2026.9.4 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

欧州モビリティの現在地(連載)~第3回 模索が進むオペレーションプラットフォーム~

AIによる生成画像です

サマリー

自動運転バスの実用化には、車両やDriving AIだけでなく、フリートマネジメント、遠隔支援、乗客対応、既存の運行管理システムとの連携など、車両の外側から交通サービスの運営を支える仕組みが必要となる。欧州では、自動運転システムベンダー、既存の公共交通システムベンダー、交通事業者などが、それぞれ異なる立場からこの領域に取り組んでいる。標準的な構成や担い手はまだ定まっておらず、自動運転車両を交通サービスとして運営する機能を「誰がどこまで担うのか」を巡り、プレイヤー間の境界が流動的になっている。

 

1.はじめに

本連載では、9月15日からドイツ・ハノーファーで開催される「IAA TRANSPORTATION 2026」を前に、欧州モビリティの現在地を振り返っている。第1回では欧州の自動運転バス、第2回では自動運転を担う「Driving AI」の動向を取り上げた。第3回となる今回は視点を車両の外側へ移してみよう。

Driving AIが運転を自動化しても、公共交通サービスの運営まで自動化されるわけではない。自動運転バスを実際の交通サービスとして運行するには、車両の管理・監視や配車といったフリートマネジメント[1]に加え、車外からの遠隔支援や乗客対応、既存の運行管理システムとの連携など、さまざまな機能が必要となる。

そこで本稿では、こうした自動運転車両を公共交通サービスとして運営するための仕組みを、便宜的に「オペレーションプラットフォーム」と呼ぶ。Driving AIが「1台の車両をどう走らせるか」を担うとすれば、オペレーションプラットフォームは「その車両を交通サービスとしてどう運営するか」を支える仕組みといえる。欧州では現在、自動運転システムベンダー、既存の公共交通システムベンダー、交通事業者などが、それぞれ異なる立場からこの領域に取り組み始めている。

2.事例にみるオペレーションプラットフォーム

①自動運転向けプラットフォームの水平展開:Applied Autonomy「xFlow」

ノルウェー・スタヴァンゲルで運行されているKarsanの「Autonomous e-ATAK」では、Karsanが車両、ADASTECが自動運転システム、そして交通サービスを車外から支える仕組みとしてApplied Autonomyの「xFlow」が利用されている。xFlowは、自動運転車両とコントロールセンターを接続し、車両管理、遠隔支援、乗客とのコミュニケーションなどを担う(図表1)。Applied Autonomyはこれを、車両と交通サービスをつなぐ「デジタルコントロールタワー」と位置付けている[2]。

【図表1】Applied Autonomy「xFlow」

【図表1】Applied Autonomy「xFlow」
出所:Applied Autonomy ウェブサイト

特徴は、特定メーカーの車両に閉じない仕組みであることだ。スタヴァンゲル以外にもドランメン(Drammen)、スウェーデン・ヨーテボリ(Gothenburg)、フィンランド・タンペレ(Tampere)などで自動運転プロジェクトに参画し、Karsan製のバス車両以外にもEasyMile製の自動運転シャトルなどでxFlowを適用してきた[3] [4],。これは、自動運転向けプラットフォームベンダーが、製品採用を水平展開させている事例といえるだろう。

②従来システムから自動運転への拡張:Ineo Systrans「NAVINEO」

一方、有人バス向けのシステムベンダーが、自動運転の領域へシステムを拡張する動きもある。一例として、ルノー(Renault)、EasyMile、Equans、Keolisなどの企業の連携で開始されたフランス・シャトールー(Châteauroux)の自動運転公共交通プロジェクト「Mach2」がある。Equans傘下Ineo Systransが、有人バス・公共交通向け車両位置・運行管理(CAD/AVL)システム「NAVINEO」を自動運転車両向けに拡張する。Ineo Systransによると、NAVINEOはこれまでに250以上の交通ネットワーク、5万台を超えるバスで利用されてきている[5]。

しかし、自動運転システムを担う予定だったEasyMileが2026年に入って旅客輸送分野からの撤退を発表したことで、当初想定された役割分担は変化している[6]。現在もシャトールーでは自動運転シャトルの市街地導入に向けた取り組みが続いているものの、当初構想されたNAVINEOによる有人車・自動運転車の統合管理が、新たな車両構成の下でどこまで実装されているかは公開情報からは明らかではない。

③交通事業者が自ら構築:beti「Hypervision」

オペレーションプラットフォームを開発する動きは、技術ベンダーだけでなく交通事業者側にもみられる。

第2回で取り上げたWeRideの自動運転バスをフランス・ヴァランス(Valence)で運行するbetiは、旅客輸送会社Group Bertolamiを母体とする自動運転モビリティの運行事業者で、Navya、EasyMile、WeRideなど複数メーカーの自動運転車両を運行してきた。

betiは、こうした運行経験を基に「Hypervision」と呼ぶ仕組みを開発している。車両の監視・管理に加え、運行管理や乗客対応など、自動運転による交通サービスの運営に必要な機能を一体的に提供するものだ。将来的には、こうした業務の一部をAIで高度化する「Full AI Hypervision」の構想も示している[7]。実際の運行経験を基に、交通サービスの運営に必要な機能をオペレーションプラットフォームとして構築しようとするアプローチといえる。

