2022年1月28日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

デジタル社会の実現に向けて



昨年12月6日の第二百七回国会における岸田首相の所信表明演説[1]において述べられたように、科学技術によるイノベーション推進、デジタルによる地域活性化を進める「デジタル田園都市国家構想」等の新しい資本主義の下での成長戦略によって、デジタル庁を司令塔とし、官民が協働して社会全体のデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に推進する2022年新年を迎えた。

イノベーションを推進する観点では、技術経営上、研究開発から事業化までのプロセスにおいて、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という3つの障壁・関門を乗り越えなければならないとされている。

「魔の川」は、基礎研究から出発して、製品化・サービス化をめざす開発段階へと進めるかどうかの関門。この川を泳ぎ切れずに研究段階で終結を迎え、開発段階へと進めないプロジェクトが多いとされている。

「死の谷」は、開発段階へと進んだプロジェクトが、事業化段階へ進めるかどうかの関門。事業化のためには、開発段階に比べ膨大な資金・人財などの経営資源を投入し、製品化・サービス化に向けた多くの課題を解決しなければならない。この段階での脱落は企業経営に大きな影響を与え、深い谷底に落ちることになる。

「ダーウィンの海」は、これら2つの関門を乗り越えて事業化された製品・サービスが、競合他社との競争や消費者ニーズへの適応等の荒波にもまれて、市場において自然淘汰されずに生き残れるかどうかの関門である。

この3つの関門を乗り越えて、日本企業が進化するデジタル技術を活用し、DXに取り組み、デジタルビジネスを創出していくことが、国際的に見て低位にあると言われている日本のデジタル競争力の強化につながるものと考える。

そもそもDXの定義を「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」[2](令和2年7月17日閣議決定)から引用すれば、「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」とされている。

外部エコシステムの劇的な変化ということで言えば、デジタル技術を活用したディスラプター(破壊者)の出現により、従来型のビジネスモデルを踏襲する既存企業の存続が脅かされるなど市場環境は劇的に変化している。

この劇的変化に対応・対抗し、企業がDXを推進するためには、組織・文化・従業員(人財・人事管理)から構成される内部エコシステムを抜本的に変革し、AI、IoT、5Gなど最先端のICTを活用した上で、新しい製品・サービス・ビジネスモデルを創造する必要がある。

先ず組織と文化、つまりDX推進の必要性・目的を認識し、体制を構築して取り組みを進めていく意識という観点では、「令和3年版情報通信白書」によれば、「DXを実施していないし、今後も予定なし」の企業の割合が約6割を占め、大企業でも約4割、中小企業では約7割の企業が、DX推進の必要性を理解していない状況だと言わざるを得ない。また、都市部と地方部の意識の格差が大きいことも懸念材料の一つである。[3]

また、他国(米・独)との比較において日本は、DX推進の目的について、「業務効率化・コスト削減」に関する意識は高いものの、「新製品・サービスの創出」「新規事業の創出」「ビジネスモデルの変革」といった競争上の優位性を確立するDX本来の目的に対する意識が低いことも、大きな課題である。

この他国との比較の中で、「テレワーク(在宅勤務等)の導入」「フレキシブルタイム制の導入」等「働き方改革」に関する指標が高位置にあり、ICTを活用し、コロナ禍で企業活動を持続可能とするリモート型社会の実現に向けた取り組みを推進していることは、企業文化を変えていくという点では評価できる。

しかしながら、職場/在宅等の勤務場所と勤務時間が自己の裁量で決定・実施できる仕組みだけでは、生産性向上も含めた国際競争力の向上を図る観点では不十分と言わざるを得ない。

次に、日本におけるDXを進める際の課題として、デジタル人財が不足していると感じている企業の割合が5割を超え他の課題要因に比べ圧倒的に高いこと、そしてこのデジタル人財を確保・育成するための方策として、「社内・社外研修の充実」が重要視されており、今後、DXを遂行していく際の大きな支障となることが懸念される。

この点、改善・改良を重ね持続的イノベーションによって成長してきた日本型企業経営モデルの特徴である「新卒一括採用」「終身雇用制度」「年功序列型の賃金・昇進制度」は、破壊的イノベーションの中で生き残りをかけ、成長しなければならないデジタル時代の人財確保に相応しい制度であるか、検証すべき時期にきていると考える。

その意味で、『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』(冨山和彦著、2020年)における冨山氏の提言のごく一部を紹介したい。

  • 「人事組織管理」は、「能力性(賃金、昇進)」「通年採用(能力採用)」「ジョブ型雇用(特定のジョブと個人の能力適性と報酬を紐づける)」「転職は基本的に善(当たり前)→出入り自由、再入社歓迎」「新卒か中途かは誰も知らない、気にしない」

この他にも、「組織構造と運営」「事業戦略経営」「財務経営」「コーポレートガバナンス」に関する様々な先進的で知見あふれる提言が記されており、「日本企業が生き延びる唯一の方法」は、「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)=会社を根こそぎ変えることが、DXの解」とする本著を参照されたい。

これら企業におけるDX推進を政府として牽引する取り組みも加速化している。昨年12月24日に閣議決定され、デジタル改革、規制改革、行政改革に共通する指針となる「デジタル社会の実現に向けた重点計画」[4]に記載された「デジタル原則」によって、政府主導の下、法整備も含めたデジタル時代に向けた構造改革が進められようとしている。

国際的な競争力ランキングにおいて日本は、世界トップレベルの固定系光ブロードバンド、モバイルブロードバンド普及率などにより、高速大容量のデジタルサービスを支えるICTインフラに関する指標は高い。一方、イノベーションを起こすエコシステム・ビジネスダイナミズム、デジタル社会時代の人的資本・知識・技術に関する評価が低く、デジタル化を一気に進め、社会課題を解決するための施策を具体化した本計画の遂行に期待したい。

日本企業が、デジタル技術を導入・活用することにより、ビジネスモデルを変革させ、グローバル化する市場においてディスラプターに対抗し、新たな付加価値サービスを提供していくため、官と民が一体となり、制度・組織・人財のデジタル改革を推進し、巨大デジタル・プラットフォーマーが牽引する米国、国家主導で推進する中国、デジタル単一市場戦略を進めるEUなどの世界に伍し、日本ならではのデジタル国家を築く端緒となる年になることを強く願う。

[1] https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2021/1206shoshinhyomei.html

[2] https://cio.go.jp/node/2413

[3] https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1200000.pdf

[4] https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20211224_policies_priority_package.pdf

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