サイバネティック・アバターと肖像権~CAの利用パターンごとの分析~ 「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載6回
1.はじめに
本連載においては、最初にサイバネティック・アバター(CA)の法律問題を鳥瞰した上で(第1回・第2回)、その後は各論編として様々な人格権等とCAの関係を論じてきた。そして、連載第5回では、プライバシーとの関係で、CAの無断撮影等について論じたところである。
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第5回でも言及したが、CAは容ぼうや姿態を有している1。そこで、CAのアバターそのものが肖像として保護される可能性がある。また、CAのアバターとして第三者の写真・イラストを利用することも見られ、それが本人の許諾を得ている場合だけではなく、たとえばパロディ等の目的で無断で利用されることもある。
ここで、CAがどのようなものか、つまり、ユーザーがメタバース(や現実世界)においてどのようなアバターを利用するかによって、肖像権に関する判断や結論が変わってくる可能性があることから、以下、場合分けをして論じる2。なお、プライバシーと同様、なりすましのための肖像利用もCAにおいて問題となり得るが、この問題は第8回で検討する3。
2.肖像権の一般論
まず、前提として肖像権が一般にどの範囲で保護されると論じられているかについて説明しよう。
(1)保護の対象
伝統的な学説は、肖像権を「自己の肖像を、他人が権限なくして絵画、彫刻、写真その他の方法により作成・公表することを禁止できる権利」としていた4。リーディングケースである最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁(京都府学連事件)は憲法上「みだりにその容ぼう・姿態(中略)を撮影されない自由」があるとした5。民事上の肖像権について、最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁(以下「平成17年最判」という)は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」「人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当」としている6。
肖像権が問題となる典型的事例は、写真撮影や公開であるが、それ以外にも例えば、イラストの形態での侵害に対しても肖像権による保護の余地がある。平成17年最判も「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。」としている。他の侵害方法として、銅像化7等も含まれる8。
(2)保護の範囲
しかし肖像権に対する保護は絶対的ではない。平成17年最判は比較衡量アプローチを採用し、「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」としている9。
また、平成17年最判はイラスト化について、その描写に作者の主観や技術が反映するものであり、それが公表された場合も、作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされる旨、写真との相違を指摘している。その上で、「人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては、写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない」と結論づけた10。
要するに、イラスト化の場合には、それが容ぼう等をそのまま写し取ったのではなく、作者の主観や技術が反映しており、その分を割り引いて読者も受け取るため、受忍限度を超えるとは判断されにくくなるということである。
とはいえ、最近はリアルなCG等も作成可能であるところ、写真と区別がつかないほどにリアルに再現されたCGは、むしろ写真に類似するものとして扱うべきと論じられている11。
3.CAに自己の顔写真等を利用する場合
まず、自分自身の顔写真等をCAとして利用する場合を考えよう。
(1)CAに当該肖像等を利用することが第三者の肖像権等を侵害するか
この場合には、自己の肖像を自らの意思で利用しており、その段階で肖像権侵害は発生しない。
(2)当該CAが第三者等により撮影等されることが、CAユーザーの肖像権等を侵害するか
