2026.8.26 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

欧州モビリティの現在地(連載)~第1回 自動運転バス~

AIによる生成画像です

1.はじめに ~欧州モビリティにいま注目する理由~

2026年9月15日から20日にかけて、ドイツ・ハノーバーで「IAA TRANSPORTATION 2026」が開催される。商用車や物流、輸送分野の企業が集まる国際イベントである。2026年は電動化や充電インフラに加え、自動運転、Software Defined Vehicle(SDV)、AIなどもカンファレンスの主要テーマに位置付けられている。

そこで本連載では、IAA TRANSPORTATION 2026の開催を前に、欧州の公共交通・モビリティ分野で起きている変化を3回に分けて取り上げる。第1回のテーマは「自動運転バス」である。

日本では、人口減少や運転手不足を背景に、地域公共交通をいかに維持していくかが大きな課題となっている。バス路線の減便や廃止は各地で起きており、自動運転バスには、こうした課題を解決する手段の一つとして期待が寄せられている。

こうした状況は日本に限ったものではない。欧州でもバスやコーチ[1]の運転手不足は深刻である。欧州では2023年時点で既に約10万5,000人のバス・コーチ運転手が不足しており、有効な対策が講じられなければ不足数は2028年に27万5,000人超に拡大する可能性があるとの議論がなされてきている[2]。特に地方の公共交通において、サービスの持続可能性への影響が懸念されている。このため欧州でも、自動運転は単なる新技術としてではなく、将来にわたって公共交通を維持するための選択肢として検討されている状況である。

では、自動運転バスは現在どのような姿をしており、実際の公共交通の中でどこまで利用され始めているのだろうか。

2.欧州で進む自動運転バス

一口に「自動運転バス」といっても、現在欧州で開発・導入されている車両の姿は様々である。そこで本稿では、8m前後のミッドバス、一般的な都市路線で使われる12m級のフルサイズバス、さらに乗客の需要に応じて配車する相乗り型のオンデマンド交通(ライドプーリング)などを想定した小型車両の3タイプに整理してみたい。

8m級の代表例は、トルコのKarsanがADASTECと共同開発する「Autonomous e-ATAK」である(図表1)。車長約8.3mの電気バスをベースとし、LiDAR、レーダー、カメラなどを組み合わせたLevel 4の自動運転システムを搭載する。外観や車内は一般的な小型・中型の路線バスに近い。

12m級では、MAN Truck & Busが電気バス「Lion's City 12 E」の自動運転化を進めている。欧州の都市部で使われている一般的なフルサイズの路線バスをベースとしており、自動運転専用の新しい乗り物というよりも、現在使われている路線バスを将来自動運転化するアプローチである。

一般的なバスとは異なるが注目しておきたいのが、小型車両を利用したライドプーリングである。フォルクスワーゲン(Volkswagen)傘下のMOIAが開発を進める「ID. Buzz AD」は、Volkswagenの電気自動車ID. BuzzをベースにしたLevel 4の自動運転車両で、4人の乗客を乗せることができる。大型バスを決められた路線・ダイヤで走らせるのではなく、利用者からの需要に応じて小型車両を運行する。

【図表1】自動運転バス・小型車両のイメージ<

【図表1】自動運転バス・小型車両のイメージ
出所:Karsan、MAN、MOIAのウェブサイト掲載情報を基に筆者作成

このように、「自動運転バス」は必ずしも一つの車両像を指すものではない。次に、それぞれのタイプについて、欧州で進む具体的な取り組みを取り上げる。

安全運転手なしの運行へ進むノルウェー・スタヴァンゲル

ノルウェーのスタヴァンゲル(Stavanger)では2022年からKarsanのAutonomous e-ATAKを使った公道での運行が行われている。当初のルートは約2.6kmで、環状交差点や横断歩道などを含む市街地を走行していたが、次第に走行速度を高め、ルートを複雑化した。現在のルートには約800mのトンネルも含まれ、一般車両との混在環境を最高時速40kmで走行する。さらに2026年4月には、ノルウェー道路当局から、安全要員(Safety Driver)を配置せずに定期路線を運行するための許可を取得したことが公表されている[3]。

自動運転バスを考える上で、この安全要員を配置せずに運行できるかどうかは重要なポイントである。自動運転車両を導入しても、従来と同じように車内に1人の運転要員が乗り続けるのであれば、運転手不足への対応や運行コストの低減という効果は限定的になる。スタヴァンゲルの取り組みは、自動運転バスが「自動で走行できるか」を検証する段階から、「乗務員が車内にいなくても公共交通として運行できるか」を検証する段階へ進みつつあることを示す事例といえる。

もちろん、運転手が担っている役割は運転だけではない。乗客への案内や緊急時の対応などを、車内に人がいない状態でどのように提供するかという新たな課題も生じる。スタヴァンゲルでは、Applied Autonomyの「xFlow」と呼ばれるプラットフォームを使い、車両とコントロールセンターを接続して遠隔から監視する仕組みが採用されている。自動運転バスの普及を考える上では、今後こうした車両外の仕組みも重要となる。

