2026.8.31 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

欧州モビリティの現在地(連載)~第2回 自動運転を支えるAI~

AIによる生成画像です

サマリー

欧州では、安全要員を車内に置かない自動運転バスが登場し、その運転を担う「Driving AI」の重要性が高まっている。運行条件を定めたODDの中で周囲を認識・予測し、走行計画を生成する仕組みに加えて、大規模VLMを活用したEnd-to-End AIを導入し、複雑な交通場面への対応力を高める取り組みもみられる。MobileyeやNVIDIAも異なるアプローチで大規模AIをDriving AIへ取り込み始めている。自動運転AIの競争は「認識」に加えて「理解・推論」にも広がりつつある。

1. はじめに

2026年9月15日から20日にかけて、ドイツ・ハノーファーで「IAA TRANSPORTATION 2026」が開催される。本連載は、その開催を前に、欧州の公共交通・モビリティ分野で起きている変化を3回に分けて取り上げるものである。第1回では、欧州で開発・導入が進む自動運転バスを、8m前後のミッドバス、一般的な都市路線で使われる12m級のフルサイズバス、そしてライドプーリングなどを想定した小型車両の3タイプに分けて紹介した。

こうした自動運転車両には、カメラやLiDAR、レーダーなどのセンサーに加え、そこから得た情報を基に周囲の交通環境を認識し、他の車両や歩行者の動きを予測しながら走行経路を決めるAI・ソフトウェアが搭載されている。一般的には、こうした認識・予測・走行計画などを担うソフトウェア群を「自動運転ソフトウェアスタック」などと呼ぶ。本稿では、車両の運転を担う「知能」であるAI・ソフトウェア部分について、役割をイメージしやすいよう「Driving AI」と呼ぶこととしたい。

第1回で取り上げたKarsanやMANの車両ではADASTECが、MOIAのID. Buzz ADではMobileyeが、このDriving AIを担っている。今回は視点を車両からその「知能」へ移し、Driving AIがどのような役割を果たし、また高度化しているのかを取り上げる。

2.自動運転バスを支えるDriving AI

ノルウェー・スタヴェンゲルの事例(ADASTEC)

まず、第1回で紹介したノルウェー・スタヴァンゲル(Stavanger)の事例から見てみよう。Karsanの8m級ミッドサイズバス「Autonomous e-ATAK」を用いて、車内に安全要員を配置した状態で、公道上を最高時速40kmで走行する定期運行を重ねてきた事例である。2026年4月には、安全要員を配置しない運行の認可を得る段階にきている。

Autonomous e-ATAKには、ADASTECが開発する自動運転プラットフォームである「flowride.ai」が搭載されている。flowride.aiには、カメラやLiDAR、レーダーなどから得た情報を基に、周囲の交通環境の認識や自車位置の把握、他の交通参加者の動きの予測、走行計画などを行う機能(本稿でいうDriving AI)が含まれる[1]。

こうしたDriving AIを含む自動運転システムがどのような条件で作動するかは「ODD(Operational Design Domain:運行設計領域)」によって定められる。自動運転システムがどのような道路、速度、気象条件などで作動できるのかを事前に設定するものである。ADASTECの場合は、走行ルートをあらかじめ定め、マッピングやシミュレーションを行った上で、混合交通、複数のバス停、昼夜や雨天といった条件を含むODDを設定している。その範囲の中でflowride.aiが交差点、信号、横断歩道、他の交通参加者などに対応しながら車両を走らせる。

つまり、現在実用化が進む自動運転バスでは、どこでも自由に走れるAIをつくるというよりも、まずODDを定め、その範囲の中でDriving AIが確実に機能する仕組みを構築するアプローチがとられている。第1回で述べたとおり、スタヴァンゲルではこうした仕組みによって、安全要員が車内にいない運行にまで進んでいる。

「意味を理解する」AIへ(WeRide)

次に、Karsan/ADASTECと類似した事例で、安全要員が同乗しない自動運転バスを欧州で一部展開しており、さらにDriving AIの高度化を進める動きとしてWeRideを取り上げたい。

