「NTTグループの農業×ICT-農業生産者、流通・加工事業者、消費者の三位一体の成長・発展の実現に向けて-」では、NTTグループの農業×ICT戦略の考え方とその取り組みについて紹介しました。
NTTのビジョンとその実現に向けた課題
NTTグループでは生産者から流通・加工事業者、消費者までの三位一体の取り組みにより、各ステークホルダーが抱える課題をバランスよく解決しながら、農業を魅力ある「産業」にしていくことを目指しています。そのためにNTTグループはそれぞれをつなぐ触媒として、取り組むものです
NTTグループではそれぞれの事業で蓄積してきたノウハウを農業ソリューションとして展開しています。例えば、NTTファシリティーズでは、建物管理やエネルギーの見える化で培ったモニタリング技術を応用して農業施設のモニタリングサービス「アグリモニ」を提供しています。しかしながら、ビジョン実現のためには農業生産から販売・加工・流通・小売事業者、消費者までを一気通貫して支える仕組みが求められます。1社だけでは対応が困難であるため、各社のリソースを組み合わせて実現しようというのがグループ連携のコンセプトです。
NTTグループによる「グループ連携」の取り組み
NTTグループのグループ連携ではこれをプロダクト面と営業面の2つのアプローチで実践しています。
プロダクト面のアプローチとは、NTTグループ各社が個別に展開する商材をつないでデータ連携を可能にする取り組みです。現在は地図情報や気象情報と他のグループ商材との連携に注力しています。例えば農地・栽培品目・作付面積などをデータベース化し情報を管理するシステムと日々の農作業を記録する生産者用の情報を入力するシステムとの連携を図っています。今後は生産・流通・販売の分野を横断する連携や研究所の技術を活用していく方針です。
営業面のアプローチとは、国や地方自治体、企業が抱える個別課題に対して、オーダーメイドでソリューションを提供するものです。このためにNTTグループのリソースの把握に加え、課題を解決する形でのグループを超えた構想を描き、体制構築の支援をしていくことが必要になります。
昨年度は農林水産省の実証事業に複数の案件が採択されるなど、成果も出ています。
その1つが、NTT西日本が代表機関となり、熊本県長洲町でのトマト施設栽培における産地経営支援システム開発の実証事業です。
熊本県では施設園芸を営む農業生産者にとって、収量拡大と品質向上という経営の安定に関する課題がありました。その解決策の一つとしてICTに期待が寄せられていますが、コスト面から普及が進まない状況です。この実証事業では「地域でICTインフラを共有することでICTコストを50%以上削減する」「熊本県の気象に対応した最適なトマト栽培技術を確立して収量・所得を10%増加する」の2つの取り組みにより、安定して農業経営ができる産地づくりを目指しています。具体的には、(1)ハウス内に設置したセンサーから環境情報収集する仕組みを開発し、また広域無線ネットワークを開発し長洲町のトマト部会で共有することで広域モニタリング技術を確立する(2)センサーから収集したデータや気象情報、ノウハウを集積・分析することで熊本県の気象に適した栽培方法を確立するという取り組みになります。これらを地域の自治体(熊本県、長洲町)と生産者(JA熊本経済連、JAたまな、長洲町トマト部会)、研究機関(農業研究センター)とが熊本県次世代施設園芸コンソーシアムと連携する体制で実施しています。
本稿では、グループ連携における取り組みがどのように熊本県の課題解決に貢献できるか、また今後の取り組みの発展性を探るべく、NTT西日本の谷口氏にお話しをうかがいました。
以下では、グループ連携の実際を、(1)背景と実証事業概要、(2)体制とNTTグループ連携による効果、(3)実証事業の今後の3点からまとめました。
熊本県の課題
-熊本県の農業には、どのような課題があったのでしょうか。
谷口様(以下、敬称略):熊本県は、トマトの生産量と施設園芸に利用するハウス面積で全国1位を誇っています。その一方で、生産農家の経営安定が課題となっており、それを解決するために収穫物の収量と品質の向上への取り組みの必要性が顕在化していました。この取り組みにはICTの利活用が期待されていますが、農家でICTを導入するのはコスト面などから難しく、普及は進んでいませんでした。一方、当社は、熊本県と熊本市と連携してICTを活用して様々な住民サービスを提供する「スマートひかりタウン熊本」プロジェクトを実施しています。そのご縁もあり熊本県次世代園芸コンソーシアムと連携して、熊本県農業の課題を解決するために、自治体(熊本県・熊本県長洲町)や地域のJA、熊本県農業研究センターなどとICTを活用する取り組みを行うことになりました。その具体的な実践の場が、連携協定を結んでいる長洲町での今回の取り組みであり、生産者が将来にわたって安定的な経営ができるような産地づくりをICTの活用で目指しています。
課題解決の方向性とグループ連携による研究体制
-この課題に対するICTを活用した解決策はどのようなものでしょうか。
谷口:熊本県の農家が抱える課題に対して、解決ポイントを「栽培農家の収益向上」と「品質安定、生産性向上」という2つに絞り、ICTを活用して実現しようとしています。具体的には2つの取り組みがあります。1つ目は、広域モニタリング技術の確立として、地域でICTインフラを構築することによってICT導入コストを50%以上削減することです。2つ目は、最適栽培技術の確立です。地域の気象に適したトマト栽培技術を開発し、それをJAの営農指導員が活用して各農家を指導することで、収量・収入を10%向上させることです。
-この事業にNTTグループではどのような体制で取り組んでいますか?
