2020年11月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ポストコロナに向けて動き始めたスタートアップたち


【写真1】コロナ禍のハロウィーンの様子 (出典:筆者撮影)

1. はじめに

例年であれば、米国の10月はハロウィーンで盛り上がっているが、今年はいつもと違う。一旦落ち着きを見せた新型コロナウイルスの感染者が経済の再開で再び増え始めた。シリコンバレーでは、通常登校の再開を1月中旬まで延期する学校もある。この記事を執筆した10月末には、ニューヨーク州のクオモ州知事が「カリフォルニア州からの旅行者に対して、2週間の隔離を要請する」と発表した。

そんなコロナ禍でも子供たちは友人たちや兄弟と庭でハロウィーンの飾り付けをしたり、カボチャのランタンにマスクを付けたりと、思い思いにコロナ禍のハロウィーンを楽しんでいる。

また、10月は4年に一度の大統領選挙直前で、例年であれば、テレビ討論会、選挙運動で盛り上がり、車に応援候補のステッカーを貼ったり、交差点でプラカードや横断幕を振ったりする支援者を多く見るが、今年は、庭先に応援する候補者のプラカードを飾る程度だ。私がいるシリコンバレーはカリフォルニア州でも民主党を応援する人が多く、近所の庭先に飾られているプラカードも、民主党を応援するものが多い。

【写真2】ティー・パーティのために庭に 間隔をおいて並べられた椅子

【写真2】ティー・パーティのために庭に間隔をおいて並べられた椅子
(出典:筆者撮影)

 

世界経済が一進一退を繰り返している状況で、スタートアップを支援している、シリコンバレーで著名なPlug and Play Tech Center(以下、「PNP」)社がPNP Fall Summit 2020を開催した。本稿では、PNP Fall Summit 2020に見るスタートアップおよび企業の活動から、ポストコロナのトレンドについて考察する。

【図1】PNP Fall Summit 2020のタイトル

【図1】PNP Fall Summit 2020のタイトル
(出典:PNP社)

2. PNP社とは

PNP社は、シリコンバレーで有名なベンチャーキャピタル兼アクセラレーターで、IoT、Mobility、EnterpriseなどのカテゴリーにCOVID-19、Sustainabilityなどの注目度が高いカテゴリーを加えた19のカテゴリーにおいて、スタートアップ投資やスタートアップ支援を行っている。PNP社は、創業間もないGoogle社やPayPal社などを支援していたことでも有名である。さらに、PNP社はスタートアップだけでなく、イノベーション活動に積極的な企業も支援していて、シリコンバレーの他、東京、京都、大阪を含めた世界の30カ所以上の活動拠点で、NTTコムなど、400社以上の企業のイノベーション活動を支援している。

【写真3】PNP社の本社

【写真3】PNP社の本社
(出典:筆者撮影)

 

3. PNP Fall Summit 2020とは

PNP社はスタートアップおよび、企業のイノベーション活動の支援のために、定期的にイベントを開催している。PNP社が主催するイベントは様々だが、"Summit(サミット)"と呼ばれるものが一番規模が大きく、年間で4回開催される。サミットは様々なカテゴリーのスタートアップが自社のサービスをアピールするピッチや、企業のイノベーション担当者や起業家による基調講演を聞くことができるため、将来注目を浴びるサービスや技術をいち早く入手できる他、シリコンバレー流の成功体験を学ぶ絶好の機会だ。

例年であれば、カリフォルニア州サニーベール市にあるPNP社の本社で開催されるのだが、今回はコロナ禍でSummer Summit 2020に続き、Zoomによるオールバーチャルでの開催となった。新型コロナ前は、会場で参加者、スタートアップなどがスタートアップのデモテーブルを囲んで議論したり、食事を取ったりしながら談笑ができたが、Zoomでそれを再現することは難しい。そこで、PNP社はRemoというグループチャットに適したツールを用いて、参加者およびスタートアップのネットワーキングを応援していた。

