進んで、MVNOや光コラボを活用したサービスが伸長しています。ここでもオープン化が肝になっていて、政策当局はもとより、支配的なネットワーク事業者の事業姿勢もオープン化をベースにしたものとなっています。ネットワークの運営自体は事業免許や無線周波数免許といった国益がからみ、加えて巨額の設備投資を要することから引き続き少数の国内事業者による寡占状態で均衡していますが、同じインフラでもプラットフォームとなると変動する可能性は続いているものの、主として米国発の事業者が世界市場を寡占しています。アプリやコンテンツでも米国発の勢いは激しくなるばかりで世界のICTサービスにおける危惧は増しています。今後の経済成長の原動力と目されているICTの分野で米国勢に席巻され、利用者向けのサービス開発や雇用面で大きな影響が出ることが心配です。日本は単に部品・部材の供給国となってしまいかねません。もちろん、部品・部材の供給力は継続する日本の産業競争力として大切にしなければいけませんが。

そこで、これまであまり注目を集めてこなかったデータ、特にIoT発のデータにこそ、今後の我が国のICT発展のチャンスが隠れていると考えています。これまでサービスや生産に係るさまざまなデータは個々の企業内にとどまり、他社や異業種との間で活用されることはありませんでした。自動車も建設機械も、電気機器も、金融サービスも、宿泊など観光産業もすべてデータは1企業内で収集・分析され、他社と差別化する際の開発に活用されたり、サービス運用に使われたりするだけでした。GoogleやAmazon、AppleそしてIBMなど米国企業の行動を見ればよく分かります。スマホやタブレットの普及に伴い、無線回線を使って利用者の属性だけでなく、行動(場所やアプリ利用、購買など)がデータとして解析されて新たな検索広告などに使われています。既に人に付随するデータの収集では米国のOTT企業が圧倒的な存在となっています。残された分野として“物”からのデータを、IoT技術、すなわちセンサーやネットワーク、コンピューター能力などを用いて収集し、解析・評価することが可能になっています。物がベースなので人口数という数量上の限界はありませんので、今後、こうした物から発せられるデータを活用して数々の新しい発見や意味付けが見られることでしょう。そこにデータ流通の本質的な狙いがあります。もはや一企業だけで集めたデータでは不十分なのです。いろいろな企業や組織・団体で集められた人や物からのデータを、必要とする主体同士が市場で交換したり取引(売買)したりすることが新しい価値を生み出すことにつながり、オープン化の最終段階となります。ネットワーク・プラットフォーム×データ×アプリ・コンテンツの三者関係すべてがオープンな市場を形成してこそ、ICTは経済成長の原動力として力を発揮することができます。地域的にも世界市場から国内市場まで、さらには地域を限定したデータ流通によって地方創生に直結するベンチャービジネスも可能となります。

データ流通市場を確立するにあたって、そもそも大企業は他者に、例えば中小企業や政府・公共団体に対してはデータのオープン化を強く主張しますが、自分達のデータをオープンにすることには抵抗するものです。これは自らの競争力の源泉を示すことになるからに他なりません。しかし、データの秘匿が営業情報の機密保持とは限りません。データのオープン化とはいっても、すべてが対価を得て(対価取引型)無差別に提供するものではありません。限られた当事者間でデータとデータとを直接交換するデータエクスチェンジ型も成り立ちます。データ流通市場のあり方には複数の方途があり得るので、さらに具体的な検討を要しますし、何も官製の市場を作ろうとするものではないので、多くの市場参加者・仲介者が現れて市場が形成されることがベストだと思います。

センサー技術は現在のところ日本の製造業の競争力の源泉となっています。センサーには用途や目的に応じてさまざまなタイプが求められるので一般化してコモディティ化する可能性はあまりありません。当然、技術水準は世界に拡散していくことは避けられませんが、まだまだ日本のセンサー開発力は他国を圧倒しています。各種のセンサー分野を合計した日系メーカーの世界シェアが約5割あることを見れば、それがよく分かります(出所;電子情報技術産業協会 (JEITA)「センサ・グローバル状況調査」および日本政策投資銀行関西支店レポート(2014年5月))。このセンサー製造の強みを本当に生きたものとすることこそ、現在ICT産業に求められていることです。

こうしたデータ流通市場によって、「既存の自社データ×第三者データ×今後のIoTデータ」の組み合わせが可能となって、イノベーションが触発されることになります。分野横断的で大企業から中小企業まで、特にベンチャービジネスが参加したくなるようなデータ流通市場の創出が待たれます。そのための運営体制や法制度・技術面の検討や実証など産業界、なかでもICT業界でインフラ分野で大きな役割を果たしてきた通信事業者や新しいプラットフォーム事業者の協力による取り組みに期待しています。市場取引の前提となる信用力の拡充や品質評価の裏付け、必要となるパテントプールのあり方、個人情報保護方策などICT業界の出番です。データの提供者(供給者)とデータの利用者(需要者)の間でセンサーの種別や属性データに基づいてマッチングして流通・制御する新しい市場の確立が理想です。課題は、データ流通の需給両サイドの当事者意識をどう高めるかであり、物やお金などの財物・財貨と本質的に性質の異なるデータという情報の取引を法的にどう性格付けるのか、の2点に尽きます。技術面の課題は、ビッグデータ処理やブロックチェーン技術によって実証的に解決し得る段階にありますので、他国との競争に遅れを取らぬよう取り組みが急がれます。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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