2025.1.30 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

地域通貨はエコマネーの夢を見るか?

最近、「地域通貨」が再び注目を集めています。「デジタル田園都市国家構想交付金」としていくつかの事業が採択されているように、地域通貨の「その地域だけで消費される」特性が地域経済の活性化につながると期待されています。この地域通貨を定義するなら、「自治体や一部のコミュニティでのみ利用される、独自の通貨」でしょうか。その草分け的な存在である伊那市の「い~なちゃんカード」や飛騨高山の「さるぼぼコイン」、深谷市の「negi」など、各地で様々な地域通貨が導入されていますが、実は古くから同種のものが存在していました。江戸時代には各藩が藩内でしか利用できない「藩札」を発行していました。また、明治時代に沖縄県の大東島諸島では「大東島紙幣」が流通していました。これは、大東島に町村制が施行されていない時代に、この島を事実上所有していた民間企業が発行していた疑似通貨で、ほぼ日本円と同様のものとして使われていたそうです。

この地域通貨には大きく分けると二つの価値があります。一つは当たり前ですが「金銭的・経済的価値」で、もう一つが「非金銭的・非経済的価値」です。後者についてはあまりピンと来ないかもしれませんが、2000年代には地域の相互扶助・住民同士の助け合いを促進するための手段としての地域通貨、いわゆる「エコマネー」が提唱されました。これは、ボランティア活動や他人への「ちょっとしたお手伝い」のような経済的価値に置き換えることが難しい活動にエコマネーという単位の価値を与え、それを交換することで地域内の支え合いを実現しようとするものです。実際の導入事例としては、北海道栗山町の「クリン」、千葉市の「ピーナッツ」、富山市の「夢たまご」などがあります。例えば「クリン」では、除雪や車での送迎、パソコン指導などの「ボランティア活動1時間を1000クリン」とし、活動の対価としてクリンを支払う循環を作っていました。しかし、残念ながらエコマネーが成功したとは言い難く、現在まで存続していてもボランティアポイントとして記念品と交換するような形式に変わっているものが多いようです。その理由としては、紙のチケットのようなアナログの仕組みでは管理運営が煩雑になってしまうことと、「経済的価値がないとポイントとして使われるモチベーションが生じない」ことがあります。当時からもエコマネーに経済的価値を持たせるような議論はされていたようですが、制度的にも技術的にも難しかったと聞いています。

これらの課題を、今後の地域通貨は解消できるかもしれません。現在の地域通貨の多くはスマホアプリで提供されています。ポイントの利用や蓄積の処理はデジタルで行われますし、何よりキャッシュレス支払いに慣れた人が多くなっているため、地域通貨を利用するハードルが低くなっています。そして、経済的価値と非経済的価値を両立させるような仕組みも登場しています。筆者が住む埼玉県さいたま市では、2024年7月から「さいたま市みんなのアプリ」の提供を開始しました。行政情報の配信やマイナンバーカードとの連携など多くのサービスが内包されていますが、目玉機能がこの地域通貨で、政令指定都市としては初導入になります。地域通貨・ポイントとしては、クレジットカードや銀行口座からチャージする電子マネーとしての「さいコイン」とそのチャージの他、ボランティアや地域貢献時に付与される「たまポン」、行政給付として受取口座へ付与される「行政ポイント」を別建てにしています。これにより「給付制度で受け取ったポイントは利用店舗や購入商品を制限する」や、「市民の活動に対してポイントを付与、それを交換できるようにする」などの使い方を可能にしています(図、表)。

【図】「みんなのアプリ」操作画面

【図】「みんなのアプリ」操作画面
(出典:「さいたま市みんなのアプリ」)

【表】さいたま市「みんなのアプリ」が有する主な機能

【表】さいたま市「みんなのアプリ」が有する主な機能
(出典:つなぐ「さいたま市みんなのアプリ」ウェブサイト掲載情報をもとに作成)

 

このさいたま市の取り組みは、2024年12月時点でアプリのダウンロード数は8万件を超え、利用可能店も1,500店舗に到達したとのこと、市町村が独自に提供する地域通貨としては国内最大規模に成長しています。今後さらに利用者と利用範囲が拡大していけば、電子マネーとして経済的価値がある地域通貨と、ボランティアや地域貢献につながると夢見られていたエコマネーが、シームレスに実現されていくかもしれません。市民の一人としても、今後の発展に期待しています。

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