【図2】Remoを利用したPNP Fall Summit 2020のバーチャルネットワーキング

【図2】Remoを利用したPNP Fall Summit 2020のバーチャルネットワーキング
(出典:PNP社)

 

PNP Fall Summit 2020では、Supply Chain、Enterprise、Brand&Retail、Media&Ad、Food、New Materialsの6つのカテゴリーで、のべ104社のスタートアップがピッチを行い、8つの基調講演が行われ、2,000人が視聴した。

【図3】PNP Fall Summit 2020のプログラム

【図3】PNP Fall Summit 2020のプログラム
(出典:PNP社)

 

4. 基調講演

ここでは、コロナ禍における今後のトレンド、企業やスタートアップへのアドバイスを分かりやすく説明してくれた3人の基調講演の内容を紹介する。

Summer Summit 2020では、多くのスピーカー、スタートアップが”新型コロナ対策”について取り上げていたが、Fall Summit 2020の基調講演に登場した3人のスピーカーに共通するキーワードは、“Change”、“Innovation”だ。新型コロナの脅威が一掃されたわけではないが、「いつまでも新型コロナで立ち止まっていないで、この経験を糧に先に進もう」という強いメッセージだと思う。それでは、 “Change”、 “Innovation”の切り口でまとめた3人の基調講演を紹介する。

(1)DB Schenker社

Supply Chainプログラムで基調講演を務めたのは、物流業界で約150年の歴史を持つDB Schenker社の米国地区のCIO(Chief Information Officer)のRichard Ebach氏だ。

Ebach氏は、「SD Schenker社は、ITオペレーションとサービスに関するStable(安定)、Agile(俊敏)、Cybersecurity(サイバーセキュリティ)を中心に8つの分野でAIによるBig Data分析、IoTプラットフォーム、3Dプリンターなどの技術を導入し、PNP社やスタートアップなどのパートナーと連携してDX(Digital Transformation;デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる真っ最中で、未来に向けてはAgility(敏捷性)とFlexibility(柔軟性)が重要だ」と説明した。

【図4】DB Schenker社の注目エリア

【図4】DB Schenker社の注目エリア
(出典:DB Schenker社)

 

Ebach氏の講演を “Change”、 “Innovation”の観点でまとめると以下のようになる。

1)Change

  • コロナ禍における経営課題のシフト

‐  現場で働いている人の健康
‐  リモートワーカーの健康
‐  移動せずにビジネスを継続する方法
‐  不確実なパンデミック下での事業経営
‐  お客様と営業が一体となったニューノーマルでの成長

  • 常に変わり続ける物流業界で成長するために、
    ‐  将来ビジョンを持つ人材を適切なポジションに就かせて、Disruption(変革)を促進する。
    ‐  市場高度化、商用サービス開発、投資による支援、ロジスティックパートナーの観点でスタートアップで連携する。

2)Innovation

  • Data、Platform、Infrastructureの分野において、イノベーションとデジタル化で価値を創造する。
  • イノベーションは新しい製品・サービスを開発するものではなく、未来を作ることだ。
【図5】DB Schenker社のデジタル化の狙い

【図5】DB Schenker社のデジタル化の狙い
(出典:DB Schenker社)

 

(2)SAP社

Enterpriseプログラムの基調講演に登場したのは、SAP社でSenior Directorを勤めているPeter Weigt氏だ。Weigt氏の基調講演のテーマは「イノベーションは過程であり、単なる一過性のイベントではない」というもの。

【図6】Weigt氏の基調講演のタイトル

【図6】Weigt氏の基調講演のタイトル
(出典:SAP社)

 

Weigt氏の説明によると、現在多くの企業が

  • 人材の再配置
  • 新しいビジネスモデル開発
  • 方向性の検討
  • オペレーション改善
  • サービスの多角化

に取り組んでいる。しかし、残念なことにほとんどの企業はタンカーのように動きが鈍い。タンカーは大海(大きな市場)で長期間安定して航行することはできるが、クイックに方向を変えるのはとても難しく、イノベーションにおいても課題を抱えているそうだ。「理由は簡単で、イノベーションには、Nimble(機敏性)とQuick(迅速性)が必要だが、タンカーは急に方向を変えたり、止まったりすることができないからだ」とWeigt氏は説明した。また、「一般的にタンカーが止まるには3マイル(約5キロメートル)が必要で、実ビジネスでも止まるまでに時間がかかる」と例えていた。