では、メタバースのスクリーンショット機能等の利用によってメタバース空間におけるCAの活動状況を第三者に撮影されるとか、その写真を使って第三者に類似のアバターを作られてそれが利用されるといった場合に、CAのユーザーは肖像権等を主張できるのだろうか。
実在の人物の生身の容ぼうを直接撮影する場合と同様、実在の人物の容ぼうをリアルに再現したアバターの姿を撮影する場合にも、撮影された肖像が当該実在の人物の肖像であることに変わりはない12。そこで、肖像権の侵害になり得ることを前提に、具体的な撮影や公表等の利用が受忍限度を超えるかが問題となるだろう。
但し、上記平成17年最判の示した考慮要素は、元来、写真撮影・公開のケースを想定したものであり、メタバースとの相違が指摘されている。論点整理は、「例えば、被撮撮影者の活動内容や撮影の場所、撮影の態様(写り方等)の考慮など、アバター等のケースにおいて、そのままには当てはまらない要素も一部にある。すなわち、アバター等のケースでは、実在の人物の容ぼうが、当該人物の現実の活動場面から切り取られ、容ぼうのみをアバターに写し取られた上で、当該アバターが、仮想空間内の様々な場所に移動したり、様々な活動を行ったりすることとなる。このため、『活動内容』や『場所』は写真の場合のように固定的でなく、当該アバターがどのように使用されるかにより決まる(どのようにも使用され得る)ことともなる」13と指摘している14。
いわゆる街頭において撮影される場合においては、例えば撮影について黙示の承諾があるとされたり、そこまで言えなくてもそのような街頭における撮影であることが受忍限度の判断に影響する可能性があること等から、そのメタバースにおいてそのCAがどのような活動をする場面において撮影等が行われたかを考慮するという限りで、平成17年最判の示した考慮要素はなお有用であろう。
ここで、平成17年最判の前に下されたものではあるが、東京地判平成17年9月27日判時1917号101頁はストリートファッションを紹介するサイト上で、路上を歩く原告の全身像を同意なく掲載したことを肖像権侵害であるとした上で、撮影についても公表についても違法性は阻却されないとした。
このような観点からすると、いわゆるメタバースのオープンワールドでの撮影においても、具体的な態様等の他の考慮要素も踏まえた総合判断ではあるが、撮影された場所がオープンワールドだからといって直ちに大きなマイナス(受忍限度を超えないとの判断に傾く)と結論づけるべきではないだろう。
4.CAに自己の肖像をイラスト(I2I生成を含む)化したものを利用する場合
(1)CAに当該肖像等を利用することが第三者の肖像権等を侵害するか
上記3(1)と同様、自らをイラスト化している以上、第三者の肖像権等は問題とならない15。
(2)当該CAが第三者等により撮影等されることが、CAユーザーの肖像権等を侵害するか
上記平成17年判決のとおり、イラスト化の場合においても肖像権に対する一定の保護が及ぶ以上、イラスト化したアバターについても、それが本人の肖像を描写したものと言える限り、本人の人格権としての肖像権が及ぶ16。
ここで、そのイラストが「実在の人物の容ぼうをありのまま写実的に写しとったもの」17であれば保護の方向に傾くが、ありのままに記録したものではないものについては、肖像権の対象として認められにくい傾向にある18。この点は、顔写真がモザイクや目線等で加工された場合でも、直ちに肖像権侵害は否定されないものの、その変更の程度が大きく、もはや特定ができなくなる等であれば侵害が否定される19といった議論が参考になるのではなかろうか。すなわち、イラスト化による改変が大規模で、もはや規範的に見て本人の容ぼうや姿態とは言えなくなれば、後は他人の肖像や人間以外の肖像に対する保護と同様の問題(5以下)となるだろうが、一定程度薄まっていてもまだ本人の要素が残り、規範的に見て本人の容ぼうや姿態とは言える限り、肖像権による保護自体は受けると解すべきではなかろうか。但し、その要素の希薄化に従い受忍限度を超えないと判断される可能性は高まるだろう。
そして、例えば、Aの肖像を描いたイラストが肖像権の保護の対象とされ、当該イラストをCAとしてAがいつも利用していたところ、それを第三者が撮影したという場合、平成17年最判が受忍限度についてイラストを写真より劣後させた理由である、容ぼう等をそのまま写し取ったのではなく、作者の主観や技術が反映しており、その分を割り引いて読者も受け取るという部分が当てはまらない可能性がある。つまり、Aの活動するメタバースにおいては、そのイラストこそがAのアバターだ(Aの肖像だ)と周囲から受け止められているところ、当該肖像として受け止められているイラストを第三者が撮影してそのまま写しとる行為は、まさに現実世界においてAの顔を写真で撮影するのと同様と考えることができる可能性がある20。もしこのように考えることができるとすれば、イラストが写真のように写実的である場合にはもちろん、(通常は受忍限度内(肖像権非侵害)とされやすい)デフォルメを入れたものであっても受忍限度外(肖像権侵害)とされやすくなる。