WeRideは6m級の自動運転バス「Robobus」等の自動運転技術を提供する、中国・広州を本社とするテクノロジー企業である。フランス・ヴァランス(Valence)で安全要員が乗車しないRobobusの商用運行を展開する。フランス・パリ(Paris)、ベルギー・ルーヴェン(Leuven)などの都市にも車両の展開実績がある(図表1)。同社によると2025年のRobobus事業の売上は前年比で約190%の増加を達成した[2]。事業の拡大が業績にも表れている。

【図表1】WeRide「Robobus」の欧州展開例

【図表1】WeRide「Robobus」の欧州展開例
出所:WeRideがウェブサイトおよびX.comに掲載している情報を基に筆者作成

WeRideは、Driving AIとして大規模なVLM(Vision-Language Model)を活用したEnd-to-End AIを用いていることを公表している[3]。VLMに触れる前に、まずEnd-to-End AIがどのようなものか簡単に確認しておきたい。

自動運転では従来、周囲の車両や歩行者などを把握する「認識」、それらが今後どう動くかを考える「予測」、自車がどう走るかを決める「計画」、そして車両を実際に動かす「制御」といった処理を機能ごとに分ける構成が一般的であった。近年は、こうした運転判断をAIでより統合的に処理するEnd-to-End AIの開発が進んでいる。従来型の高度運転支援技術とEnd-to-End AIの違いについて、日産自動車は図表2のように整理している。

【図表2】従来型の高度運転支援技術とEnd-to-End AIの処理イメージ

【図表2】従来型の高度運転支援技術とEnd-to-End AIの処理イメージ
出所:日産自動車「AIドライブ技術」(2026年6月)

VLMに話を戻そう。VLMは、画像や映像と自然言語を組み合わせて扱うAIである。画像の中から人や車を見つけるだけでなく、それらの関係や場面全体が何を意味しているのかを捉えることができる。WeRideは、このEnd-to-End AIに大規模なVLMを活用している(細かくは、End-to-End AIだけですべてを担わせるのではなく、決定論的なセーフティクリティカルフレームワークを組み合わせるハイブリッドアーキテクチャであるとしている[4])。なお、冒頭で紹介したADASTECのflowride.aiもAIを活用したDriving AIである。「AIを使っているかどうか」の違いではないことは改めて述べておきたい。

では、走るルートがあらかじめ決まっている路線バスにおいて、VLMはどのように役立つのだろうか。期待されるのは、複雑で稀な交通場面の意味を捉え、Driving AIが対応できる状況を広げることである。というのは、路線バスで決まっているのはあくまでルートであって、そこで起こる出来事ではないからである。道路工事や事故、路上駐車、さまざまな歩行者や他車両の動きなど、同じ道路を走っていても様々な状況が発生する。こうした発生頻度は低いが多様さに富む「ロングテール(Long-tail)」のケース/シナリオに対して、WeRideは実走行やシミュレーションのデータを継続的に増やし、対応範囲を広げている。

VLM・VLAをDriving AIにどう組み込むか

こうしたVision-Language系AIへの注目は、決められた路線を走るバスに限らない。そして、その組み込み方は各社で異なる。

第1回で取り上げたMOIAのID. Buzz ADのDriving AIを担うMobileyeは、2026年1月に新たなアーキテクチャとして「VLSA(Vision-Language-Semantic-Action)」を発表した。特徴は、Driving AIを「Fast Thinking」(速い思考)と「Slow Thinking」(遅い思考)に分ける点である。VLSAはSlow Thinkingとして複雑な交通場面の意味を推論し、その情報を走行計画側へ渡す。一方、安全に関わる走行判断はFast Thinking側が担当する。つまり、Vision-Language系の大規模AIに直接車両を制御させるのではなく、交通場面を理解する役割として明確な境界を設ける考え方である[5]。なお、現行のID.Buzz ADにVLSAが搭載されているかどうかの公表は現時点では確認できていない。