そこでWeigt氏は「企業、およびビジネスは、市場の反応にクイックに対応できるようにスピードを兼ね備えたSpeedboat(高速艇)的なアプローチをとるべきだ」と説いた。

今回の基調講演を通じてWeigt氏は、“企業のイノベーション”に関して、デザイン思考のリーディングカンパニーらしい知見を披露してくれた。そして最後に、“タンカーのままでいるか?それともAgile(俊敏)でNimble(機敏)なSpeedboat(高速艇)に生まれ変わるか?”を参加者に問いかけて、基調講演を締め括った。

【図7】企業の将来を決める選択

【図7】企業の将来を決める選択
(出典:SAP社)

 

1)Change

  • 企業にはSpeed(スピード)、Agility(敏捷性)、Nimble(機敏性)が必要。
  • 自動化とDXが企業をスマートにする。
  • Tesla車のような企業版自動運転を実現するというマインドセットが重要。
  • 今こそ、企業はタンカーから高速で小回りが利くSpeedboat(高速艇)に生まれ変わるべき。

2)Innovation

  • イノベーションには課題の発見と解決が必要不可欠だが、“何が課題なのか?”を見つける課題発見には経験と優れたスキルが必要。
    ‐  多くの企業が課題解決にしか注目していない。
    ‐  “課題発見”なくして、真の課題解決はない。
  • イノベーション成功の鍵は、タイミング、チームと権限移譲、プロセス。
    ‐  成長のためのオプションを持ち、適切な時期に、適切なオプションを選択することが大切。
【図8】イノベーション成功の鍵

【図8】イノベーション成功の鍵
(出典:SAP社)

(3)Good Food Institute(GFI)

食品業界の注目エリアの一つとして擬似肉がある。人口増加、アレルギー対策、生命を食することへの疑問などから、植物由来の材料を用いた擬似肉などの食材に食品業界が注目している。

米国では、Impossible Foods社やBeyond Meat社が製造している擬似肉がスーパーで売られていたり、ハンバーガーレストランで擬似肉を使用したハンバーが売られていたりと、擬似肉は身近なものになっている。

日本でも人工肉を利用するハンバーガーレストランが増えている。また、日本の大手航空会社は、機内食として擬似肉を使ったハンバーガーを期間限定で提供していた。

「今、擬似肉の製造方法が大きく変わろうとしている」と言うのは、Foodプログラムの基調講演にスピーカーとして登場した、GFIでStartup Growth Specialistとして活躍しているNate Crosser氏だ。

GFIは非営利団体で、食品業界において、サイエンスとテクノロジー、企業支援、標準化の3つの分野で、健康で持続可能な食料供給のシステムへの移行を支援している。活動拠点は、米国、ブラジル、インド、イスラエル、欧州、アジアの6拠点で、合計で90人以上のスタッフが働いている。

【図9】GFIの概要

【図9】GFIの概要
(出典:GFI)

 

Crosser氏は、以下の理由で擬似肉市場が成長すると予測している。

  • 必要性
    ‐  2050年には人口は97億人になると予想され、既存の食品生産システムでは対応できない。
    ‐  既存の食料供給システムは、土地開発、温室効果ガス排出、環境汚染などの課題が山積。
  • 顧客ニーズ
  • 企業ニーズ(新たなビジネスモデル)
  • 技術革新
    ‐  植物加工、細胞培養、発酵、3Dプリンター、生産プラントなど。
  • マインドセットの変化

その予想を証明するように、食品業界では、1〜2年前から多くのStartupスタートアップが誕生している。

【図10】注目スタートアップの製品

【図10】注目スタートアップの製品
(出典:GFI)