なお、現在は画像生成AIを利用し、image to image(I2I)の方法で写真からイラストを作成することができ、実際にアバターとしてこれを利用する人も増えているところ、イラストの肖像権については、著作権21と異なり、それが人間のイラストレーターが作成したものか、それともAIが作成したものかで取り扱いを変えるべき合理的理由はないだろう。
5.CAに他人の顔写真又は肖像をイラスト化したものを利用する場合
この場合は、例えば、甲(本人)の顔写真を乙がメタバースにおける乙自身のアバターに利用するという場合が想定される。
(1)CAに当該肖像等を利用することが第三者の肖像権等を侵害するか
この点は、(上記における乙による)アバターとしての利用について本人(上記の甲)の承諾がない場合に典型的に問題となり得るだろう。即ち、本人の承諾があれば具体的な利用が承諾の範囲なのかが問題となり、承諾の範囲内であれば承諾によって違法性が阻却される。
ここで、承諾がない場合において、「当該アバターがどのように使用されるかが固定的でなく、アバター操作者の操作によって、どのようにも使用され得ることが考慮要素となることも考えられる。肖像を使用された人物にとっては、当該人物とわかる容ぼうのアバター等が、他者の意図により操作され、その姿が公開されることとなり、そのこと自体が当該人物に与える心理的負担も考慮されるとすれば、一般的には、肖像権侵害に当たる場合が少なくないことが想定される」という議論がある22。
但し、これはあくまでも一般的な議論に過ぎず、具体的状況によっても判断が変わり得るだろう。まず、著名人の場合においては、肖像の保護の程度が低くなる可能性がある23。しかし、著名人であっても、勝手に第三者によってなりすまされ、その(例えば不適切な)行動が自分のことだと誤解されることによる被害等の事案を考えれば、著名人だから直ちに自由に肖像を使ってよいということにはならないだろう(なお、冒頭記述のとおり、なりすましについては第8回においてより詳細な検討を行う予定である)。
とはいえ、特に明らかにパロディであると分かるとか24、いわゆる「ファンアカウント」のように、自分がその有名人のファンであることから当該有名人の写真をアバターとしている、といったことが外形上明らかな場合については、受忍限度の判断においても受忍限度内と解される方向に傾く要素ではあろう。但し、パロディやファンアカウントだからといって常に受忍限度内と解されるものではない。例えば、下品なジョークを言う等、本人にとってマイナスの利用法がされている場合等を考えれば、少なくとも常に受忍限度内とはならないだろう。
(2)当該CAが第三者等により撮影等されることが、CAユーザーの肖像権等を侵害するか
例えば、上記事例で、乙の利用する甲の顔写真のCAを、丙が撮影する場合等である。この場合には、肖像権が人格権の一種である以上、何らかの人格との関係(結びつき)が必要ではないかが問題となる。もし、乙の人格が結びつく対象は乙自身の現実世界における肖像に限られる、と解すれば、丙の行為は甲の肖像権侵害とされ得るとしても、乙の肖像権は侵害されないということになるだろう。但し、6以下で述べるように、一定の場合には、乙の権利利益も侵害するとされる可能性はあると考える。
6.CAに架空の人の肖像(写真又はイラスト)を利用する場合
例えば、XがX自身の写真ではなく、AIで生成した架空の人物の顔写真様のもの25をCAとする場合が考えられる。
(1)CAに当該肖像等を利用することが第三者の肖像権等を侵害するか
この場合はあくまでも架空の人物の肖像等であるから、第三者の肖像権等を侵害することはないと思われる。
(2)当該CAが第三者等により撮影等されることが、CAユーザーの肖像権等を侵害するか
ア はじめに
上記事例のような場合に、YがXのCAを無断で撮影することが、Xの肖像権を侵害するだろうか。
