2023.8.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

我が国のスマートシティ推進における政府の政策について

ようやく終息に向かっているコロナ禍ですが、期間中には保健所からの感染者数の報告や住民への給付金の支給といった場面において、我が国のデジタル化が先進諸国に比較して大幅に遅れていることが露呈したことは記憶に新しいと思います。今やデジタル化は我が国にとって喫緊の課題と言えます。かといって今まで日本政府が何もしてこなかったわけではなく、スマートシティ構想、Society 5.0、スーパーシティ構想、デジタル田園都市国家構想と進化させながらデジタル化の実現に向けて取り組んできました。「情報通信白書」(総務省)においても2012年度版から「スマートシティ」という用語が登場し、Society5.0が制定された2016年以降は急激に増加、その後は毎年安定して掲載されています。また、スマートシティの実現に向けて毎年約2,000億円近い予算が政府から各地域へ交付されてきました。

本稿においては、スマートティ推進に向けたこれまでの政府の取組みを振り返って整理した上で、今後の方向性について考察することとしたいと思います。

Society 5.0

まず、根底にある構想がSociety 5.0です。Society 5.0とは内閣府[1]によると、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会と定義されています。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありましたが、Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)ですべての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会と定義されています。IoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、前述のように経済発展と社会的課題の解決を両立していくことが可能となる社会がSociety 5.0とされています。

スマートシティ

Society 5.0の先行的な実現の場がスマートシティと定義されています。「スマートシティガイドブック」[2]によると、(1) 3つの基本理念、5つの基本原則に基づき、(2) 新技術や官民各種のデータを活用した市民一人一人に寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメントの高度化等により、(3) 都市や地域が抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、(4) 持続可能な都市や地域、と定義されています。3つの基本理念とは、(1) 市民(利用者)中心主義、(2) ビジョン・課題フォーカス、(3) 分野間・都市間連携の重視とされており、5つの基本原則としては、(1) 公平性,包摂性の確保、(2) プライバシーの確保、(3) 運営面,資金面での持続可能性の確保、(4) 課題セキュリティ,レジリエンシーの確保、(5) 相互運用性・オープン性・透明性の確保が掲げられています。

デジタル田園都市国家構想

デジタル庁デジタル⽥園都市国家構想総合戦略(2023年度〜2027年度)[3]によると、デジタル⽥園都市国家構想とは、東京圏への過度な⼀極集中の是正や多極化を図り、地⽅に住み働きながら、都会に匹敵する情報やサービスを利⽤できるようにすることで、地⽅の社会課題を成⻑の原動⼒とし、地⽅から全国へとボトムアップの成⻑につなげていく構想とされています。また、デジタル技術の活⽤は実証の段階から実装の段階に着実に移⾏しつつあり、デジタル実装に向けた各府省庁の施策の推進に加え、各地域の優良事例の横展開を加速化するため、2023年度から2027年度までの5カ年の新たな総合戦略を策定しています。それによると、デジタルの⼒を活⽤して地⽅の社会課題解決に向けた取組みを加速化・深化させるため、以下の4つの方向性が提示されています。

  1. 地⽅に仕事をつくる
  2. ⼈の流れをつくる
  3. 結婚・出産・⼦育ての希望をかなえる
  4. 魅⼒的な地域をつくる

また、地方のデジタル実装を下支えするための基礎条件として以下の3つが示され、その整備を国が強⼒に推進するとしています。

  1. デジタル基盤の整備
  2. デジタル⼈材の育成・確保
  3. 誰⼀⼈取り残されないための取組み

2030年度までにすべての地⽅公共団体がデジタル実装に取り組むことを⾒据え、デジタル実装に取り組む地⽅公共団体を2024年度までに1,000団体、2027年度までに1,500団体とすることを始め、各種KPIを設定して取り組むこととしています。

また、具体的な国の支援策としてデジタル田園都市国家構想交付金を各地域に交付しています[4]。デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、以下のTYPE1、TYPE2、TYPE3の取組みを行う地方公共団体に対し、その事業の立ち上げに必要な経費を支援するという位置づけです。

  • TYPE1:他の地域で既に確立されている優良モデル等を活用した実装の取組み(優良モデル導入支援型)補助率1/2
  • TYPE2:デジタル原則とアーキテクチャを遵守し、オープンなデータ連携基盤を活用する、モデルケースとなり得る取組み(データ連携基盤活用型)補助率1/2
  • TYPE3:新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓に資する取組み(マイナンバーカード高度利用型)補助率2/3

直近の採択結果(2023年3月10日)によると、令和4年度2次補正予算デジタル田園都市国家構想交付金の交付対象として計994団体、事業件数は計1,847件、交付対象事業費は計656億円、国費ベースで計381億円となっています。今回の採択により、合計1,161団体がデジタルの実装に取り組むこととなり、政府は1,000団体の目標を前倒しで達成したと評価しています。

スーパーシティ

スーパーシティについては、内閣府地方創生推進事務局資料(令和5年(2023年)8月)[5]によると、(1) 生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供、(2) 複数分野間でのデータ連携、(3) 大胆な規制改革により住民が参画し、住民目線で2030年頃に実現される未来社会を先行実現することを目指す取組みとされています。つくば市と大阪(府・市)がスーパーシティ型国家戦略特区に選定され、移動や健康・医療といった分野に取り組み、政府はその実現のためにさまざまな規制改革事項により後押しをしようとしています。

まとめ

政府の取組みを総括すると、まずIoT機器やAIを活用して街の効率化、エネルギーの効率化を図ることで地域課題の解決をしようとしてスマートシティの取組みが始まりました。次にすべてがデジタルと融合した新たな社会としてSociety 5.0が定義されました。そして大胆な規制改革によってスマートシティを実現しようとしてスーパーシティ構想が出現し、さらにスマートシティにSustainabilityとWell-Beingを追加したデジタル田園都市国家構想へと進化して今日に至っています。NTTが取り組むサステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラム(SSPP)もこの流れにあると言えます。また、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー安定供給の確保が世界的に大きな課題となる中、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するためのGX(グリーントランスフォーメーション)についても政府は取組みを始めています。

現在私自身は、スマートシティに先進的に取り組んでいる地域の方々から話を伺ったり、いくつかの自治体の職員の皆さまと一緒になってスマートシティに取り組んだりしています。各自治体がそれぞれの課題に対して自立的にデジタル化を推進していくことが理想で、さまざまな地域がその実現に向かって取り組んでいることは事実ですが、さまざまなデータが連携して住民が多様なサービスを利用できる理想とする段階までにはまだまだ大きなギャップがあると感じます。そういった意味では、現在はまだ、事業の立ち上げに必要な資金を国がある程度支援することが必要な段階にあると言わざるを得ないと考えています。したがって、政府も自治体も各企業もそれぞれの役割・得意分野を総動員して取り組んでいくことが求められています。住民一人一人が、さまざまなデータがつながることの便利さ、つながらないことの不便さを身をもって体験することでスマートシティを自分ごととして捉え、世の中全体を変えていくエネルギーが生まれるのだと思います。そういう機運が生じることで法律を始めとする諸制度を整備していく環境ができてくるのではないでしょうか。これからも関係する皆さまと連携し小さな成功を一つずつ積み上げながら、前に進んでいこうと考えています。

[1] https://www8.cao.go.jp/cstp/ society5_0/index.html

[2] https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/00_scguide_s.pdf

[3] https://www.cas.go.jp/jp/ seisaku/digital_denen/pdf/20221223_gaiyou.pdf

[4] https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/dejidenkoufukin_saitaku.pdf

[5] https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity.pdf

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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