農業の課題
農業は、今、多くの課題に直面しています。例えば、農業生産者の総数が減少する中で、高齢化が進み、若年層の担い手不足が顕在化しています。それを解決するためには、農家の生産性向上とそれに伴う収益力の改善が必要です。その他にも耕作放棄地の問題など農業には課題が山積しています。
このような中でICTの活用は農作業を支援する取り組みとして始まりました。そのひとつが農作業の見える化です。これにより生産量や品質が安定化し、収益の向上を可能にします。また、収益の向上は、生産面だけの取り組みだけでは実現できません。消費まで視野を広げて、ニーズを知り、それに応えるものを作り届ける必要があります。食卓がどのようになっているか考えてみると、食の簡便化・外部化、健康志向や食の安全への関心、農作物のブランド志向やグルメブームなど食のニーズは多様化しています。この状況に対応するには、農業だけでなく、流通・加工事業者が一体となる必要があります。そうすることで持続可能な産業として発展し、魅力ある農業になっていくのです。
その先には、グローバル市場があります。新興国を中心に人口増加と中間層が拡大し、農産物の需要拡大も見込まれます。さらに日本食ブームが一部起きており、それに伴う日本食材のブランド化、高付加価値化も期待されます。
生産者、流通・加工事業者、消費者の各プレーヤーがそれぞれの立ち位置から農業の課題を解決するとともに、連携によりそれぞれの価値を大きくしていく三位一体の新しい農業への進化が求められています。
NTTグループの農業×ICTの取組を今後お伝えしていく最初として、NTT研究企画部門プロデュース担当 担当部長久住氏に話を聞きました。
NTT研究企画部門のプロデュース担当は、研究開発活動で生まれた情報通信領域の成果をグループ連携、パートナー連携により新サービスに展開することをその使命としています。プロデュース活動では、市場動向などをふまえたビジネスプランを策定し、NTTグループ内外の企業とのコラボレーションも視野に入れながら事業の立ち上げを目指すのですが、現在、情報通信事業で実績のある技術(IoT、AI、セキュリテイ等)を農業に応用しようと検討を進めています。
NTTグループのビジョン
-NTTのグループビジョンについてお聞かせください
「NTTグループが農業✕ICTを推進していく上での目指すべき方向性、将来ビジョンは、一言で言えば、前述した三位一体の成長を目的とし、各ステークホルダーとともにICTを利活用して作り上げていくというものです。農業は産業分野の一分野としての存在だけでなく、食に関わる重要な社会基盤となっているものです。そのため、安全な農作物による安心しておいしい食事が出来ることを目指して供給側の農業生産者、流通・加工事業者と需要側の消費者が一緒に取り組むとしています。ICTはそれぞれをつなぐ重要な役割を果たすことになります。」
NTTグループの取り組み
-NTTグループが目指す「三位一体」の取り組みは、どのように進められるのでしょうか。
「NTTグループはコアビジネスである通信事業領域を核に農業ICTを推進しています。現在、生産、流通・販売のバリューチェーンのなかで20を超えるソリューションがラインナップされています。
農業の課題を解決するために1社でできることには限りがあるため、NTTグループが一体となり取り組みを推進しています。NTTグループは農業生産者、流通・加工事業者、消費者のそれぞれをつなぐ “触媒”として取り組むとしています。それには「グループ連携」「パートナー連携」「分野連携」という3つのアプローチにて推進しています。」
-3つの連携について具体的に教えてください。
「まずはグループ連携です。 我々、NTTグループとの連携による効果をパートナーに実感してもらうために、NTTグループ内の商材を相互に連携する取り組みを推進しています。NTTグループが提供する農業ソリューションは 3つあります。1つは、『生産を支える豊作ソリューション』です。圃場・畜産環境の見える化により効率的な運営・管理を実現する生産管理 ・ 遠隔モニタリング等が挙げられます。もう 1 つは『流通 ・ 販売を支える繁盛ソリューション』です。生産物の販売や管理の効率化、消費者へ生産物を安心 ・ 安全につなぐためのサービスです。以上の通り、NTTグループでは農業のバリューチェーンに合わせ、生産から流通・販売に至るまで幅広く農業ソリューションを豊富にラインアップしています。
次にパートナー連携です。今後、農業分野にかかわるメーカ、流通、小売等のさまざまなパートナーの持つノウハウと、NTTグループの保有するICTを組み合わせることにより、農業分野の課題解決や新たな価値創造を実現し、農業分野を支えるバリューパートナーになりたいと考えています。これにより、従来の人の経験に頼った農作業を農業システムへと発展させ、衛星地図や気象予測情報を活用したスマート農業の実現を模索しています。
そして最後が分野連携です。NTTグループは、農業のみならず、防災、教育、観光などのさまざまな分野において、ICTの活用によるビジネス拡大を推進しています。これらの取り組みを組み合わせることが、コストの低減につながると考えています。また、分野連携することで新たな価値の提供が可能になると考えています。」
-研究所、R&D部門の役割についても教えてください。
「NTTの研究所の取組は、グループ連携の一部を担うものです。これまで開発されてきた「R&D成果の応用」に取り組んでいます。NTTは、通信業界の中では世界最大規模の研究所を有しています。現在、12の研究所があり、情報通信領域の研究開発をおこなっています。通信インフラの上で動くコミュニケーションサービスやアプリケーション、通信インフラの基盤技術、10年後を見据えた基礎研究の3つの領域を軸にして、世界の情報通信技術をリードしている『未来を支える最新技術(R&D)』があります。NTTの研究所が開発した技術を応用し、未来の農業を支える種として位置付けていく最新技術です。」
まとめ
このレポートでは、NTTグループの農業ICTへの取り組みを総論として、研究企画部門の久住氏にお話しを聞きましたが、今回話していただいた内容の一部はすでに成果が出始めているものもあります。
例えば、2016年10月に開催された国際次世代農業EXPOでは、従来から農業分野でビジネスをしてきた企業に加え、NTTのような通信事業者、自動車メーカ、電機メーカ等の異業種の企業が名を連ねていました。展示内容もセンサーやネットワーク、クラウドを活用した農業IoTのソリューション、農薬を散布するためのドローン、農作業の支援をするロボット、植物工場など、多岐にわたっていました。この展示会に出展していたNTTグループは、生産から流通・販売までのバリューチェーンを包括するソリューションに加え、研究所が開発した技術を応用した未来の農業を支える種を紹介し、その展開の可能性を広げていました。
NTTグループでは農業生産者、加工・流通・小売業者、消費者をつなげる架け橋になり、農業の発展、持続可能性の確保、ひいては地域経済の活性化に貢献するICTを提供していくとしています。また農業ICTでの取り組みが教育、観光、防災といった他の分野に波及効果をもたらす可能性も期待できます。
今後のレポートでは、「グループ連携」、「パートナー連携」、「分野連携」「研究所の取組」の取り組みと成功事例を取り上げ、今後を展望していきます。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
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井上 恵美(退職)の記事
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