上記のとおり、Xの肖像と人格が何らかの形で結びつかなければならないという見解を前提に、当該結びつきはXの現実の容ぼうや姿態と問題となる肖像が同一か(又はイラスト化によって一定程度薄れていても規範的に見て容ぼうや姿態と評価できるものが残っているか)で判断する、という判断基準を適用すれば、本件のように架空の他人の肖像であれば、Xの肖像権を侵害することはない。しかし、Xの肖像権や類似の権利を侵害することは本当に一切あり得ないのだろうか。以下、場合分けをして考えてみたい。
イ 架空の人物の写真がXに似ている場合
例えば、Xの写真ではなく、あくまでも架空の写真類似の画像をAIで生成したものではあるが、結果的にそれがXに似ている、という場合がある。この場合、イラスト化によって元の容ぼうや姿態と同一ではなくなっても、一定以上類似しており、規範的に見て容ぼうや姿態と評価できる範囲で肖像権で保護されるという上記4(2)の議論が及ぶ可能性がある。
加えて、肖像権に近接した人格利益に関する保護の可能性もある。この点については、お笑い芸人がアダルトビデオ販売店の防犯カメラに写った旨が週刊誌で公表されたところ、原告はその写真が自分自身かどうか分からないとした上で、あたかも自分の如く他人の写真を掲載することが肖像権類似の人格権を侵害すると主張し、東京地判平成18年3月31日判タ1209号60頁は肖像権に近接した人格的利益侵害を認めたことが参考になる26。
この判旨が、全く違う別人の顔だと明らかに分かる場合にまで及ぶかは不明であり、やはり一定程度類似している、又は、少なくともキャプション等の説明を踏まえて一般読者がそれを本人のものであると考えることを前提としていると思われるが、イラストと本人の肖像の関係のような類似性が本人の肖像と別人や架空の人物の写真との間で認められる限り、肖像権や肖像権に近接した人格的利益で保護する余地はあるように思われる。
ウ 覆面レスラー等の肖像権保護の議論
覆面プロレスラーのように、素顔を見せず、特殊なコスチュームやメイクを施した姿で社会的認知を受けている人物の、その姿についての肖像権等の判断がなされた例は、確認できないとされる27。しかし、顔に美容整形をするとその顔が肖像権による保護の対象外となるという議論をする人はいないように、自然のままの顔であること自体は肖像権によって保護される要件ではないはずである。
そして、そのようなコスチュームやメイクをしているものの、そこに「中の人」がいる、という場合に、第3回の名誉毀損で取り上げた、アバターの表象をいわば衣装のようにまとって、動画配信などの活動を行っていると言えるとしてVTuberが名誉感情侵害から保護されるとした裁判例28のように、覆面レスラー等も肖像権の保護を認めるべきだという議論は十分あり得るだろう。
実際に、操作者の人格と結びつくアバターの肖像については、自身の生身の顔や姿とは異なるものであっても、肖像権の対象と認めるべきではないかとする論もある29。すなわち、原田は、「VTuberにとって、CGアバターは『服』のようなもので、アバターというファッションを全身にまとっているという感覚にも近い。本人の実際の姿を表しているか・似ているかではなく、本人を識別・特定するものが、その人の『肖像』であるという理解に立てば、VTuberが用いるCGアバターが、『中の人』の実際の姿、『肉』(体)の顔をまったく反映していなくても、彼女・彼の『肖像』と認めることに障害はないはず」としている30。
もちろん、反対の見解もある31ものの、中の人の容ぼうと似ていないCAを利用した生活が、むしろその生活の中心となるような人も出てきている中、肖像権の保護を完全に否定するよりも、これを一定程度認める前提でその受忍限度等で合理的に制限する方が適切なようにも思われる。
7.CAに人間以外の肖像を利用する場合
例えば、ロボットや動物、アニメキャラクター等、CAに人間以外の肖像を利用する場合はよく見られるところ、この場合はどのように考えるべきか。例えば、Zが動物のCAを用いているといった場合が問題となる。
(1)CAに当該肖像等を利用することが第三者の肖像権等を侵害するか
その肖像は人間の肖像ではないので、基本的には、第三者の肖像権等を侵害することはないということになる。
(2)当該CAが第三者等により撮影等されることが、CAユーザーの肖像権等を侵害するか
上記事例においてZのアバターをWが無断で撮影した場合に肖像権侵害が認められるか。
この点については上記6と同様の問題があるところ、上記6は何らかの「人物」であるところに、人格との結びつきを認める契機があった。しかし、ロボットや動物、アニメキャラクター等であれば、その点が欠ける。そして、物の肖像権は判例上認められていない32ことから、結局のところZの利用するアバターについて肖像権での保護は与えられないということになりかねない。