一方、NVIDIAがCES 2026で発表した「Alpamayo」は、推論と走行軌跡の生成をより密接に結びつけるもので、Reasoning VLA(Vision-Language-Action)がその中心にある[6]。最新のAlpamayo 2 Superでは、交通状況を推論するVision-Language Reasonerと、その結果から走行軌跡を生成するAction Expertが密に連携している。補足になるが、Alpamayoという大規模モデルをそのまま車載モデルとするのではなく、教師モデルやデータ生成・評価において利用し、そこから蒸留した小型モデルを車載側へ展開する構成が想定されている[7]。

ここまで述べたWeRide、Mobileye、NVIDIAのアプローチを整理したものが図表3である。

【図表3】大規模AIをDriving AIに取り込む各社のアプローチ

【図表3】大規模AIをDriving AIに取り込む各社のアプローチ
出所:各社公式サイト・技術ブログ・IR資料等を基に筆者作成(2026年8月時点)

VLMやVLAといった大規模AIをDriving AIに取り込む方向は共通しているが、そのアプローチは異なるといえる。自動運転を支えるAIの競争は、周囲を正確に「認識する」ことに加え、複雑な交通場面をどう「理解し、推論して、運転につなげるか」へと広がり始めている。

3.IAA TRANSPORTATION 2026で注目したいこと

本稿で述べたように、自動運転では車両そのものに加え、それを支えるAIも進展をみせている。この観点から、IAA TRANSPORTATION 2026での視点を2つ挙げたい。

  1. Driving AIに何を担わせようとしているか:ODDを定め、検証を重ねて確実に走らせることは引き続き重要である。そのうえで、ロングテールのケース/シナリオに対応するためにVLMやVLAといった大規模AIをどのように取り込み、従来の自動運転システムと組み合わせようとしているのかは2026年の注目点ではないか。
  2. 誰がDriving AIを担っているか:KarsanやMANではADASTEC、ID. Buzz ADではMobileyeと、車両メーカーとは異なる企業が自動運転の中核を担っている。車両メーカー、部品メーカー、AI企業がどのように役割分担をしているかあらためて注目すべきだろう。

とはいえ、Driving AIが高度化しても、それだけで無人の公共交通が成立するわけではない。スタヴァンゲルでは、Driving AIが車両の運転を担う一方、車外ではxFlowと呼ばれるプラットフォームも用いられ、オペレーターが車両を監視・支援する仕組みが構築されている[8]。WeRideのRobobusでも、フランスでは運行事業者betiによる遠隔監視が導入されている[9]。

次回は視点をDriving AIから車両の外側へ移し、自動運転車両の監視・支援やフリートマネジメント、乗客対応など、交通サービスの運営を支える「オペレーションプラットフォーム」を取り上げる。

[1] ADASTEC「flowride.ai」、「Sweden Automated Bus Operations」等

[2] WeRide「WeRide Reports Record Full Year 2025 Revenue of RMB684.6 Million, Up 90% Year over Year」(2026年3月)

[3] WeRide「Pioneering Autonomous Technology Drives Global Expansion and Commercial Market Growth」(2025年3月)

[4] WeRide Inc.(2025)「Form F-1(Registration Statement)」米国証券取引委員会(SEC)提出書類

[5] Mobileye「Prof. Amnon Shashua at CES 2026: Robotaxi updates, breakthroughs in AI, and robotics」(2026年1月)

[6] NVIDIA「NVIDIA Announces Alpamayo Family of Open-Source AI Models and Tools to Accelerate Safe, Reasoning-Based Autonomous Vehicle Development」(2026年1月)

[7] NVIDIA「Generate Trajectories, Reasoning Traces, and Auto-Labels with NVIDIA Alpamayo 2 Super」等(2026年8月)

[8] IAA Transportation「Unsupervised Autonomous Scheduled Bus: Stavanger Launches Europe's First Regular Service Project」(2026年5月)

[9] WeRide「WeRide Makes First European Fully Driverless Commercial Robobus Deployment in France with Beti, Renault, Macif」(2025年2月)

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