2015.12.28 ITトレンド全般 情報通信 ニュースの正鵠

2015年情報通信業界の十大ニュース

2015年も残りあとわずか。いつものように、個人的に印象に残った情報通信業界の出来事を振り返りっておきたい。

第10位 アップル・ウォッチ発売

4月にアップル・ウォッチが発売された。アップル自身は販売数を開示していないが、調査会社IDCによれば、2015年末までの出荷台数が1,300万台に達する見込みである。1年間にiPhoneを2億台以上販売するアップルの業績に対するインパクトはさほどないが、スマート・ウォッチ市場での存在感は大きく、シェアは6割に達しているようだ。ネットにつながるスマート・ウォッチと呼ばれる製品が広く普及するきかっけになるのか、今後の動きが注目される。

第9位 マイクロソフトが欧州顧客の懸念に対処するためクラウド・サービスの仕様変更を発表

マイクロソフトは11月、同社のクラウド・サービス(Azure、Office 365等)について、ドイツのデータセンターを利用し、ドイツのデータ管理者(ドイツ・テレコム)を選定できるようにすると発表した。エドワード・スノーデンにより多くの企業が、米国政府の情報収集活動に協力していた実態が暴露されて以来、欧州では米国企業のクラウド・サービスを利用することに対する警戒感が強まっている。データの保存先とデータ管理者を顧客が指定できるようにすることで、こうした懸念を払拭することを狙っている。

第8位 グーグルが持株会社「アルファベット」を設立

グーグルは10月、持株会社制に移行した。持株会社の名前は「アルファベット」で、グーグルはその傘下の一事業会社になった。創設者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、アルファベットのCEO/社長になり、新規分野の開拓とグループ全体のリソース配分に目配りをする役割を担う。新規ビジネスを子会社として独立させることにより裁量権を与えるとともに、事業毎の透明性を高める狙いがあると見られている。この体制変更によって「ムーンショット・プログラム」と呼ばれる革新的な事業領域への投資にどのような影響が出てくるのか注目される。

第7位 拡がるemoji文化

日本で生まれた絵文字が、emojiとして世界に広がりつつある。emojiは単に個人間のコミュニケーション・ツールとしてだけでなく、企業のマーケティング・ツールとしても利用されている。ドミノ・ピザはemojiをツイートすることでピザを注文できるようにし、自動車メーカーのシボレーはemojiで書かれたプレスリリースを公表した。フィンランド政府は自国の絵文字を作った世界初の政府になり、オックスフォード・ディクショナリーは「2015年の言葉」に嬉し泣きのemojiを選んだ。

第6位 スマートフォン販売の新たな試み

アップルは9月、「iPhoneアップグレード・プログラム」を米国市場で開始した。これは一定金額を支払うと毎年新しいiPhoneが入手可能になるというもの。金額は機種によって異なり、例えばiPhone6S 16GBの場合は月額32.41ドルである。スマートフォンは従来、携帯キャリアが2年縛りで販売するケースが多かったが、常に最新機種を利用したいと考えるユーザーも多い。米国ではそうしたユーザーを囲い込むために、二年前に大手キャリアが端末の早期買い替えを可能にするプランを相次いで導入した。今年開始されたアップルのプログラムは、端末メーカー自身がユーザーを囲い込もうとする点で今までとは異なる意味合いを持っている。

第5位 アマゾンがクラウド事業の業績を開示して株価が急騰

アマゾンは今年からセグメント情報としてクラウド事業の業績の開示を始めた。ネット通販として有名なアマゾンは、パブリック・クラウド市場でもトッププレイヤーであり、その情報開示に業界関係者の注目が集まっていた。開示された情報によれば、2015年1月~9月期におけるクラウド(AWS)事業の売上高は54.7億ドルで利益は11.8億ドル。利益を出さない経営で知られるアマゾンのこと、クラウド事業も採算度外視で安売りしているのかと思いきや、利益率はなんと21.5%に達している。「成長分野と目されるクラウド事業で意外に儲かっている」というニュースは投資家に好感され、アマゾンの株価は今年2倍以上に値上がりした。今や株式時価総額は3,100億ドル(約37兆円)に達している。

第4位 ドローン活用に向けた取り組み

多様な製品の登場に伴い、ドローン(無人航空機)をビジネス等に活用しようという機運が高まってきた。農業や被災地の状況確認などでの利用が考えられるほか、米国ではアマゾン、グーグルに加え、小売チェーンのウォルマートが、ドローンを使った商品の宅配を検討している。一方で墜落による事故や、プライバシー侵害を懸念する声も大きい。4月には首相官邸屋上でドローンが発見されて大騒ぎになった。さまざまな分野での活用の可能性を提唱する声と、規制を求める声とが錯綜した一年になった。

第3位 TPP大筋合意

10月に米国アトランタで開催されたTPP(環太平洋パートナーシップ)閣僚会合で、協定が大筋合意に至った。今後、各国議会の承認手続きなどを経て正式発効となる。協定の対象分野は多岐にわたり、とりわけ農業への影響などが報じられているが、情報通信分野も無関係ではない。インターネット・ユーザーにとっては、著作権侵害が「非親告罪化」された影響が気にかかるところ。インターネット上には、二次創作コンテンツが溢れているが、権利者の許諾を得ていないものも多い。従来は、権利者が目くじらを立てなければ問題にはならなかったが、権利者の告訴がなくても罪と問われ得ることになるとどうなるのか。著作物の保護期間が「最低70年」とされたことも地味ながら影響は大きい。

第2位 FinTechへの注目

今年の情報通信業界における流行語大賞を選ぶとしたら「FinTech(フィンテック)」はその候補に挙げられるだろう。これは「Finance」と「Technology」を組み合わせた造語で、金融業界におけるICT活用を意味している。ICTを利用した金融サービスとしては、インターネット・バンキングやオンライン証券がすでに広く利用されているが、その他にもモバイル決裁、クラウドファンディング、仮想通貨など、さまざまな活用が進みつつある。最近では人口知能で審査を行うローンも登場している。こうした状況に後れを取るまいと、三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行は今年、FinTechビジネスを発掘するためのコンテストを開催した。10月には経済産業省が研究会を立ち上げるなど日本政府も対応の検討を始めている。

第1位 世界の映像配信市場でさまざまな動き

6,500万ユーザーを擁する世界最大の映像ストリーミング・サービスNetflixが9月、遂に日本市場に参入した。これに対し国内最大手のdTV(ドコモ)や衛星放送のスカパーなどが対抗キャンペーンを展開。アマゾンもプライム・ビデオの提供を開始した。一方動画共有サイトとして世界最大の規模を誇るYouTubeは10月、有料サービス「YouTube Red」を米国で開始した。月額9.99ドルを支払うと、広告が表示されなくなるとともに、オフラインでの視聴も可能になる。2016年にはYouTube Red会員だけが視聴できる特別番組の提供も予定されている。無料の広告モデルでユーザーを拡大してきたYouTubeが、有料モデルでもユーザーを増やすことができるのかどうか。新たな試みである。11月にはアリババがYouku Tudouを買収すると発表した。買収金額は約37億ドル(4,440億円)と報じられている。これによりアリババは、月間ユーザー数5.8億人を超える中国最大の動画共有サイトを傘下に収めることとなる。

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