ここで、現実世界において、いわゆる着ぐるみに入って活動する人が存在するところ、「アニメキャラクターの着ぐるみを着て、そのアニメキャラクターを演じている」といった形で、単に架空の人格を反映しているのではなく、あくまでも中の人の本人の人格を反映しているという場合がある33。その場合について、6(2)ウで述べた覆面レスラー等の肖像権保護の議論をさらに拡張するべきか、という点は未だに議論が成熟していないものと理解される。
但し、CAの世界においては、既にそのような人間以外の肖像を利用する事例も積み重なっているところ、これが自己の肖像類似のものとして定着している場合について本当に一切保護する必要はないのか、この点を更に議論することの重要性が高まっていると言えるだろう34。
8.CAの容ぼう以外の部分、例えば身体等の姿態が問題となる場合
最後に、CAの容ぼう以外の部分、例えば身体等の姿態が問題となる場合がある。例えば、Cが顔は自分の容ぼうを使うものの、姿態はDの身体を撮影した写真を利用するといった場合である。
ここで、姿態もまた肖像権の範囲に入るところ、特に、姿態が水着姿や裸等の公開を欲しない姿の場合については肖像権侵害となりやすいとされる35。
但し、現在のCAは、アバターのうち顔の部分はかなりポリゴン数も多く、高精度に反映するが、身体はポリゴン数が少なくデフォルメされたものも多い。そうすると、このようなCAの性質から、未だに受忍限度を超えていないと判断されることもあるだろう36。
本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授及び情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員に貴重な助言を頂戴し、また、早稲田大学博士課程杜雪雯様及び同修士課程宋一涵様に脚注整理等をして頂いた。加えてWorld Trend Report編集部の丁寧なご校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。
- なお、「顔」部分が観念し難いアバターもいるが、「姿態」は存在する。また、透明アバターも、メタバースの一定の空間を透明なもので占めているという意味で、一種の「姿態」とも評し得る。但し、例えばデフォルトアバターのように保護されない、又は保護の範囲が狭いアバターもあるだろう。
- 中の人との関係については、第3回の名誉毀損とも共通する同定可能性の問題であるので、ここでは詳論しない。「例えば、他のアバターの容姿を無断で(スクリーンショットなどの機能により)『撮影』する行為は、仮にアバターの容姿が肖像権の客体となりえないものとしたとき、撮影された肖像は『中の人』の肖像であることに変わりはないため、実在の人物の生身の容姿を直接撮影する場合と同様に肖像権侵害となり得るとしても、『中の人』が存在しないのであれば同様の評価にはならないと考えられる。」(Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会報告書」(2023年7月18日)<https://www.soumu.go.jp/ main_content/000892205.pdf >(2023年9月4日最終閲覧、以下同じ))も参照のこと。
- なお、メタバース空間を作成するにあたり、実在の人物が写り込むことによる肖像権侵害も問題となるものの、本稿はCAを念頭に検討しているのでこの問題を検討対象としない(この点は総務省「デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン」(2012年3月26日)<https://www.soumu.go.jp/main _content/000153595.pdf>及びメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」(2023年5月)<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten_seiri.pdf>が参考になる)。
- 五十嵐清『人格権法概説』(有斐閣、2003年)163頁。
- 但し「少なくとも私人間の人格権侵害または不法行為に関する先例としての意義は乏しいと評価すべきであろう」とする斎藤邦史『プライバシーと氏名・肖像の法的保護』150頁参照。
