2025.12.17 DX InfoCom T&S World Trend Report

自治体DXを実現するのは”公務員” 〜デジタル人材育成の実態と解決策

Image by Mohamed Hassan from Pixabay

自治体DXの遅れ

「自治体のDXは遅れている」との指摘を耳にする機会は多い。読者諸氏も実際に自治体の役所に出向き、行政サービスを利用する際には実感しているのではないだろうか。

例えば、いまだに手数料をキャッシュレスで支払えなかったり、申請をスマホではなく紙で提出しなければならなかったり、同じような情報を複数の窓口に届け出なければならなかったりする役所もある。

筆者は数年前まで某県庁に勤務していたが、内部の実情についてはさらに課題が多い。予算折衝や幹部説明時には分厚くて重いドッジファイルを持ち歩かなければならなかったり、関係者にデータを渡して内容を説明しようとしたら「紙でないとチェックできないだろ」と注意されたりした。また、チャットを使うと「そんなもの使わず電話でちゃんと説明しろ」と言われることもあった。こうした例を挙げれば枚挙に暇がない。

2020年のコロナ禍をきっかけに、自治体におけるデジタル化の遅れが顕在化した。これを受け、国は同年12月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」[1](以下、「計画」)を策定し、自治体が重点的に取り組むべき事項を示した。初版では、①情報システム標準化、②マイナンバーカード普及、③行政手続オンライン化、④AI/RPA活用、⑤テレワーク推進、⑥セキュリティ強化の6項目が掲げられた。

計画策定以降、DX推進に係る取り組みを積極的に行う自治体は増えてきた。しかし一方で、冒頭に述べたようにDXへの機運醸成が進まず、いまだに業務のデジタル化から取り組まなければならない自治体も少なくない。

こうした事情もあり、当初は2026年3月を計画終期としていたが、昨年度に公表された第4.0版では、対象期間以降も自治体DXを引き続き推進するため、令和8年度以降の計画の取扱いについて検討を行うことが記載されている。

なお、自治体DXは公務員のなり手を確保するためにも欠かせない。最近では、公務員採用試験の競争率が低下しているというニュースを耳にすることも多い。さらに、総務省の「令和5年度地方公務員の退職状況等調査」[2]によれば、30歳未満の一般行政職の退職者数は4,863名に上り、10年前となる平成27年度の2,059名と比べて2倍以上に増加している。

退職理由には賃金や人間関係など様々な要因があるだろうが、非効率な定型業務が多く、自分のやりたいことに制約がかかり、やりがいを失ってしまうケースも少なくないと考える。筆者自身も元公務員として、その状況は容易に想像できる。

だからこそ、職員が自らの能力を最大限に生かし、生き生きと働ける職場をつくるためにも、自治体DXを推進し、定型業務をなくし、付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることが重要である。

本稿では自治体DXの推進におけるデジタル人材育成の重要性とその現状について概観し、取り組みに向けた課題を踏まえ、解決策を提案する。

デジタル人材の人材像や必要性

自治体がDXを推進する上で、とりわけ課題となっているのがデジタル人材の育成・確保である。総務省の「デジタル人材の育成ガイドブック」[3]では、自治体が育成・確保すべきデジタル人材像として、「高度専門人材(外部人材)」、「DX推進リーダー」、「一般行政職員」の3類型を示している。この中でもキーマンとされているのは「DX推進リーダー」であり、以下のように定義されている。

【ポイント】「コミュニケーション人材」であること。

  1. 「デジタル」も「行政」も、どちらも分かる。
  2.  新しい技術に興味・関心があり、行政実務に反映する発想ができる。
  3. 関係者を巻き込んで合意形成ができる。
  •  一般行政職員や高度専門人材との橋渡し・連携ができる。
  •   実務担当課とデジタル企業との橋渡しができる。

ただし、人材を自治体で育成・確保するのは簡単ではない。民間企業と比較して、自治体職員のITリテラシーは決して高くないのが現実だ。中には、一太郎でしか文書を作成できなかったり、LANケーブルをハブから抜いたまま放置してしまったりする人もいる。そのような状況で「DX推進リーダーを育てましょう」という方針を掲げられても、実現に向けたハードルが極めて高いのは想像に難くない。

しかし、このような人材がいなければ、いくら最新のソリューションを導入してもDXは進まない。仮に、ソリューションを活用したBPRを民間事業者に委託しても、内部での機運が高まらず、職員による活用につながらなければ一過性で終わってしまう。だからこそ人材の育成・確保は、自治体DX推進の根幹をなすテーマなのだ。

この課題は計画策定当初から指摘されており、国も特別交付税による支援や研修、アドバイザー派遣といった施策を打ち出してきた。それでも解決には至らず、第4.0版では新たに「都道府県による人材プール」の仕組みが示された(図1)。

【図1】都道府県における市町村支援のデジタル人材確保(人材プール)

【図1】都道府県における市町村支援のデジタル人材確保(人材プール)
(出典:総務省「都道府県と市町村の連携によるDX推進体制」https://www.soumu.go.jp/denshijiti/renkei_DXsuishin.html)

小規模自治体にとっては心強いスキームだが、プールされた人材は都道府県の常勤職員であり、市町村に常駐してくれるわけではない。結局のところ、外部の支援を頼りにしつつも、内部の職員を育てていく努力をやめるわけにはいかない。DXを「外から持ち込む」だけではなく、「中から根付かせる」ことが自治体DXの推進には重要である。

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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民人材育成の現行施策

人材育成を阻む課題

対応策

さいごに

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] 総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(2020年12月15日)https://www.soumu.go.jp/main_content/000726912.pdf

[2] 総務省「令和5年度地方公務員の退職状況等調査」https://www.soumu.go.jp/main_content/000999294.pdf

[3] 総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」https://www.soumu.go.jp/main_content/000981927.pdf

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