輝きを取り戻した米国のカンファレンス ~AWS re:Invent 2021 (Keynote編)

本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。
1. はじめに
新型コロナの影響で、世界各地の大規模カンファレンスが中止、もしくはオンライン開催になって久しい。私自身も2020年2月にSan Francisco市で開催されたRSAC 2020が最後の大規模イベントとなった。
オミクロン株で再び世界が騒ついているが、11月28日からNevada州Las Vegas市でAWS re:Invent 2021が開催された。会場周辺を警備している警察によると「20,000人が参加するからしっかり警備するように」と言われたそうだ。
AWS re:Inventは毎年11月末に開催され、IT業界の年末の風物詩となっているが、2020年は新型コロナでオンライン開催となり、現地での開催は2年ぶりとなる。
re:Invent 2021は、現地(リアル)とオンライン(バーチャル)のHybrid開催となった。
2日目には恒例のCEO Keynoteが開催され、新しいCEOの初の大舞台ということもあり会場は多くの参加者で詰めかけた。
CEO Keynoteでは毎年、多くの新サービスや導入事例が発表されるため、エンジニアだけでなく、業界、市場が注目している。re:Invent 2021では、NTT Docomoの紹介があり、AWSが日本市場で活躍の場を広げていることがうかがえた。

【写真1】AWS社のCEOのAdam SelipskyさんのKeynote
2. 今年のテーマ
AWS re:Invent 2021のテーマは、"Pathfinders"だろう。AWS社のCEOのAdamさんやCase Studyに登場した企業パートナーが、幾度となくこの言葉を使っていた。

【写真2】今年のテーマ
3. 新サービス
CEO Keynoteで紹介された新サービスを発表の順に簡単に紹介する。
3-1. Instance
(1) Graviton3
- Graviton2と比べて25%性能。暗号化処理の速度は2倍、MLに関する性能も3倍になった。
- 消費電力はGraviton2と比べて60%も少ない。

【写真3】Graviton3
(2) C7g Instance fo EC2
- 既存の製品と比べて70%もinference(推論)にかかるコストを削減できる。
- 今日からプレビュー可能。

【写真4】C7g Instance fo EC2
(3) Trn1 instance for EC2
- トレーニング、Inferenceにおけるベストなコストパフォーマンスを発揮する。
- 今日からプレビュー可能。

【写真5】Trn1 instance for EC2
3-2. Transform
(1) AWS Mainframe modernization
- メインフレームの"高い"、"複雑"、"古いプログラミング"の課題を解決。メインフレームで実施している演算をAWSで実行可能とした。最大のメリットはMigration時間で、メインフレーム同士のMigrationより2/3に短縮できる。
- On-PremiseでもCloudでも利用できるため、基幹サービスをCloudに移行したくない企業の導入障壁を下げられる。
- 今日からプレビュー可能。

【写真6】AWS Mainframe modernization
3-3. 5G
(1) AWS Private 5G
- 2〜3日で拡張性があるモバイルネットワークの構築が可能。AWS社がハードウェア、ソフトウェア、SIMを提供する。最大の特徴は、Automatic configuration、端末の台数に依存しない課金、共有のスペクトラムの利用。
- 今日からプレビュー可能。

【写真7】AWS Mainframe modernization
(2) AWS Wavelength
- 米国市場ではVerizon社、日本市場ではKDDI社、韓国市場ではSK Telecom社がAWS Wavelengthのパートナーになっている。
- 2022年にVodafoneと提携して欧州・カナダ市場にAWS Wavelenghを提供する。
3-4. Governance
AWS社が考えるデータとユーザー、アプリ、デバイスをつなぐために必要なプラットフォームの”Governance”というコンセプトを発表した。GovernanceはData Lake、Analytics、ML、Databaseが相互に連携し、新たなデータ連携の道を拓く。

【写真8】AWS社が考えるデータ連携
(1) Data Lake
(a) Row and cell-level security for Lake Formation
- 今日から利用可能

【写真9】Row and cell-level security for Lake Formation
(b) Transactions for governed tables in Lake formation
- 今日から利用可能

【写真10】Transactions for governed tables in Lake formation
(2) Analytics
(a) Serverless and on-demand analytics
- Serverlessおよびon-demand分析を実現。
- 今日からプレビュー可能

【写真11】Serverless and on-demand analytics
(3) ML
(a) Amazon SageMaker Canvas
- MLの経験がなくてもML predictionsをno-codeで構築可能。
- 今日から利用可能

【写真12】Amazon SageMaker Canvas
(4) Database
(a) Goldman Sachs Financial Cloud for Data
Goldman Sachs社と共同で開発した金融向けクラウドサービス
3-5. IOT
(1) AWS IOT TwinMaker
- デジタルとリアルが連携したDigital Twinを簡単に構築できるサービス。
- 今日からプレビュー可能

【写真13】AWS IOT TwinMaker
(2). AWS IoT FleetWise
- 無数の車両データをほぼリアルタイムに分析するクラウドサービス。
- 今日からプレビュー可能。