既存の12m路線バスを自動運転化するMAN

他方、既存の大型路線バスそのものを自動運転化しようとしているのがMANである。ドイツ・ミュンヘンで進む「MINGA」プロジェクトでは、12m級の電気バスLion's City 12 Eに自動運転システムを組み込み、既存の公共交通ネットワークへの導入を目指している[4]。車両はステアリング、加速、制動、方向指示などを自動で行い、2026年秋からはミュンヘン交通公社(MVG)がクローズドユーザーを対象としたパイロット運行を開始する予定である。ただし、この段階では安全要員が車内に乗り、システムを監視する。

8m級のKarsanが車内に安全要員を配置しない段階に進む一方、12m級のMANは安全要員を配置して実際の都市交通の中で検証を進める段階にある。ただし、これは単純に技術力の差を意味するものではない。

ライドプーリングも自動運転へ

自動運転によって、既存の路線バスとは異なる公共交通を作ろうとする動きもある。その代表例がMOIAのID. Buzz ADである。

MOIAはVolkswagen Commercial Vehicles、Mobileyeと連携し、ID. Buzz ADを使った自動運転ライドプーリングの実用化を進めている。同車両には13台のカメラ、9台のLiDAR、5台のレーダーが搭載され、ブレーキやステアリング、電源系統も冗長化されている。自動運転システムはMobileyeが提供する。2026年3月にはVolkswagen Commercial Vehiclesのハノーバー工場でプレシリーズ生産が始まった[5]。2026年7月からは、ドイツ・ハンブルクで事前登録した市民を乗せた試験運行が開始されている[6]。なお、現段階では訓練を受けた安全要員が同乗している。

ライドプーリングは、複数の利用者から寄せられる移動需要を組み合わせながら、その時々の需要に応じて車両を運行するサービスである。自動運転化が進めば、「大型バスを事前に定めた路線・ダイヤで運行する」という従来の公共交通とは異なる選択肢が広がる可能性がある。

ここまで紹介した3つの取り組みから、既存の中型バスから安全要員を外していく方向、一般的な大型路線バスを自動運転化する方向、そして小型車両によって公共交通のあり方そのものを変えていく方向など、動きの多様さがうかがえる。どれか一つに収れんするというよりは、地域の需要や既存の交通網、運行環境によって異なる選択肢が検討されているのが現在の姿といえるだろう。

3.IAA TRANSPORTATION 2026で注目したいこと

こうした動きを踏まえると、IAA TRANSPORTATION 2026では、車両が自動運転対応かどうかに加えて、狙い・利用シーン・技術パートナーにも注目するといいのではないか。例えば、以下3つの観点がある。

まず、「どのサイズ・用途の車両を自動運転化するか」である。8m級のミッドサイズバス、12m級のフルサイズバス、小型車両では想定される運行ルートやシーンが異なる。展示される車両だけでなく、各社がどのような公共交通の将来像を描いているかを見ることで、自動運転の実装の方向性も見えてくるだろう。

次に、「安全要員が同乗しない運行をどこまで現実的なものとして描いているか」である。自動運転バスに期待される効果の一つは、運転手不足への対応や運行コストの低減である。しかし、その効果を十分に得るには、自動運転機能を搭載するだけでなく、スタヴァンゲルのように車内に安全要員を配置せずに運行できる仕組みまで構築する必要がある。各社がどのような利用環境を想定し、無人運行までどのようなロードマップを描いているのか注目したい。

最後は、「車両メーカー以外のプレイヤーの存在」である。KarsanやMANではADASTEC、MOIAではMobileyeなど、自動運転バスの取り組みにはAIやソフトウェアを担う企業が深く関わっている。さらに、車両を無人で運行するためには、遠隔監視やフリート管理、乗客とのコミュニケーションなど、車両の外側にも様々な仕組みが必要になる。IAA TRANSPORTATION 2026でも、自動運転だけでなくAIやSoftware Defined Vehicleが主要テーマとして掲げられている。また、自動・自律走行コンセプトを含む多数の試乗機会も用意される予定である。どのような企業が、どのような役割でモビリティの自動化に関わろうとしているのかも注目点だろう。

本連載の次回は、視点を車両本体からAIに移す。AIがどのような役割を担い、車両やサービスを変えようとしているのか見ていきたい。

[1] 欧州では一般的に、長距離バスや観光・貸切用途のバスをコーチ(coach)と呼ぶ

[2] 国際道路輸送連盟(International Road Transport Union:IRU)「Driver Shortage Report 2023 Passenger – Europe Executive Summary」(2023年10月)

[3] Sustainable BUS「Norwegian authority approves driverless Karsan e-Atak operation without safety driver」(2026年4月)他

[4] MAN「MAN automates eBus for pilot operation in Munich」(2026年4月)

[5] MOIA「Europe’s first industrially produced roboshuttle with Mobileye technology enters pre-series production」(2026年3月)

[6] MOIA「MOIA reaches next Milestone: Passenger test operation launches in Hamburg」(2026年7月)

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