④交通事業者がマルチベンダー環境をリード:ULTIMO

交通事業者が主導しつつも、自らシステムを開発するのではなく、複数の技術ベンダーを組み合わせてオペレーション環境を構築するアプローチもある。ドイツ鉄道グループのDB Regio Bus がプロジェクト全体のコーディネーターを務めるEUの自動運転公共交通プロジェクト「ULTIMO」がその一例である。ULTIMOでは、特定メーカーの車両やシステムに依存せず、複数の自動運転車両や関連システムを組み合わせるマルチベンダー構成と、オープンAPIによる接続が志向されている[8]。

ただし、ドイツ・ヘルフォルト(Herford)では当初用いられていたZFの自動運転車両とフリートオーケストレーションシステム「ZF Scalar」は、ZF Mobility Solutionsの事業停止に伴って見直されている[9]。特定ベンダーに依存せず、車両やシステムを組み替えられる構成が、交通サービスの継続性という面でも重要であることを示唆する事例といえそうだ。

3.誰がオペレーションプラットフォームを担うのか

ここまで見てきた欧州の動きを、主導するプレイヤーと開発の起点という2つの軸で整理したものが図表2である。

【図表2】各事例でのオペレーションプラットフォームへのアプローチ

【図表2】各事例でのオペレーションプラットフォームへのアプローチ
備考:公表情報を基に整理。実装段階や機能提供範囲は事例によって異なる。
出所:各社公開情報を基に筆者まとめ

現時点では、自動運転側から構築するApplied Autonomy、既存公共交通システムを拡張するNAVINEO、運行経験を基に自ら開発するbeti、複数ベンダーを束ねるULTIMOなど、異なるアプローチが並存している。

ただし、この4象限の境界は固定されたものではない。例えばApplied Autonomyは2026年、既存公共交通向けの運行管理システムを提供するConsat Telematicsと資本・業務提携した[10]。両社はxFlowとConsatの既存システムを組み合わせ、有人バスと自動運転バスを共通の環境で扱うことを目指している。自動運転側から出発したプレイヤーが、既存公共交通の運行管理へと領域を広げている例といえる。他方、Driving AIを提供するADASTEC自身も、リモートマネジメントやミッションマネジメントなどの運行支援機能を持つ[11]。自動運転システム、オペレーションプラットフォーム、既存公共交通システムの境界そのものも流動的である。

欧州の現在地は、オペレーションプラットフォームの標準形や担い手が決まった段階ではない。むしろ、自動運転車両を実際の交通サービスとして運営する機能を誰がどこまで担うのかを巡り、異なる立場のプレイヤーが互いの領域へ踏み込み始めている段階といえるだろう。

4.おわりに

本連載では、IAA TRANSPORTATION 2026の開催に先立って、第1回では自動運転バスという「車両」、第2回ではそれを走らせる「Driving AI」、そして第3回では、車両を実際の交通サービスとして運営するための「オペレーションプラットフォーム」について欧州の動向を取り上げた。自動運転の実用化は、車両やAIだけで完結するものではなく、車両の外側にあるオペレーションまで含めて捉える必要がある。

IAA TRANSPORTATION 2026では、自動運転バスだけでなく、トラックや物流分野の自動運転も大きなテーマとなる。トラックでは、乗客対応に代わって、配車や物流拠点、ヤード・ターミナル、荷主の物流システムなどとの連携が、オペレーションを考える上で重要な論点となる。同じ自動運転でも、用途が変われば「車両の外側」に求められる機能や関係するプレイヤーも変化する。自動運転を「どこまで人を乗せずに走れるか」「どのようなAIが運転しているか」という視点だけでなく、「その車両を、実際の交通・物流サービスとして誰がどのように運営するのか」という視点を加えることで、展示される技術の事業への応用可能性まで、より踏み込んで見ることができるのではないだろうか。

[1] フリートマネジメントの概要と動向については、弊社今井研究員のレポート『フリートマネジメントは「車を追う」から「AIが現場を動かす」へ ― モビリティAI基盤を巡る新たな競争 ―』(2026年8月)を参照いただきたい

[2] Applied Autonomy「Milestone in Norway: Autonomous Bus Now Operating Without a Safety Driver – xFlow® Scales Public Transit Amidst Global Driver Shortage」

[3] Applied Autonomy ウェブサイト「Portfolio」

[4] Brakar「Projects」ページ「Autonomous bus」

[5] Keolis「Keolis, Alstom, EasyMile, Equans, Renault and Statinf to deploy autonomous minibuses in Châteauroux」(2023年5月)等

[6] EasyMile「EasyMile confirms strategic pivot to autonomous heavy-duty vehicles, enters new growth phase」(2026年3月)

[7] Cornet, H., Pavlakis, S., Levassor, W., Morael, N.「Remote Supervision Strategies for Automated Vehicles Fleets: Three Real-Life Operational Case Studies」Shared Mobility Revolution, Springer(2025年)

[8] ULTIMO Project ウェブサイト

[9] ULTIMO「ULTIMO demo sites in the spotlight: Herford, Germany.」(2026年8月)

[10] Applied Autonomy「Applied Autonomy Enters Strategic Partnership with Consat Telematics to Scale Autonomous Transport Solutions Globally」(2026年2月)

[11] ADASTEC ウェブサイト「flowride.ai」

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