【写真14】AWS IoT FleetWise
4. 導入事例
Keynoteでは、Nasdaq社、Dish社、United Airlines社、3M社のCase Studyが紹介された。ここでは、個人的に印象深かったNasdaq社、Dish社、United Airlines社のCase Studyについて紹介する。
4-1. Nasdaq社
Nasdaq社のAWS社との連携について話をしたのは、Nasdaq社のPresident & CEOのAdena T. Friedmanさん。Adenaさんによると、Nasdaq社は世界の130拠点で投資ビジネスを展開し多くの投資家の活動をサポートしているそうだ。Adenaさんは、Nasdaq社にとって重要なポイントとして、拡張性、信頼性、迅速性の3つをあげた。Nasdaq社では、1秒間に300万のメッセージを処理していて、一つの株取引にかかるEnd-to-Endのプロセス時間は20 msecだそうだ。
Nasdaq社は2008年に"Market Replay"という分析ツールの提供を始めたが、その時はリアルタイムに処理ができなかったそうだ。その後、より強力な分析ツールとするためにAWS社と連携し、2022年に米国市場から、Revenue management、Regulatory Reporting、Market Operation System、そしてMatching Engineを提供するに至った。
また、更なる高速性と信頼性を求めて、AWS Outpostsを活用したPrivate Local Zoneの運用も始めるという。Private Local ZoneはNYCから初め、将来は130の市場への展開も検討するそうだ。
Adenaさんは、AWS社との連携が市場拡大、成功への道筋をもたらすと考えているようだ。

【写真15】Nasdaq社のKeynoteの様子
4-2. Dish社
Keynoteを務めたのは、Dish社のEVP & CNO(Chief Network Officer)のMarc Rouanneさん。Marcさんは、まずテレビ中継会社からの脱却を目指した取り組みを説明した。そして、Marcさんの説明はDish社が現在注力している無線サービスへと続く。
Feature Phoneの時代は必要なかったが、iPhoneの登場でユーザーが自由に携帯電話をカスタマイズできる時代となった。Dish社は、ユーザーのカスタマイズ体験を満足させるためには、Connectivityもカスタマイズできなければならないと考えている。
「これまでは、Mobility、Restaurant、Retail、Peopleを別々のものとして考えていたが、これからは、一つのサービスとして考えることが大切だ。」とMarkさんは説明した。そのためにDish社は、Data Centric、Automation at Scale、Connecting Edge to CloudをキーワードにAWS社と連携し、”SIMPLICITY AT THE EDGE"の実現とInnovationの加速を目指していくそうだ。

【写真16】Dish社のKeynoteの様子
4-3. United Airlines社
ステージに登場したのは、United Airlines社(以降、UA社)のEVP Technology & CDO(Chief Digital Officer)のLinda Jojoさん。Lindaさんは、UA社が提供する路線と乗客の数を説明した後、新型コロナで受けた深刻なダメージについて語った。UA社は2020年に柔軟性の高いビジネスモデルを目指して検討を始めた。その矢先に新型コロナによるPandemicに見舞われた。一時期は、乗客よりもパイロットの方が多い時もあったという。
そのような状況でもUA社はデジタル化を進めた。具体的には、UA社の顧客が旅行の立案、予約、事前通知をワンストップで実現する"Travel-Ready Center"をAWSを利用して実現した。UA社は、顧客が"Travel-Ready Center"にアクセスしてPCRテスト結果の登録、目的地で提出が求められる書類の提出が簡単にできるようにした。顧客が"Travel-Ready Center"を利用することで、66%以上の書類と75%以上のPCRテスト結果のデジタル化が進んだそうだ。また、顧客が利用するQRコードがついたeTicketやスケジュールの確認も"Travel-Ready Center"を活用して実現し、デジタル化、コンタクトレス化に貢献しているという。
最初は、Amazon S3、Amazon Textract、Amazon DunamoDB、Amazon SageMakerと利用する機能は一部にとどまっていたが、今ではAWSのさまさまな機能を利用してサービス向上に努めているようだ。その甲斐あって、360度ベンチマークで良いスコアを記録したとLindaさんは嬉しそうに語った。

【写真17】United Airlines社のKeynoteの様子
5. おわりに
Pandemic以降、本格的なイベントに初めて参加した。オンラインでのイベントも便利だが、Adamさんが参加者の反応を見ながらリアルなイベントを楽しんでいる様子が伝わってきた。
イベントのCheck-inでは、Photo IDとワクチン接種カードの提示が求められ、会場内は原則マスク着用が義務付けられている。それでも、展示会場で熱量が上がった人たちは、マスクを外して話し始める。
また、会場を一歩出るとアジア人以外はマスクをしていないのが現状だ。マスクと小まめな手洗い・除菌ではリスクはゼロにはならないかもしれないが、アメリカの経済は加速傾向にある。

【写真18】大勢の参加者で賑わうExpo
本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。
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