2020年11月13日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

知られざるeSports ~eSportsはスポーツか?



「eSports」という言葉は、スポーツ分野の「(大迫)半端ないって」や「そだねー」とともに、2018年にユーキャンの「新語・流行語大賞」のトップ10に入賞し市民権を得た。しかし、国内においてはeSportsに対する冷ややかな見方が依然少なくない。

根底にあるのは、「eSportsはゲームの腕前を競う。しかし、ゲームは汗をかかないから、健康的ではない。だから、eSportsはスポーツではない」との見方だ。もちろん、その主張は分からなくはない。

eSportsには後述するとおり、プロ選手が存在する。少し野球を知っていれば、プロ野球選手の150キロの投球や、東京ドームのスタンドへ打球を飛ばすことがどれほどすごいことかはすぐに分かる。同様に、少しeSportsで使用されるゲームをプレイしたことがあれば、YouTubeなどで視聴できるプロゲーマーのスーパープレイには圧倒されるだろう。正確性、集中力、瞬時の判断。そこには人間を魅了する要素が確かに存在し、それ故それをビジネスチャンスとして活かそうとする者も現れる。

本稿では、用語としての知名度はあるものの、誤解も多いeSportsについて解説する。

eSportsとは何か

eSportsとは何を指すのだろうか。

一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)は、「『eスポーツ(eSports)』とは、『エレクトロニック・スポーツ』の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。」と定義している。また、朝日新聞では、「『対戦型のコンピューターゲーム』を『電子機器を使った競技』ととらえた呼び方」と解説される。

総じてeSportsとは「対戦型コンピューターゲームをスポーツ競技と捉えた呼び方であり、ゲームの技術を競うもの」だと言えよう。

散見されるのが、そもそもeSportsとはスポーツなのか、という議論だ。大辞泉でスポーツを引くと「身体運動の有無にかかわらず、一定のルールに則って勝敗を競ったり、楽しみを求めたりする身体活動などの総称」だという。自動車などの乗り物を使用する競技をモータースポーツといい、将棋や囲碁などをマインドスポーツということから考えても、運動量の大きさだけを基準としeSportsだけを批判するのは的外れではないだろうか。

eSportsの歴史

ゲームの腕前を競うことは、コンピューターゲームが出現した1980年代から行われている。ファミリーコンピューターのシューティングゲームで、1秒間に16連射し子どもから絶大な人気を得て雑誌やテレビに引っ張りだことなったハドソンの高橋名人は、日本で初のプロゲーマーと言えるだろう。そして1985年頃には、後に続くように多くの「名人」が誕生した。彼らは技術を競ったので、広義のeSportsはこの頃には存在したと言える。

そもそも、eSportsは外来語で、海外では2000年頃に使われ始めたようだ。2000年代前半には、欧州や中国でeSportsを競技とみなす各種大会がはじまっている。

国内では、2007年に日本eスポーツ協会準備委員会が設立されたことがきっかけとなり、eSportsという言葉が少しずつ浸透していく。同年、eSportsの日韓戦が行われ、以降様々な大会が催されている。2018年、それまで国内にあった3つのeSports推進団体を統合しJeSUが設立された。JeSU設立もきっかけとなり、この年はeSports大会の規模や頻度も非常に増えたことから、日本におけるeSports元年と呼ばれている。

野球より多いゲーム人口

図1は、各競技における世界のスポーツ人口(ファンの数)を示している。トップはサッカーで約40億人、続いてクリケットが25億人と続く。日本で最も人気の野球は5億人で世界での人気は第8位だ。

【図1】世界のスポーツ別ファン数

【図1】世界のスポーツ別ファン数
(出典:Worldatlas、Newzooをもとに情総研作成)

この表中に記載はないが、世界中でゲームを楽しむゲーム人口は31億人だという推計がある。彼らはeSportsの潜在的なファンである可能性がある。単純に考えると、eSportsは世界中でサッカーに次いでファンの多いスポーツとなりうる。

eSportsの特長

ここで、高額な賞金、ハンディキャップ差の小ささ、興行の多様性の3つをeSportsの特徴として紹介したい。

世界規模のeSports大会では莫大な賞金が話題となる。表1に、世界の賞金総額トップ5のeSportsタイトルを示した。トップのDota2というゲームでは2億2,600万ドルもの賞金が支払われる。賞金総額世界トップ5のゲームタイトルにはいくつかの共通点がある。(1)遊戯人口が世界で1億人以上存在、(2)英語を中心とする世界20カ国語以上の多言語に対応(日本語対応のないものもある)、(3)主にPC向けのゲームである(日本では任天堂の SwitchやソニーのPlayStation 4などコンソールゲームが遊戯の中心である)、(4)基本料金が無料で遊べる(そのためユーザーが多い)などである。

【表1】世界のeSportsタイトル別賞金総額トップ5

【表1】世界のeSportsタイトル別賞金総額トップ5
(出典:Esports Earnings、SteamSpy をもとに情総研作成)

ハンディキャップ差の小ささも特徴である。他のスポーツでは体格や年齢(高校生か中学生かなど)、性別で実力に大きな差が生まれるため、男女や世代で競技は分かれ、体格に応じた階級が設定される。また、身体の障がいの有無により、オリンピックとパラリンピックが分けられている。しかし、eSportsではそれらの差をあまり意識する必要がない。ゲーム内のキャラクターは、同じタイミングで操作すれば必ず同じ反応を示すからである。そこにはプレイヤーの筋力や身長の差は存在せず公平である。実際に小学生のチャンピオンや、女性のプロ選手、65歳の高齢者ばかりで結成されるプロチームなどが存在している。