優秀なスタートアップの登場で、食品業界への投資も急増している。投資家コミュニティはさほど大きくないが、Google Ventures社が参加するなど、協力に食品業界への投資を牽引している。

【図11】食品業界における投資トレンド

【図11】食品業界における投資トレンド
(出典:GFI)

 

Crosser氏は、擬似肉市場がさらに成長するためには、「投資機会増大、流通網整備、品質向上、市場ニーズ増大」のサイクルを回すことが必要だと言う。

【図12】擬似肉市場成功に必要なサイクル

【図12】擬似肉市場成功に必要なサイクル
(出典:GFI)

 

Crosser氏の説明を聞くと、今後も食品業界の動向から目が離せない。

1)Change

  • 現在、擬似肉の製造は植物由来の食材を使用することが主流だが、将来は、動物の細胞を取り出し、動物の対外で培養する製造手法が主流になる可能性がある。
  • 移動手段が馬から自動車に置き換わり、燃料は鯨の脂からオイルに置き換わった。インスリンは豚から人間のものに置き換わった。食肉も技術によって別のものに置き換えられる日が来る。
    ‐  農業、酪農の歴史は技術による革新の歴史。
【図13】細胞培養による食肉生成プロセス

【図13】細胞培養による食肉生成プロセス
(出典:GFI)

 

2)Innovation

  • 食肉だけでなく、アレルギー対策などの理由で卵、乳製品でも擬似食材の開発が進み、商品化されている。
  • 食品業界の次の大きなウェーブは植物由来の食材、細胞培養の食材、発酵食材のハイブリッド。

5. スタートアップピッチ

PNP Fall Summit 2020では、Supply Chain、Enterprise、Brand&Retail、Media&Ad、Food、New Materialsの6つのカテゴリーのプログラムに参加しているスタートアップがピッチを行った。

(1)PNP社から見たスタートアップトレンド

PNP Fall Summit 2020終了後、PNP社で日本企業のイノベーションを支援しているKoji Miyazaki氏とAaron Preiss氏から、PNP Fall Summit 2020におけるスタートアップトレンドについて話が聞けた。

Preiss氏は、「最近、ほぼすべてのスタートアップが新型コロナウイルスの影響でビジネスモデルや営業戦略を、根本から見直している。特に、新型コロナは航空会社などのトラベル業界に一番深刻なインパクトをもたらしている」と言う。特にそういった業界ではPivot(ピボット;サービス内容を変更すること)という言葉がよく使われるようになり、以前は順調だった会社でもビジネスモデルを変更する必要に迫られているそうだ。筆者がビジネス連携、日本市場開拓、投資の支援をし、シリコンバレーおよび日本の投資家からも投資を受けて順調に成長していたスタートアップも新型コロナの影響で会社をたたんだ。

しかし、Fall Summit 2020で取り上げられた業界は、新型コロナの影響が予想されていたものの、その影響をさほど受けなかったようだ。

Brand&Retailのプログラムでは、カスタマーエクスペリエンスおよびエンゲージメントの向上ができるプラットフォームを開発しているスタートアップが多いが、コロナ禍でもポストコロナでも同じ傾向にある。Preiss氏は、「もちろん、新型コロナの影響で良くも悪くもリアル店舗からオンラインへと急速にシフトしている。しかし、多くのスタートアップが提供を目指している“リッチなユーザー体験”という観点では、大きく変わっていないと思われる」と説明してくれた。

PNP Fall Summit 2020には参加していないが、Preiss氏が注目しているスタートアップの一つにSocialive社があるそうだ。Socialive社は、マーケティング、バーチャルイベント、社内コミュニケーションなどのための高品質な動画コンテンツやライブストリームを、既存の社内リソースを使って制作するためのプラットフォームを提供していて、新型コロナに影響を受けないビジネスモデルになっている。

筆者もLinkedIn社で教育コンテンツを制作している知人から、「新型コロナの影響で、LinkedIn社のビデオ配信プラットフォームを利用して企業研修ビデオを配信する企業が増え、LinkedIn社はコンテンツ制作スタッフを増強した」と聞いたことがある。

