最近の公共分野におけるトピックは、何よりも「地方創生」だろう。「まち・ひと・しごと創生」というキーワードのもと、人口減少の克服と地方創生・地域の活性化に向けた取組みが始まろうとしている。現在、自治体においては地方創生に向けた政策目標・具体的な施策を示す「地方版総合戦略」の策定に取りかかり始めている段階であろうか。一部先行的に取り組んでいる自治体には、すでに策定を終えているところもあるようだ。
この「地方版総合戦略」には、いくつかの特徴がある。
一つは、「データを活用した検討」である。戦略の前提として「人口ビジョン」を策定し、人口の将来像や地域産業の状況を把握しなくてはならない。国も「地域経済分析システム」を公開するなど、様々なデータを提供している。また、それぞれの施策には「KPI(重要業績評価指標)を設定する」ことが求められている。たとえば、「テレワークに取り組む企業を○○社にする」、「観光消費額を○○○円にする」といった進捗を検証するための数値目標を施策ごとに設定するのだ。さらに、「PDCAサイクルの確立」も要請されており、策定した戦略の実施とその効果検証、さらには戦略の改訂にまで取り組むことが必要とされている。
つまり、「なんとなく施策を作ること」や「施策を作りっぱなしにしておく」ことではダメで、データに基づいた施策立案と確実な実施、そして検証と改善が強く求められているのである。
さて、筆者は沖縄県沖縄市の「ICT利活用事業」に3年間携わってきた。この事業は、Wi-Fiや観光ポータルサイトの整備など、観光活性化のためにICTを導入するものである。取り組んだ事業は下表のように多岐にわたるのだが、大きな特徴は地方創生で示されている「目標値を設定した事業実施」と「データを踏まえた改善」に取り組んできたことである。
事業期間は3カ年だが、これらを「3年かけて作り上げた」というよりは、「作ったものを改善し続けてきた」ように思う。特にWi-Fi・観光ポータルサイトについては、事業開始前にニーズ調査や利用目標を設定した。開始してからは、その利用数やアクセス数を市役所担当者と事業者チームで共有するとともに、利用数を向上させるための方策を検討した。その結果を次年度の構築事業に反映し、さらに次の改善に向けた検討を行ったのである。これはまさにPDCAサイクルを実践した事業であり、地方創生が目指すべきモデルとも言えるのではないか。
このような取り組みの結果、Wi-Fiと観光ポータルサイトの利用数は順調に増加している。商店街では「観光ポータルサイトを見た」という来訪者も見られるようになったとのことで、事業の効果も徐々に見え出している。この3月で「沖縄市ICT利活用事業」としては整備段階が終了となったが、今後のサービス運営を中心とした事業において、沖縄市の「次なる一手」を楽しみにしたいと思う。
この「沖縄市ICT利活用事業」については、当社発行の「InfoCom REVIEW 第65号」(2015年7月発行予定)にて詳細にご紹介する予定である。沖縄市のご好意により利用データも一部公開している。関心のある方は、ぜひご一読願いたい。
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