2024.8.6 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

選挙イヤーにおける生成AIとの向き合い方

昨年来、生成AIがビジネスや日常生活において広く活用され、浸透し始めている。ブームの火付け役となったChatGPTのリリースから1年半余り、新たな生成AIや機能が数多く登場してきた。ただ、その精度の高さゆえに偽情報や誤情報の生成、拡散といった問題は一段と複雑化している。<pそうした中、米大統領選をはじめ世界中で国政選挙が相次ぐ「選挙イヤー」の2024年は、選挙活動での積極的なAI活用が目立つ一方、悪用や誤用への対策も急務とされる。

本稿では、生成AIが台頭した昨年以降の動きをまとめつつ、AIに対する期待と課題の現在地について、概説したい。

生成AIこの1年半

2022年11月末の米OpenAIのChatGPTの登場以来、巨大ITや新興企業による生成AIの開発、ローンチが相次いだ。

OpenAIは当初、ChatGPTに大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)として、GPT-3.5を搭載していた。その後、2023年3月には性能が格段に向上したGPT-4を組み込み、ChatGPT Plusとして有料ユーザーに提供してきた。半年後の9月には、独自の画像生成AI「Dall-E 3」を組み込んだ「GPT-4V」を発表し、画像による出入力の機能を強化、さらに2024年5月に発表した「GPT-4o」では、画像や音声によるプロンプト(指示)への応答速度が相当程度高まった。スマホなどのChatGPTのアプリに対し、話し掛ければ、まるで一人の友人であるかのように、自然な会話が成立する。GPT-4oのoはオムニバス「全体、全方位」を意味し、当初テキストのやり取りが中心だった機能は、まさに全方位的に「マルチモーダル化」が加速している(図1)。

【図1】ChatGPTの進化

【図1】ChatGPTの進化
(出典:各種データをもとに筆者作成)

ChatGPTの提供元OpenAIに巨費を投じて提携する米Microsoftも、独自のクラウドAzureやアシスタント機能のCopilotにGPT-4やDall-Eを取り入れ、そのサービス開発を強化している。

ChatGPTの独走を食い止めようと、猛追を図るのが巨人Googleである。2023年5月にChatGPTに類する機能を持つ生成AI「Bard」を発表、その後改良を重ねて同年11月にBardをGeminiに衣替えした。2024年5月にはそのGeminiの最新版となる「Gemini 1.5 Flash」を発表している。ただ、Geminiは不正確、不適切な画像を出力してしまうといったトラブルが取りざたされ、Googleの親会社の株価が急落するなど、思惑通りに事が運んでいないのが実情である。

一方、第三極として注目されるのが米新興のAnthropicが手掛ける生成AI「Claude」であり、評価指標によってはChatGPTを凌ぐ性能を誇るとされる。同社にはGoogleが先鞭をつけて3億ドルを出資したほか、Amazonが2023年に40億ドル、2024年に27億ドル超を相次いで投じて提携関係を結んだ。Amazonはこのほか自社のクラウドサービスAWSで生成AI開発用のプラットフォーム「Amazon Bedrock」を展開し、他社の生成AIをユーザーに提供している。加えてAmazon独自の生成AI「Amazon Titan Text」も手掛け、サービスのラインアップを充実させている。

一方、中には息切れする新興企業も見られ、明暗が分かれ始めている。2022年創業のInflectionは、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏やGoogle元CEOのエリック・シュミット氏ら業界の著名人がこぞって出資して注目度が高かったが、創業者ら中心人物が2024年3月にMicrosoftへ転身、Inflectionの生成AIの中核技術もMicrosoftに取り込まれつつある。また、画像生成AIの最右翼と目されていたAIサービス「Stable Diffusion」を開発したStability AIも、OpenAIやGoogleとの競争激化を背景に失速が目立つ。

今後さらなる合従連衡が進みそうだが、当面はOpenAIとMicrosoft連合の優位が続くと見込まれる(表1)。

【表1】IT大手による生成AIサービスの一覧

【表1】IT大手による生成AIサービスの一覧
(出典:各種データをもとに筆者作成、2024年5月時点)

新たなトレンド

生成AIをめぐる激しい競争や、新たな技術・サービスの開発に対する期待の高まりを受け、市場は拡大の一途をたどるとの見方が大勢となっている。

電子情報技術産業協会(JEITA)が2023年12月に発表した「生成AI市場の世界需要額見通し」によると、2023年に106億ドルだった生成AIの市場規模は、2030年に2,110億ドル(30兆円超)まで拡大すると見込まれる。年平均成長率(CAGR)は53.3%と驚異的な成長スピードを遂げる(図2)。

【図2】生成AI市場の世界需要額見通し

【図2】生成AI市場の世界需要額見通し
(出典:電子情報技術産業協会「生成AI市場の世界需要額見通しを発表」(2023年12月21日))

その他にも投資銀行やシンクタンクがさまざまな生成AIの市場予測を示しており、総じて市場の急拡大を予想している。

また、生成AIの普及とともに「大規模言語モデル」や、生成AIの精度の高さの指標となる「パラメーター」、「プロンプト(指示)」、予期せぬ誤った出力「ハルシネーション(幻覚)」といった関連用語が、キーワードとして話題に上る機会が増えた。

背景には今次の生成AIブームに至る過程では、言語モデルのパラメーター数を100億、1,000億と巨大にしていくことで性能が一段と高まるという「スケーリング則」に基づき、各社が研究開発を進めてきた経緯がある。

一方で、大規模言語モデルの開発や生成AIの出力には、相当量の電力を費やすといったサステナビリティの問題も指摘されている。そうした観点から、高性能さは失わずにパラメーター数が数十億以下のSLM(Small Language Models)、すなわち「小規模言語モデル」を志向する動きも目立ち始めている。NTTが3月から商用展開をしている独自の生成AI「tsuzumi」もパラメーター数が6億と超軽量型である。

また、モデルのマルチモーダル化の進展を背景に、入出力にテキストではなく画像を用いるケースも増えていることから、言語モデルと類する概念の「大規模画像モデル(LVM; Large Vision Models)」の研究が進み、注目度がにわかに高まっている。

加えて、AIを利用する人間側の心構え、内面を問う議論も活発化している。AIは使い道によっては至便である反面、使い方を誤って制御できなくなれば「人類の存続に対する脅威」になり得るとして、国連が警鐘を鳴らす。そうした中、AI TRiSM(エー・アイ・トリズム)といった言葉が取りざたされている。これはAIのTrust(信頼性)、Risk(リスク)、Security(安全性)、Management(管理)のアルファベットの頭文字を取った造語で、AIのリスクマネジメントの重要性があらためて意識されている。

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