新型コロナの影響は大きかったが、その影響は業界によって異なるということだろう。

【図14】インタビューに応じてくれたPNP社のPreiss氏

【図14】インタビューに応じてくれたPNP社のPreiss氏
(出典:許可を得て筆写撮影)

 

(2)成長が期待されるスタートアップ

ここでは、PNP Fall Summit 2020を通じたスタートアップトレンドを紹介する。

1)Drone(ドローン)

Droneのビジネス利用は、高所、狭所、危険地帯などの立ち入りが難しい場所へのアクセスやラストマイルデリバリーの手段の一つが思い浮かぶ。日本でも橋脚、風力発電装置、送電線の点検でDroneを利用するだけでなく、運送業やネットショッピング会社などが海外の関連スタートアップに投資したり、海外の企業と連携して新しいデリバリーの青写真を描いたりしている。

PNP Fall Summit 2020のSupply Chainプログラムでは、Supply ChainらしいDroneを活用したサービスを提案するスタートアップが多く登場した。

その中で、Flyability社はSupply Chainが抱える安全性、効率性、リアルタイム性の課題をDroneを活用することで解決しようとしている。Flyability社のソリューションは倉庫や工場で働く人の安全の確保と業務の効率化を実現するためのIndoor Droneシステムだ。

Flyability社のVP SalesのAlexandre Meldem氏は、「高い場所にある製品の確認をするために、梯子を移動して、梯子を登って、作業の後に梯子を片付けて、という稼働を考えるとDroneを飛ばした方が安全で時間の節約もできる」と説明した。また、「離れたところでも、撮影した写真やビデオでリアルタイムに確認できることがポイントなんだよ」と同社の強みをアピールしていた。

人間が同じ場所で共に安全に働けるロボット開発がロボット業界のテーマの一つだが、Droneも広義の意味でロボットと捉えると、Flyability社のDroneは、本体をフレームで覆うなど人間と一緒に安全に作業ができる設計になっている。

Flyability社のDroneは、GE社やChevron社などが、人の立入りが困難な場所にあるインフラや危険な場所の点検作業に利用しているそうだ。

【図15】Flyability社のDroneの概要(上)と導入メリット(下)

【図15】Flyability社のDroneの概要(上)と導入メリット(下)
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

 

2)Marketplace(マーケットプレイス)

2009年にUber社は働き方を一変し、Gig Worker(ギグワーカー)という言葉も生んだ。Uber社の成功を受け、Airbnb社、Instacart社など、Uber社のビジネスモデルを模したサービスが続々と誕生した。App Base Service(アプリ・ベースサービス)は、自動車を所有せずにLyftやUberで移動する人が増えるなど、人の行動や社会の構造を変え、生活に欠かせないサービスになった。そして、輸送業でも数年前から“輸送業界のエクスペディア”と称されるようなスタートアップが登場し、既存の業界をディスラプトするようなビジネスモデルが続々と誕生している。

輸送業のマーケットプレイスと言えば、荷主が起点と終点を指定すると、輸送手段、輸送ルート、料金を見積もってくれるサービスがスタートアップにとっては大きなチャンスに見えているようだ。海外へ荷物を送りたい荷主にとってもサービス内容、料金的に魅力があるようだ。

先の項でも触れたように、運送業界はファーストマイルデリバリー、ラストマイルデリバリーに関するサービスに注目している。Baton社はファーストマイルデリバリー、ラストマイルデリバリーの定義を少し拡大して貨物の中継基地を開発し、荷主と運送業をマッチングするサービスを提供している。Baton社のCEOのAndrew Berrick氏によると、「荷主は、Baton社の中継基地まで荷物を運び、他の運送会社が貨物を中継基地で引き継いで最終目的地まで運ぶサービス」と説明する。Berrick氏は、自前の配送センターと対比する意味で、中継基地を “Off-Premise(オフプレミス)”と呼ぶ。Berrick氏は、「これまでは起点から終点までP2Pで荷物を運ぶのが当たり前だったが、とても非効率だ。Baton社のユーザーの中には、輸送効率が50%も上がったユーザーがいる」と同社のプラットフォームの強みを説明した。

