2019年7月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ユニバーサルサービスの検討開始~固定地点でのブロードバンドアクセスが焦点



総務省情報通信審議会の下にある「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会(以下、「特別委員会」)」で基盤整備等のあり方として、ユニバーサルサービスの検討が進んでいます。本年4月に中間報告書骨子が示されていますが、これまでのところユニバーサルサービスの制度や環境変化についての課題の共有化、検討の方向性の提起などが中心で具体的な項目や実現のタイムテーブルなどはこれからで、まだよく見えていません。ただ、3月の第6回特別委員会に中間論点整理骨子が出された際に、マスコミ各社の報道記事の見出しには“ブロードバンド/ネット回線と携帯とも全国一律義務化”といった文字が一斉に並び、さらに、“事業者早くも反発”とか“「経営縛る」事業者は慎重”との見出しも散見されました。記事の取り上げ方はともかく、電気通信事業のユニバーサルサービスへの関心の大きさがとてもよく分かるマスコミ報道でしたが、特別委員会での課題設定では、環境変化として通信サービスの高度化・多様化、特にブロードバンドサービスの普及とモバイルサービスの進展が取り上げられていて、目指すべき方向性として「中長期的には、利用者目線に立ち、有線・無線等を問わず、必要とするサービスを誰もが適正・公平・安定的に享受できる環境(ユニバーサルアクセス)の実現も目指すべきではないか」との表明があります。これは情報通信サービスの高度化に対応して技術中立性を取り込もうとする姿勢とも受け取れる内容となっていて、現在までの日本の通信市場構造を踏まえると画期的なことです。ユニバーサルサービスの議論に立ち至って、有線(固定通信)と無線(移動通信)の事業分離=競争市場分離構造が利用者目線から外れてしまう懸念があることを認識しているようにも受け取れるからです。ただ、従来のユニバーサルサービスでも、今回新しく提起されているユニバーサルアクセスでも同様ですが、固定地点でのサービス/アクセスなのか、移動する(モバイル)場合のサービス/アクセスなのかは有線・無線の技術中立性とはまた別の切り口になることを認識しておく必要があります。残念ながら、特別委員会の中間報告骨子には固定地点なのか、移動を含むものなのかは記述がなく、はっきりしていません。

海外の事例では、特別委員会中間報告資料でも紹介されているとおり、ブロードバンドサービスは米国、英国、韓国(2020年から)でユニバーサルサービスの範囲となっていますが、携帯電話はこの3国でも対象となっていません。ただ、米国と英国では、携帯による代替が可能となっているだけです。携帯電話はサービス提供義務ではなく、固定電話の代替としてユニバーサルサービスに対応することができるとするもので、ここでも技術中立的な考え方の背景が感じられます。ユニバーサルサービス規則に関して特に参考になる事例として、最近のEUにおける電気通信規制の見直しを取り上げておきたいと思います。EUでは2018年12月に「欧州電子通信法典(EECC)」を制定してユニバーサルサービス指令を改訂しています。それによって過去の見直し時に見送りとなってきた、ブロードバンド・インターネットアクセスの提供を保証することを加盟国に義務付けました。2008年と2011年のユニバーサルサービス規則の見直し時にも、ブロードバンドとモバイル両方のユニバーサルサービス化が検討されてきた経緯がありますが、結局、今回の改訂においてもモバイルは取り上げられず、ブロードバンドだけが新たに対象になっています。ユニバーサルサービスとして、固定地点(at a fixed location)での、ブロードバンド・インターネットアクセスサービス(broadband internet access service)と音声通信(voice communication)の手頃な料金でのアクセスを保証することを加盟国に義務付けました(EECC 第84条 第1項)。音声通信は従来と同様ですが、これまでユニバーサルサービスの対象であった「機能的なインターネット接続」という言葉を「利用可能な適切なブロードバンド・インターネットアクセス」に変更したものです。モバイルを見送り、固定地点でのブロードバンドだけを取り上げた背景としては、現実のサービスレベルの進展が市場競争の結果、モバイルの普及水準が高くなっていることと何よりもモバイルのユニバーサルサービスの範囲の特定が困難で広く定義すればするほどコストが巨額になり現実性がなくなってしまうことが指摘されています。結果として文字どおり、at a fixed location、即ち、固定地点で提供されるブロードバンドサービスが新しく保証対象となっています。さらに、例外的な措置として、固定地点では提供されないサービスについては、「消費者の完全な社会的及び経済的な社会参加を保証するために必要である(EECC 第84条 第2項)」ことを条件に加えた上で、モバイル等の利用可能性に言及しています。これは従来の技術中立性に立脚した考え方のもと、モバイルによる代替を例外的に認めるもので、モバイルサービス全般のユニバーサルサービス化につながるものではありません。

EUの今回のEECC(欧州電子通信法典)の制定の狙いには、EU域内の通信市場の融合(Digital Single Market)への道筋があり、なかでもブロードバンドの整備・普及において、EUが日米韓などに大きく出遅れたことに焦りを感じていたことがあげられます。ユニバーサルサービスにブロードバンドを加えることで発生するコスト(純費用)については当初の草案では公的資金による補填だけが提案されていましたが、欧州議会と欧州理事会での共同審議の結果、公的資金 and/or 業界資金と並記される規定となっています。この両者の組み合わせを含めてどう扱うのかは加盟国の判断に拠ることとされています。また、事業者の指定にあたってはオークションを含めて最も効率的かつ適切なアプローチを選択すべきことを規定しています。加盟国は国内全体をカバーするように事業者を指定しますが、地域を分けて複数指定することも可能となっています。EUを中心に詳しく説明をしてきましたが、通信先進国ではどこでもユニバーサルサービスの取り扱いが政策課題となっており、固定通信のフルIP化とモバイルでの5Gの登場・進展を踏まえ、競争政策上も市場競争の成果として普及とエリア拡大が進むモバイル通信に対し、どうしても歴史的経過から寡占を脱することが難しく競争市場の形成が十分でない固定通信とをどう組み合わせて、ユニバーサルサービスの進展を図っていくのかが問われる事態を迎えています。現実には各国とも、市場競争が進んでいるモバイル通信の普及(エリア拡大)の方がブロードバンドの展開・普及より上回って進んでいるので、モバイル通信をユニバーサルサービスとして義務化することはなく、他方、進みが遅いブロードバンドを義務化して投資を促進しようとしているのが一般的となっています。

我が国でもこの事情は同様(注)で特に異なる方策を採る必要はありませんが、さらに日本では固定通信とモバイル通信の事業融合(分離)に関して規制が残っていて、有線・無線の技術選択(技術中立性)や自己設備基準など見直すべき点が数多くあります。また、公共政策として条件不利地域への補助金の対象施策の拡大や電波の有効利用促進(不感地域解消)、モバイル市場の競争補完として電波利用料の一層の活用なども検討に値すると考えます。

(注)光ファイバーの全国整備率98.3%、未整備エリアの世帯数約98万世帯、携帯電話の人口カバー率99.99%、エリア外人口約1.6万人(エリア外集落1,293)

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