谷口:この実証事業は、NTTのグループ連携をベースにそれを発展させた取り組みとなっています。NTTファシリティーズには「アグリモニ」というサービスがあります。このサービスとNTTテレコンの通信サービスを使い、NTTスマートコネクトのクラウド上(スマートコネクトVPS)にハウス内のデータを蓄積して見える化します。これにより予め設定した閾値を超えると管理者に通知したり、必要に応じて遠隔から窓を開けるというような機器の遠隔制御ができるようになります。これによりトマト栽培の収量及び品質の向上が図れます。この技術はNTTファシリティーズが平成25年から27年に取り組んできた成果なのです。ここでは単一農家を対象にしていましたが、今回は長洲町の農家で形成するトマト部会(5農家)を対象にすることで地域の取り組みに発展させています。
ICTインフラの共有には広域無線を活用します。NTT研究所の成果である920MHzの無線技術を活用してNTTテレコンが担当します。また、来年度にはハレックスの気象データを取り込んでビッグデータを解析し、熊本県の気象に適した栽培技術のロジックを確立していく予定です。
-どのようにこの体制が形成されたのでしょうか?
当社ではトマト栽培に関する実証事業を静岡県でも実施しておりますが、長洲町のトマト部会では土耕栽培が中心でしたので、福島での実証事業の成果を活用することが現場のニーズにマッチしていることから、NTTファシリティーズと連携することになったのです。
グループ連携による効果
-NTTグループで取り組むことでの効果はありますか?
谷口:NTTグループ には様々な技術があります。顧客の課題に対して、その技術を活用して解決策を検討することができるので、提案に広がりができます。気象情報の活用は、NTTグループにハレックスがいたから提案をすることができました。
今年度の成果と今後の広がり
-この実証事業は今後どのように広がるでしょうか。
谷口:トマトの収量拡大に向けては、光合成を促進する二酸化炭素使用による収量向上に加え、裂果抑制と病気抑制による出荷ロス低減の3つの観点で取り組む計画です。今年度はモニタリングの環境を整備したので、次年度以降にこれを活用して収量(出荷量)を拡大させていきたいと思っています。収量が拡大すれば、輸出にも向けられます。また、熊本県では施設園芸が盛んです。トマト以外にもアスパラガスなどが栽培されていますので他品種への展開が可能になると考えています。
-流通などへの広がりはありますか?
谷口:量販店が必要とする出荷量に届かず、販売機会を逃しているという話しも聞きます。今の仕組みを活用した出荷予測なども検討していき、また、流通事業者の課題をICTで解決できるような取り組みも検討したいと思っています。
-農業以外への広がりはありますか?
谷口:当社では牡蠣の生育管理の実証実験をしていますので、水産業への展開も検討しています。広域無線を活用する観点ではバスの運行管理などへの応用などのご要望も伺っていますので、今後、様々な分野への活用を考えていきたいと思っています。
まとめ
NTTグループでは、約20社が農業×ICTに取り組んでいます。そこでは研究所が開発したR&Dの技術の活用も行われています。1社では対応が困難であっても、グループの商材や技術を組み合わせて実現できることも多いのです。そのためにグループ内、グループ外を問わず意見交換や連携の議論を重ねています。
このレポートでは、NTTのグループ連携による農業✕ICTへの貢献として、熊本県でのトマトの栽培農家の経営安定(農業部門の所得の向上、労働力の確保)という課題に対する取組みを取り上げました。
熊本県の他でも、農業活性化に向けて、地域農産物の品質強化や新規就農者の拡大・定着などに取り組む自治体が多くみられます。
NTTグループのグループ連携では、企業個々の立場を超えてグループ全体で課題解決の方法を発想し、役割分担をしながら解決策を提供することができます。このグループ一体となった取り組みが土台としてあり、それができたその先にパートナー連携や分野連携が位置づけられ、農業のステークホルダーへの貢献が可能になるのです。
このグループ連携による農業の課題解決や発展に寄与していく可能性に今後も期待したいと思います。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
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井上 恵美(退職)の記事
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