2017年6月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

SDN (Software-Defined Network) が作り出すポスト・インターネットの潮流



今年4月、ポスト・インターネットを謳う「オープンネットワーキングサミット2017」が米国カリフォルニア州サンタクララ市で開催されました。そこでの主役はGoogleであり、また、Microsoft、AT&T、China Mobile(中国移動)、NTTコミュニケーションズなどのICT企業がポスト・インターネットの取り組みを発表して新しい潮流を示していました。ポスト・インターネットの潮流とは通信ネットワークをこれまでのルーターというハードウェアに依存したもの(インターネット)から、ソフトウェア主導型に切り替える流れのことです。その具体的な取り組みこそがSDNになります。

そもそもインターネットはハードウェアであるルーターに依存したネットワークで、ルーターを設置して世界中と交信することを可能とした、それまでの大型で高価な電話交換機を用いない画期的な存在として、通信ネットワークにおける革命でした。ただ、さすがにこれほどまでに普及拡大するとインターネットの限界が見えてきて、ポスト・インターネットの研究開発が先進各国やIT先進企業で進められてきています。Googleなどの巨大なネット企業や通信事業者では混雑(輻輳)やセキュリティなどの問題への対応がどうしても必要となっていて、非効率性の克服が課題となっています。従来のインターネットにはない高度なネットワーク機能の追求です。

こうしたコアネットワークの高度機能の追求と同時期に無線アクセスの5Gへの進展が重なり合ってユーザー端末の高度化・大量化だけでなく、低遅延性への要求やエンド間の帯域保証が大きな課題となってきています。

現在のインターネットはルーターというハードウェアによって通信ネットワークを単純化してデータを送信するための土管に変えてきましたが、方式としての自律分散システムとIPアドレスによるデバイスIDを基本として通信を行っています。ここにインターネットの限界があって、ベストエフォートによって多重効果が得られるのでバースト的なデータ通信には適する一方で、性能が急激に劣化することは避けられない(帯域変動型)という特質を持っています。そのためインターネットは音声・映像などのストリーム・メディアの伝送には不向きで、データとストリーム・メディア両方のトラフィックの要求を満足するのは困難です。インターネットにおいては厳密なQoSの確保は難しく、厳密なネットワーク制御は不可能なので、緊急通信や高度なセキュリティ通信などインターネット(オールIP化)ですべてを解決できるのか疑問が生じます。もちろん、インターネットでは、もはやひとつの大きな通信キャリアがネットワークを占有していないという現実があり、複数のISPにまたがる場合のネットワーク制御はより一層困難となっているという現実があります。

こうしたなか、以前からポスト・インターネットを目指して、新世代ネットワーク (NWGN) 構想が総務省の情報通信研究機構 (NICT) を中心に関係者によって進められて、「新世代ネットワークフォーラム」が2007年11月設立され、オールジャパンの下に研究活動が行われてきましたが、2016年1月に8年余の活動を経て同フォーラムは解散しています。ポスト・インターネットに向けてSDNからSDI (Software Defined Infrastructure) へ、さらにApplication-driven SDIへと進むパラダイムシフトの提唱やネットワーク、コンピューター、ソフトウェア、アプリケーションの垣根をなくした研究開発の必要性、日米欧の連携などに成果をあげてきました。

しかしその一方で、冒頭の「オープンネットワーキングサミット2017」に見られるとおり、SDN関連のオープンソース団体の急増と取り組みの急速な進展があり、こうした民間の活動で生み出される技術革新がオープンソース団体によって開発・規格化されて国や国際標準化団体が標準化するという流れがポスト・インターネットの世界でも進んでいるのもまた実態です。もはやオールジャパンにこだわらず、個別の団体や企業の取り組みこそが主流となっていることを忘れてはなりません。

世界のICT企業の取り組みではオープンイノベーションに基づくSDNが領域範囲を拡大してきており、当初のデータ・プレーンシステムから、コントロール・プレーンに広がり、さらにサービス・プラットフォームに進んで多機能なアプリケーションの提供へと向かっています。まさに、これまで新世代ネットワークフォーラムが提示したパラダイムシフト構想の姿が実現している感じなのですが、ここでのポイントはオープンソースであり、標準化先行ではなく民間の活動によるイノベーション先行で進んでいるということだと思います。

現在のところSDNのカバーするネットワークについては通信インフラ全体ではなく、Googleなどクラウドサービスを提供する事業者内のデータセンター間での機能の仮想化やソフトウェア主導型通信ネットワークが中心となっています。NTTコミュニケーションズやAT&Tなどの通信事業者においても、自社インフラ全体にSDNを適用する段階ではなく、顧客となる法人企業内のネットワークを対象としてサービスを展開しています。Google社内のネットワークでは混雑緩和と柔軟かつ効率的なサービスの実現を目指しているし、NTTコミュニケーションズでも短時間でのデータセンター間通信の切り替えや最適な経路変更などで運用コストの効率化・削減が図れるとしています。

さらに先日、NTTコミュニケーションズの庄司社長は新サービス戦略説明会でネットワーク機器を制御するSDNへの関心が高まっているとの認識を示して、SDN市場を今後の成長事業と捉えることを表明しています。具体的に3月末から、認証機能やウイルス対策機能に加えて、より高度なセキュリティ機能を利用できるサービスを発表してSDNのサービスメニューを広げています。

調査会社のIDCジャパンによると、我が国のSDN市場は2020年には約1,400億円にまで拡大する見通しがあり、さらに無線アクセスで5G投資が始まる2019年以降はネットワーク管理がより一層複雑化するのでSDNの需要がさらに拡大するとしています。通信インフラ全体の標準化にこだわることなく、オープンソース活動を主導してのSDNの技術開発やサービスの普及・商用化の取り組みこそがポスト・インターネットの潮流になるものと思っています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS