構想力で日本の競争力を高めよう
1.はじめに‐日本経済の現状
年が明けて1カ月が経ち、もう2月。節分が終わると、すぐに立春を迎え、中旬からは梅の花も見ごろとなります。たけのこ、菜の花、たらの芽といった味覚を楽しませてくれる春の食材も店頭に並び始め、季節の移ろいを感じさせます。そして、春の代名詞といえば「サクラ」。「サクラ咲く」を迎えたい大学受験生にとっては勝負の月です。春の訪れとともに、多くの受験生の「サクラ咲く」を願う季節となりました。
このように四季を感じさせてくれる季節の到来は日本ならではですが、現在の日本経済に目を移すと、これまで世界第3位を維持してきた名目GDPは第5位にまで順位を落とす見込みとなっています。また、1人当たりGDPはG7諸国の中で最下位、世界全体では40位前後にとどまる見込みとされています。
賃金は緩やかな上昇傾向を示し、インバウンド需要の回復など、明るい兆しも見られますが、物価上昇や国際競争力の低下、人口減少と高齢化など、依然として日本社会は構造的な課題への対応を迫られています。
2.対処療法から持続性のある取り組みへ
もうひとつ春といえば春闘。2026年の注目点は、前年と同じ程度の賃上げを続けつつ、物価を超える賃上げが可能かどうかです。これまでの傾向を見ると、中小企業や労働組合のない企業では賃上げ率が相対的に低く、防衛的な賃上げにとどまった企業も多く見られました。前年と同水準の賃上げを実現するためには、引き続き価格転嫁の推進や、デジタル技術の活用による労働生産性の向上が不可欠になります。また、競争力を高めるための人材育成・働き方改革も重要な戦略です。単なる賃上げや一時的な施策に依存するのではなく、必要なのは持続性のある取り組みです。
3.日本の“潜在能力”に目を向ける
日本が経済力を高め、持続的な成長を果たすためには、従来の延長線上ではなく、新しい発想と取り組みが不可欠です。これまで日本は、製品やサービスを「より高機能に」「より精緻に」することで競争力を維持してきました。しかし、その結果、多機能化しすぎて価格が高くなり、ユーザーにとっての価値が十分に感じられないという状況を招き、世界市場での優位性を失いつつあります。
AIの活用も、同じ構図に陥る危うさをはらんでいます。AI活用時には「さらに便利に」「さらに高度に」という発想が先行しがちですが、効率化のほか、連続性のある進化に固執すると、過去と同じように本質的な価値を見失うリスクがあります。重要なのは、単なる機能追加ではなく、ユーザーや社会にとっての本質的な価値を問い直すことです。
新しい取り組みとしては、革新的な技術開発や異業種連携など、さまざまな方法がありますが、そうでなくても、既に日本が持っている資源から、外部環境との新たな出会いによって日本ならではの魅力・競争力を引き出すことができれば、他には提供できない価値の源泉になる可能性も秘めています。
4.海外から見た日本の評価
国際的な市場調査会社イプソスが発表した2023年版「アンホルト-イプソス 国家ブランド指数」[1]では、日本がドイツを抜いて初の世界首位を獲得しました。「科学技術への貢献」「クリエイティブな場所」「製品の魅力」の各属性で1位となったほか、「人材」「観光」「雇用可能性」「活気ある都市」など、多くの分野で高い評価を受けています。
こうした結果からも、日本のブランド力は世界で確かな存在感を示しています。海外では文化や歴史、伝統への関心も非常に高く、私たちが当たり前と思っているものが、外から見ると大きな魅力として映ります。
5.日本の価値を再定義
過去の歴史を振り返れば、浮世絵はその象徴的な例として挙げられます。かつて日本国内では、大衆出版物として安価に流通し、芸妓や役者の肖像、風景などを描いた「日常の絵」として扱われていました。しかし、19世紀半ば、開国に伴い欧州へ輸出されると、浮世絵は全く別の評価を受けます。写実を重視していた西洋の画家たちは、遠近法にとらわれない構図、鮮やかな色彩、余白の美しさに衝撃を受けました。ゴッホやモネをはじめとする印象派の画家たちは、浮世絵を研究し、新たな芸術潮流を生み出す契機としたことはよく知られています。つまり、日本で「当たり前すぎて価値に気付かれなかったもの」が、外の世界では革新の源となり、世界のアート史を動かすほどの力を持っていたのです。
私たちがいま取り組むべきことは、単なる改善や機能追加ではなく、デジタルとグローバルの視点を踏まえて、日本が持つ固有の資源を外部から見つめ直し、新たな用途や価値として再構築する「価値の再定義(リ・デフィニション)」です。高度な技術のほか、既に存在する文化、自然、人材、社会システムといった日本固有の資源を再解釈し、新しい文脈(ストーリー)をつくることで、日本の競争力を引き上げることにつながるものと考えます。
例えば、数百年を超える歴史を持つ寺社の空間を、世界のエグゼクティブにとって精神的な回復の場として、「メンタル・リカバリー拠点」と再定義し、静寂や高僧との対話を提供する高級宿坊とすれば、知的エリート層が集う特別な拠点として国際的な価値を高めることができるかもしれません。また、八百万の神々を持つ日本神話は、世界でも希少な未開拓の巨大IPとしての価値を持っているかもしれません。
必要なのは、日本人が自分たちの「当たり前」を、世界基準の「プラチナ」として捉え直す構想力――まずは、自らの価値に気づくことからはじめてみませんか。
[1] https://www.ipsos.com/ja-jp/nation-brands-index-2023
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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