【図16】Baton社のサービス概要

【図16】Baton社のサービス概要
(出典:PNP社)

 

小売業界では、新型コロナの影響でオンラインコマース利用者が急増し、“Same Day Delivery(同日配送)”などのサービスによる他社との差別化競争が激しく展開されており、バズワードになっているFulfillment(フルフィルメント:通販やECサイトで、顧客が商品を注文してから、手元に届くまでに発生する業務全体)に関心が高い。運送業界でも必然的に激しい競争が生まれ、サービス品質の向上、効率化が求められる。大手の運送業社であれば、独自のプラットフォームを構築することも可能だろうが、時間、コスト、革新的なアイデアなどを考えると、スタートアップとの連携という選択もあり得る。

運送業界大手は配送に限らず、商品管理、通関書類のデジタル化・自動化、配送管理(特にCold Chain(コールドチェーン)と呼ばれる冷蔵輸送が必要な荷物のトラッキング)などで、顧客満足度の向上、効率化に向けてスタートアップとの連携に積極的だ。

3)Intelligence(インテリジェンス)

誤解を恐れずに言うと、最近では、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、ML(Machine Learning;機械学習)、DL(Deep Learning:深層学習)、NLP(Natural Language Processing;自然言語分析)、Big Data分析のいずれも利用していないというサービスはないだろう。一時は、エンジンそのものの実力を訴求するスタートアップが多くいたが、最近、筆者がよく話をするスタートアップたちは、AI、ML、DL、NLP、Big Data分析はサービスの性能を向上させるためのツールと捉えている。筆者は、AI、ML、DL、NLP、Big Data分析などの技術をIT(Inteligence Technology)と呼んでいる。

ここでは、ITを活用したユニークなソリューションを提供している2社のスタートアップを紹介する。

まず紹介したいのは、Enterpriseのプログラムに登場したPrimer社。皆さんもインターネットで情報を探している時、「この情報は別のサイトで読んだ。この情報は古くて使えない」という経験をしたことがあるはずだ。Primer社は、そんな苦い経験をIT(Inteligence Technology)を利用して解決してくれる。Primer社は、インターネットにある情報を集めて、時系列、場所、ニュースに登場する人物および組織の相関関係を分析するプラットフォームを提供している。もちろん、コピーサイトは分析の段階で取り除かれる。

Primer社のサービスはこれだけではない。まだ一般公開されていないが、Primer社は入力された文章、URLをもとに“Extractive”、“Semi- Abstractive”、“Abstractive”と呼ばれる3つのタイプの“まとめ”を作成してくれる。Extractiveは、収集したデータの中から適切な文章を抜き出して作成した“まとめ”。Semi-Abstractiveは、オリジナルのドキュメントから適切な言葉を抽出して新しく作成した“まとめ”。そしてAbstractiveは、Primer社のプラットフォームでよく使われている言葉や流行りの言葉を使った、まるで人が考えたような新しく作られた“まとめ”だ。企業のリサーチ担当者にすれば、喉から手が出るほど使いたくなるサービスだろう。

Primer社のサービスは、Walmart社、HSBC社、米国空軍を含む30以上の企業・団体に利用されている。

Primer社のVP of BizDevのBarry Dauber氏は、PNP Fall Summit 2020後の電話会議で「規制が頻繁に変更される金融業、保険業が最優先」とPrimer社のマーケティング戦略について話をしてくれた。

Primer社は2015年に設立されたサンフランシスコ市のスタートアップで、4カ所のオフィスで90人以上の社員が働いている。投資ラウンドでもSeries Bを完了して合計で$58M(5,800万ドル、約60億円)を調達して事業基盤は固まり、これからさらなる飛躍を迎えようとしている。

【図17】Primer社の分析結果 上:3タイプのまとめ、下:関係者相関図

【図17】Primer社の分析結果
上:3タイプのまとめ、下:関係者相関図
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

