2021.10.4 メディア2030 ICR研究員の眼

イギリス版TVerが誕生するか

イギリスのテレグラフ紙は、9月19日、公共放送BBCと民放各局(ITV、Channel 4、Channel 5)が共同の無料見逃し配信サービスの実現に向けた合意に近づいていると報じた。ひとつのアプリケーション内で、各局の番組をジャンル毎(ドラマ、リアリティーショー等)にまとめる計画だという。日本において放送局横断で提供されているTVerのイギリス版と言えそうだ。

同紙は、放送局らの動きを「アメリカの巨大テック企業(Netflix、Amazon等)に対する協調反撃」であるとし、「視聴習慣の急速な変化が従来のライバル関係を捨てさせている」と指摘した。また、この動きのなかで(Netflix、Amazon等がそうしているのと同様に)テレビリモコンへの専用ボタンの導入の可能性についても言及している。

イギリスの各テレビ局は世界でも早くからネット配信サービスに取り組んできたことで知られている。BBCのネット配信サービス「iPlayer」が始まったのは2007年12月であり、既に14年近い歴史をもつ。他局もネット配信サービスを展開しており、ITVの「ITV Hub」、Channel 4の「All 4」、Channel 5の「My5」がある。ただし、これらはそれぞれの局が自局の番組を配信するためのサービスだ。

また、イギリスの多くのテレビでは、リニア放送の番組表から見逃し配信対象の番組を選択して視聴できる仕組み(Freeview)が利用されているが、これも実際には各局のネット配信サービスに遷移する格好だ。したがって、報じられている新サービスはこれらよりも一歩進んだ協調と言えるだろう。

この新サービスの動向は、既にTVerを提供している日本にとっても参考になりそうだ。受信料の支払いが視聴の前提であるBBCの番組を新サービス上で民放各局のコンテンツとどのように並べるのか、テレビリモコンの専用ボタンが視聴習慣に変化をもたらすのか等は、TVerの今後を考える材料になるだろう。新サービスの続報に注目したい。

 

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水上 貴博(転出済み)の記事

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