- 同判決は「人格的利益」と表記しており、太田晃詳調査官解説平成17年度789頁は「肖像に関する法的利益には絶対的な権利性があるとはいえない」としていたが、その後ピンクレディ事件(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)が「人の氏名、肖像等…は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される」としており、これを肖像権を絶対的権利として初めて承認したと評価するものもある(中島基至調査官解説平成24年度27-28頁)。なお斉藤前掲151頁注6は27頁のみを引用するが、28頁まで引用すべきように思われる。
- 東京地判平成3年9月27日判時1411号90頁。
- なお、文字による描写については争いがある(佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務』(弘文堂、第3版、2020)393-394頁)ものの、CAと関係性が薄いのでここでは詳論しない。
- 斉藤151頁が「肖像の仕様は、原則としては社会的にも是認されている正当な行為であり、違法性を推定すべきではない」とした上で、同157頁が「肖像の使用をめぐって名誉感情とプライバシーに係る事情が併存する場合には、それらの類型を横断する総合考慮により違法性を判断することも許されると解すべきであろう」とすること、及び同160-163頁が肖像の利用が本人の位格(ペルソナ)としての尊厳を害する類型において、背景事情として名誉感情・プライバシーが援用されるとき、それを講学上の自己情報コントロール権に対応する人格的利益として理解すべき場合があり、自己をどのような社会的ペルソナとして表現するかが人格にかかわる自律的選択の対象として認知されたことから、これまで個人情報の保護として考えられてきた情報の多くが名誉権の系列に属することが浮上している等とすること参照。
- この事案では、特定の写真が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が撮影されたものであって名誉感情を侵害し、社会生活上受忍すべき限度を超えて、本人の人格的利益を侵害するものであって不法行為法上違法とした。なお、東京高判平成15年7月31日民集58巻5号1699頁(ゴーマニズム宣言事件)では、「肖像画のように写真と同程度に対象者の容貌ないし姿態を写実的に正確に描写する場合はともかく、少なくとも作者の技術により主観的に特徴を捉えて描く似顔絵については、これによってその人物の容貌ないし姿態の情報をありのまま取得させ、公表したとは言い難く、別途名誉権、プライバシー権等他の人格的利益の侵害による不法行為が成立することはあり得るとしても、肖像権侵害には当たらない」とされている。
- 原田伸一朗「バーチャルYouTuberの肖像権―CGアバターの『肖像』に関する権利―」情報通信学会誌39巻1号(2021)。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)40頁。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)32頁。
- なお、「アバターの肖像を無断使用されることによる人格的利益の侵害が、一般人の感覚に照らし、社会生活上受忍の限度を超えるものとまでと認められるかについては、なおハードルがあるとする指摘もある。」メタバース官民連携会議・前掲注3)38頁。
- なお、イラスト化の結果、第三者と似てしまったということはあり得るが、その場合でも、あくまでも自分の肖像だ、ということはたまたま似た第三者の肖像権を受忍限度を超えて侵害するものではない、という方向に傾く要素だろう。
- 上野達弘「メタバースをめぐる知的財産法上の課題」Nextcom52号(2022) 11頁。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)42頁。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)37頁。
- 佃・前掲注5)402頁。
- 現実世界において、Aが特定の表情や特定のポーズ(姿態)を取っている場合、それを写真撮影をすれば、ある時点でその表情・ポーズそのままのAがいた、と受け止められるのに対し、イラストであれば、表情やポーズがデフォルメされる可能性があってそれを読者が割り引いて考える、というのが平成17年最判が受忍限度についてイラストを写真より劣後させた理由であろう。しかし、Aがイラストのアバターを利用し、A本人の表情やポーズをモーションキャプチャー等によって反映させているという場合、それを撮影すれば、まさに「その表情と特定のポーズ(姿態)をある瞬間においてAが(メタバースにおいて)取っていた」のであり、表情やポーズがデフォルメされている訳ではないことを受忍限度の解釈に反映すべき、ということである。