 

次に、ITを活用して匂いに関する課題を解決するソリューションを提供しているスタートアップを紹介する。

自動車業界では、カメラ、レーダー、ライダーなどのセンサーデータのリアルタイム分析技術は、自動運転技術の開発には欠かせない。このセンサーデータのリアルタイム分析は、自動運転分野における人間の“目”に当たるものだろう。製造業やエネルギー業などのインフラ産業ではITを活用した故障検知、異音検知に関するソリューションの導入が始まっている。それを支える技術は、人間の“耳”に当たるものだ。ここで紹介するスタートアップは人間の“鼻”に当たる技術で課題を解決しようとしている。

New Materialsのプログラムに登場したVolatile社のCo-Founder(共同設立者)のAdomas Malaiska氏は、「人間の嗅覚は当てにならない。」と言う。また、Malaiska氏は、「現在、匂いのセンシングは、高いスキルを持った試験者か高価なテスト機材を揃えた研究所の2つの選択肢しかない。」と続けた。

Malaiska氏は、同社の技術開発の経緯を「蛾は匂いを嗅ぎ分けて飛んでいる。Volatile社のCo-Founder兼CTOのLucas L. Lopes Serrano氏は、“蛾の飛ぶ時の神経回路アルゴリズムをAIで再現しよう”と考え、研究・開発に2年の歳月を費やした」と説明した。

【図18】上:CTOが再現した蛾の飛行モデル、下:Volatile社が狙う市場

【図18】上:CTOが再現した蛾の飛行モデル、下:Volatile社が狙う市場
(出典:PNP社の資料をもとに筆者が編集)

 

Serrano氏の努力の甲斐あって、この研究成果は各方面で評価され、Volatile社は、この研究成果をベースにしたアルゴリズムを搭載したハンドヘルド型のeノーズ端末の商品化に成功した。Volatile社は、長年、eノーズの研究をしている教授やeノーズの専門家のアドバイスを受けながら製品開発を進めたそうだ。

Malaiska氏は、「製造業向けには、ガス漏れ検知や化学薬品の流出検知のソリューションとして提案し、運送業、食品業向けには、ビールやワインの発酵管理、肉、野菜、コーヒーなどの食品の輸送管理、安全・衛生管理ソリューションとして展開していく」と説明した。

蛾が飛ぶ仕組みを技術で再現しようと思いついたこともすごいが、それを実現してしまうSerrano氏の技術力は素晴らしい。皆さんの身の回りの見慣れた景色の中にも、好奇心を持って見てみると、意外なところに新しいアイデアが転がっているかもしれない。

6. まとめ
- New Normal(ポストコロナ)に向けて

PNP Fall Summit 2020ではポストコロナを見据えて、Innovation(イノベーション)、Change(チェンジ)を唱えるスタートアップや企業が多かった。新型コロナの影響で皆さんも、WFHやリモート会議の機会が増え、コミュニケーションの難しさや、既存の業務プロセスに不便さや疑問を感じたことと思う。その不便さ、課題、疑問がイノベーションを突き動かす原動力になるので、この危機をチャンスに変えてほしい。そして、チャンスに変えることができれば、明るい未来への扉が開かれるだろう。

PNP社は11月16~18日の予定で、PNP Winter Summit 2020を開催する。これまでは、12月に開催していたが、Thanksgiving(感謝祭)などのホリデーシーズンを避けるため、2020年は日程を変更したそうだ。PNP Winter Summit 2020では、IoT、Real Estate、Mobility、Energy、FinTech、Travel、InsurTech、Healthの8つのカテゴリーのそれぞれで基調講演、スタートアップピッチが行われる。機会があれば、ここでも紹介する。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

小室 智昭のレポート一覧

ITトレンド全般 年月別レポート一覧

2022 (26)
2021 (63)
2020 (61)
2019 (63)
2018 (78)
2017 (26)
2016 (25)
2015 (33)
2014 (1)
2013 (1)
2012 (1)
2010 (1)

InfoCom World Trend Report

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS