世界の街角から:コロナ禍を乗り越える米国、 そして日本
新型コロナウイルスが感染拡大する直前の2020年初以来、3年ぶりに行動制限のない年末年始となった日本。空港や駅には再会を喜び合ったり、旅行へ出掛けたりする人々の姿が多く見られ、活気に満ちていた。
そうした中、筆者は世界最大級の家電・IT見本市「CES 2023」に参加するため、米国へ出張した。ロサンゼルス経由で会場のあるラスベガスへと向かう。2年余り住んでいた米国から帰国した2020年夏以来、久しぶりの海外だ。
当時の米国はコロナが猛威を振るい、感染者数は連日過去最高を記録、入国は今より厳しく制限されていた。ニューヨークもロサンゼルスも、店や医療機関には「NO MASK, NO ENTRY」と大書された紙がそこここに貼られ、人々の警戒感、不安感がどんよりと漂っていた(写真1)。
新型コロナウイルスの発生から3年、米国、世界はどう変わっただろうか。ロス、ラスベガスから見える風景を少しご紹介したい。
活気が戻る羽田空港
コロナ禍で、3年ぶりの行動制限のない中で迎えた2023年の年明け、帰省や旅行でにぎわう空港や新幹線ホームの様子がメディアで繰り返し報じられた。
2021、2022両年は日本を訪れる外国人や外国へ向かう日本人はまれだった。しかし、コロナウイルスに対するワクチンや経口薬の開発が進み、人類はコロナの災禍を乗り越えつつある。2023年はいよいよパンデミックの終息が期待されている。
そうした明るい兆しが見える中、羽田空港国際線ターミナルは多くの人出で混雑していた。大きなスーツケースを携行し、家族や友人との別れを惜しんだり、家族での旅行に胸を弾ませたりする人々が多く見られた(写真2)。
筆者も久しぶりの海外渡航に思わず心が浮き立つのを感じた。出国時には新型コロナウイルスワクチンの接種証明書を提示するなど、コロナ禍ならではの手続きもある。ただ、デジタル庁のアプリで事前登録した画面を航空会社のカウンターで見せるだけであり、特段煩雑な手間はなかった(写真3)。
「行動制限がない」とはいえ、新型コロナ感染拡大以前に見られた「爆買い」などの訪日外国人がそこかしこにいるような状況では勿論まだない。ただ、免税店の日本土産の売れ行き、空っぽになった商品棚を見るにつけ、客足が少しずつ戻ってきているような印象を受ける。聞こえてくる客同士の会話もポジティブな内容が幾分多いように感じられた。
西の玄関口・ロサンゼルス
羽田を発って8時間、ロサンゼルスの国際空港、通称「LAX」に着く。
ロスは日本から米国へ向かう際の「西の玄関口」であり、映画の都・ハリウッドを擁するエンターテインメントの街でもある。到着を知らせる機内アナウンスが流れ、米国人機長と思しき人物が、懸命に覚えたらしい日本語で、長時間のフライトに対するねぎらいの言葉を口にする。最後、言葉に詰まってしまい、「朝が早くて、噛んでしまいました」と茶目っ気を出す。その様子さえ、演出的でエンターテインメント性を感じさせるのは気のせいだろうか。
着いたのは現地時間午前5時半、辺りはまだ暗い。徐々に明るくなるとともに、そぼ降る雨で駐機場が濡れているのがわかった。ただ、じっとりとした嫌な雨ではなかった。地中海性気候の、暖かでどことなく陽気な土地柄のせいだろうか(写真4)。
入国審査の手続きは午前6時にならないと始まらない。30分ほど機内に留まった後にようやくパッセンジャードアが開き、掃き出されるように搭乗客が入国ゲートへ続々と向かう(写真5)。
機内から空港へ移ると何とも言えないエキゾチックな香りが漂う。香水、髭剃りのシェービングジェル、燃料の油、どこかの国の香辛料――。さまざまな国の人や持ち物から発せられるにおいが入り混じった香りだ。不快なにおいではない。どこか懐かしい香りにさえ感じられたのは、長らく海外から遠ざかっていたからだろうか。
パスポートコントロールでは、朝一勤務の入国審査官が文字通り眠い目をこすりながら仏頂面で対応する。不愛想に無言であご先を突き出すようにして、カメラの前に立つように指示してくる。「どうして口で伝えないのだろう」と思いつつ、「これも米国流の洗礼か……。日本ではそのような横柄な態度にはなかなかお目にかかれないな」と気づき、自分が海外に来たという実感があらためて湧いてくる。
米国で最も多くの航空会社が就航する西海岸最大のロサンゼルス国際空港では、実に多種多様な人種、国籍の人々が行き交う。英語、スペイン語、中国語、韓国語、タイ語、何語かわからない言語――。聞こえてくる会話の中に多様性がうかがえ、空港が世界の縮図のように感じられる時さえある(写真6)。
空港内を歩く旅行者や出張者のうち、マスクをしている人は半数に満たない印象だ。日本にある空港とは感覚、状況がだいぶ違っている。
2020年夏のロサンゼルス市内では、得体の知れない新型コロナの感染拡大を防ごうと多くの店や施設が閉まっていた。当然、観光を楽しめる雰囲気になかった。当時に比べるとロスの中心地はずいぶんと活気を取り戻していることだろう。いつか再訪し、その様子を見てみたい。
カジノの街・ラスベガス
ロサンゼルスから飛行機を乗り継いでさらに1時間半、ラスベガスに到着する(写真7)。ラスベガスは「カジノシティ」として知られて久しい。実際、多くのホテルにはカジノが併設されており、「Hotel & Casino」と名を冠した宿泊施設がたくさんある。
筆者にとっては初めてのラスベガス。まず空港のターミナルビルに入ってすぐ、目が眩むようなスロットマシンの数々に圧倒される。さすがカジノの街だけあるが、これほどまでに公共の場でカジノが認められているとは思わなかった(写真8)。
カジノに興じている人らを横目に、中心街へと車を走らせる。市内の移動は、タクシーよりもUberやLyftといったライドシェアのサービスが幅を利かせている印象を受けた。ドライバーの多くは副業としてにわか運転手を生業としている。
中心地に近づくにつれて、カジノでにぎわう喧騒の気配を感じる。街中の看板はけばけばしいネオンサインであふれている。一定規模のホテルの中にはスロットマシン、ブラックジャック、ポーカーなど、さまざまなジャンルのカジノゲームの台が競い合うように並んでいた。いずれもきらびやかな光とともに騒々しい音を立てながら、一攫千金を夢見る客にベットされる機会を待っている。
CESの会場は非常に広く、メイン会場となった「ラスベガス・コンベンション・センター」は、それだけで幕張メッセの3倍ほどの広さに相当する。会場を歩き回るだけでも大変骨が折れる。
そこで活躍するのが地下トンネルの交通機関「Loop」だ(写真9)。
Loopは広い敷地の展示ホール同士を楽に行き来できるよう、地下のトンネルを車で移動できる仕組みだ。エスカレーターで乗り場に降りていき、続々と車が到着しては隣のホールに向かって出発していく。順番待ちの列に並んで車に乗り込むまでの流れは、さしずめディズニーランドやユニバーサルスタジオのアトラクションのようで、「Enjoy the ride!」と書かれた案内板が陽気に送り出してくれる。
地下トンネルは1キロ超。トンネル内は、緑や青、ピンクに点滅し、異世界に迷い込んだかのような、幻想的な演出に彩られる。まさにアトラクションに乗っているような気分に浸れるのだ(写真10)。
CESの会場内でマスクを着けている人は、1割いるかいないかといった印象だった。日本とはまるで違うことに驚いた。
そうした他国の状況を目の当たりにすると、コロナは終息したかのような錯覚に陥る(写真11)。
2020年の世界的なコロナ大流行から丸3年が経つ。その間、さまざまな職業が打撃を受けた。
「2年前にラスベガスに引っ越してきたんだ。出身はグアムさ」。Lyftのドライバーの一人はそう話した。彼はグアムでは日本の大手旅行会社でバスドライバーとして働き、多くの日本人観光客を相手に商売していたという。
だが、コロナで観光客は激減。客は連日大挙してやって来ていた外国人から、週に1回送迎するのみの軍人へと変わった。「とても暮らしていけない」と考え、3人の子供ら家族と2年前に移り住んだ。「1年前のラスベガスはまだコロナに対する人々の不安も強く、閑散としていたよ。この道路もこんなに混んでなかった」と渋滞する道路で困惑気味に笑う。ラスベガスの人出、観光客は着実に増えているようだ。
彼に、コロナが終息したらグアムに戻るのかと聞くと、「いや、戻らない。ラスベガスの方が稼ぎがいいからね」と即答する。観光が主要産業のグアムがコロナに見舞われたとき、きっと絶望的な気持ちにさいなまれただろうが、それを感じさせない豪快な笑い声。米国の人々のたくましさ、力強さを見た気がする。
米国では、コロナの終息は近いのかもしれない。
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