- 生成AIと著作権については、『ChatGPTと法律実務』82頁以下参照。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)32頁。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)33頁は「被撮影者の社会的地位を考慮したとき、著名人については、一般に、受忍すべき限度が通常より高いものと考えられ、その肖像の公開等について、肖像権侵害と認められない余地が大きくなることが指摘される。アバター・NPCへの肖像使用の場合も同様とすれば、著名人の容ぼうを模したアバター・NPCについて、本人承諾なしに作成してよいケース等が想定し得るか、どのようなケースであれば本人承諾が不要か等の議論が生じ得る」とする。
- 「さらに、実在の人物の肖像が無断で使用される場合であっても、アバターやNPCの行動が、肖像に係る本人の行動と誤認されるおそれがないような場合には、当該本人に与える心理的負担等も異なってくる面があると想定される。例えば、当該肖像のアバターがパロディとして用いられていることや、決められた動作しかしないNPCに当該肖像が用いられていることが明白な場合に、肖像権の取扱いがどのようになるか等も、議論の対象となる。」とするメタバース官民連携会議・前掲注3)33頁参照。
- 「写真と生成AI画像は、同じように見えてもまったく異なるものです。」とするhttps://www.jps.gr.jp/ about-generated-ai-images/も参照。但し「生成AIで画像を作成することは、既存の著作物(原著作物)を元に新たな画像を作成する「翻案(二次的著作物の創作)」にあたります。」という記述が常にあてはまるか等には疑問がある。
- 「掲載された写真自体からはその被写体である人物の容ぼう等が肖像権侵害を訴えている当該個人の容ぼう等であることが明らかでない場合であっても,写真の説明文と併せ読むことによって読者が当該個人である旨特定できると判断される場合や読者が当該個人であると考えるような場合には,撮影により直接肖像権が侵害されたとはいえないものの,当該個人が被写体である人物本人であったか否かにかかわらず,当該個人が公表によって羞恥,困惑などの不快な感情を強いられ,精神的平穏が害されることに変わりはないというべきであるから,やはり撮影により直接肖像権が侵害された場合と同様にその人格的利益を侵害するというべきである(以下,このような人格的利益を「肖像権に近接した人格的利益」という。)」
- メタバース官民連携会議・前掲注3)37頁。
- 大阪地判令和4年8月31日判タ1501号202頁。
- メタバース官民連携会議・前掲注3)41頁。
- 原田・前掲注8)5頁。
- 関真也『XR・メタバースの知財法務』(中央経済グループパブリッシング、2022)173頁も本人と似ていないアバターの肖像権についてそれ自体に人格はないとして消極的に評価される傾向を指摘する。なお、斉藤邦史「肖像情報に関する権利利益の諸相」情報通信学会誌30巻3号(2012)456頁及び斉藤邦史「仮想空間におけるアバターのアイデンティティ」法セ2023年2月号28頁は肖像権よりも名誉感情侵害での解決を志向する。
- 佃・前掲注5)410頁。
- 例えば、ふなっしーがこれに該当するのではないか。
- そして、第三者の肖像類似のものとして定着している場合も増えてくると、上記(1)においても、第三者の肖像権等を侵害するという可能性が出てくるだろう。
- 佃・前掲注5)398頁、東京地判平成6年1月31日判タ875号186頁、東京地判平成13年9月5日判時1773号104頁。
- なお、第三者が無断で声を利用する行為について「声の肖像権」侵害を検討する議論もある(荒岡草馬ほか「声の人格権に関する検討―韓国の『音声権』判例を参考に―」情報ネットワーク法学会第22回研究大会個別報告(2022)及び日俳連「生成系AI技術の活用に関する提言」(2023年6月13日)<https://www.nippairen.com/about/post-14576.html>等参照)。
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