最後に、興行の多様性について紹介する。野球やサッカーの興行は主にスタジアムなどの競技場で行われ、注目度の高いものはテレビ、さらにはDAZNなどのスポーツ専用ネット動画で放送される。eSportsも主に競技場(アリーナ)で開催され、人気の高まりとともにテレビやDAZNでも放送されるようになってきている。しかし、最も多いファンとの接点はAmazon傘下のTwitchやお馴染みのYouTubeでのライブ中継を含めたオンライン配信である。eSportsとこれらのネット動画サービスの組み合わせは、非常に多くのeSportsイベントで受け入れられている。

プロ選手の存在

冒頭で述べたとおり、eSportsにはプロ選手が存在する。ゲームを生業にするためしばしばプロゲーマーとも表現される。

そもそも、スポーツの世界において「プロ」の定義は様々だ。Jリーグのチームに入団すればプロサッカー選手とみなされる「チーム契約型」、ゴルフやボクシングのように競技団体が実施するプロテストに合格するとプロになれる「ライセンス型」、陸上や水泳で近年目立つようになってきた自力でスポンサーを獲得する「宣言型」など多岐にわたる(表2)。

【表2】プロスポーツ選手の定義

【表2】プロスポーツ選手の定義
(出典:日経電子版(2011.12.5)をもとに情総研作成)

eSportsにおいてもプロ選手の定義は多様である。主なものにはJeSUが公認する「ライセンス型」、企業がスポンサードするeSportsチームに所属し報酬をチームより得る「チーム契約型」、個人で大会から多額の報酬を獲得し、先述のTwitchやYouTubeで超絶技巧を駆使して視聴者を集め、ひいては独自にスポンサーからの支援を得るような「宣言型」が存在する。

規制緩和が望まれる三法

日本では世界に比べてeSportsの発展が遅れてきた。eSports競技に対する高額賞金の設定や大会運営において、いくつかの現行法が足かせとなってきたことがその原因として指摘されている(表3)。

【表3】eSportsに関連する法律

【表3】eSportsに関連する法律
(出典:各種情報をもとに情総研作成)

景品表示法は、過大な賞金や景品によって消費者を誘導することを規制する法律である。eSportsの大会が、競技タイトルとなるゲームのメーカーによるプロモーションだとみなされる場合には、この規制により賞金が上限10万円に縛られることになる。

また海外では一般的な運用であるが、日本においてプロ選手から参加費を徴収し、それを原資として賞金を拠出する場合は、刑法の賭博罪とみなされる可能性がある。

さらに、風営法はゲームセンターの営業に届け出を必要としている。これにより、eSports大会を開催しようとするたびに都道府県の公安委員会への届け出が必要になる可能性も指摘されている。

前述のJeSUでは公認の大会を多く開催していることもあり、eSports発展のために、これら三法の法解釈を明らかにする活動を行っている。

eSports大会の例
―ストリートファイターリーグ

具体的なeSports大会の例として、JeSU公認大会である「ストリートファイターリーグ」を紹介する(表4)。

【表4】ストリートファイターリーグの概要

【表4】ストリートファイターリーグの概要
(出典:ストリートファイターリーグ公式HPの情報をもとに情総研作成)

対象ゲームは、カプコンの『ストリートファイター』で、シリーズ累計4,000万本の販売を誇る格闘ゲームの代表作品だ。賞金総額は300万円。JeSUのプロライセンス保有者と、予選を勝ち抜いたライセンス非保有者が参加し、決勝を目指して戦う国内最大級のeSportsイベントである。

2019年までは、決勝にあたるグランドファイナルはリアル会場(アリーナ)で開催されたが、新型コロナウイルスの影響を受け、2020年の大会はすべてオンライン開催となった。なお、オンライン対戦にあたっては「遅延に関するルール」が設けられている。対戦ごとに、選手は遅延(ラグ)チェックを実施し、ラグありの場合は申告の上1回限り機器を再起動できる。使用機種はPlayStation 4かPCとなっており、PCのスペックや接続する回線種別についての規約は定められていない。競技環境は、ゴルファーがゴルフクラブを、野球選手であればグラブやバットを選ぶように、eSports選手に委ねられているのが現状である。

ファンの主要な視聴手段はオンラインである。TwitchやYouTube、Mildomといった配信サイトにアクセスしライブ映像を観ながら、TwitterやFacebookで選手を応援するのがeSportsの一般的な楽しみ方である。野球やサッカーなどもSNSなどを活用したマルチスクリーンで、ファンとの新たなエンゲージメントを模索してきたが、成功に至らなかった視聴スタイルである。

eSportsへの期待

TwitchやYouTubeへアクセスすると、様々なeSports大会の試合や、プロゲーマーのテクニックの動画を見ることができるので、興味のある方は見て頂きたい。同じゲームで遊んだことがあれば、彼らのプレイが如何に超人的か分かる。ゲーム内のキャラクターに、何か細工(チートと呼ばれる)をしているのではないかと疑いたくなる。高橋名人は16連射をするために筋トレを欠かさず、握力が85キロあったそうである。プロゲーマーは、心も技も「半端なく」鍛えている。

eSportsがスポーツなのか否かについては今後も議論が続くだろう。しかし、ここまで紹介してきたように、eSportsには「運動のスポーツ」に劣らない魅力が存在する。

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