2015年10月2日掲載 地方創生 InfoCom T&S World Trend Report

地方創生-地域それぞれのICTの活用を考える


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政府は2014年9月、安倍首相を本部長、石破地方創生相と菅官房長官を副本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げて、地方創生の取り組みを本格化しています。さらに同年12月には地方創生の長期ビジョンと総合戦略を策定し、“地方創生の原則-自立性・将来性・地域性・直接性・結果重視”を定めて、それに基づき各自治体は現在「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の策定を進めています。

また、地方創生関連予算として2014年度補正と2015年度分合計で2兆円弱の予算が用意されていますが、地方人口ビジョン(人口減少への歯止め)と地域産業振興との関係など政策の当否が分かりにくいだけに、自治体の総合戦略作りにおいても政策のポイントが人口減少対策なのか、それとも産業振興や自治体運営にあるのか、まことに絞り込みにくいのが実情です。加えて、これまでの地域活性化関連化施策との違いも不分明で、結局のところ現在までに起こっていることは、自治体総合戦略のコンサルバブル(当社ICRも他人事ではありませんが)とプレミアム商品券騒動が典型です。これではバラマキ政策の繰り返しであり、継続性に乏しい一時的な効果しか望めませんし、地域の特性に適した地域課題の解決とはなりません。国の財政事情が逼迫するなか、新たな予算獲得の名目として「地方創生」が使われてしまっているとしか思われません。全国各自治体でプレミアム商品券の募集・発売が相次いで行われ、その模様がマスコミで報道される都度、この施策の目指すべき成果とその検証が気がかりでなりません。国に予算をつけて全国各地で展開する従来型の政策では、結局のところそれぞれの自治体間ではサービス提供競争を生み出してしまい、“各地域の実情や将来性を十分に踏まえた、持続可能な施策を支援する”ことには繋がりません。地域の意向を継続的に反映する仕組みがないことに問題があります。

人口減少への歯止め策にしても、日本全体の人口減少は進行の見込みに差があっても止めることはできません。東京への人口の一極集中にしても、経済のグローバル化のなか人材や都市機能の集中化・効率化から避けることは不可能です。こうした避け難い経済的な状況の下で、各自治体が人口流入策を一律に競争し始めてしまうと、それぞれの自治体にとっては是認されることでも、すべての自治体(地域)が勝ち組になれる訳ではないので、大多数の負け組を生み出してより一層自治体運営を疲弊させることになりかねません。国の政策や予算(特に補助金)に基づいた方策ではなく、地場(地域)の産業に属する企業ひとつひとつが競争力を高め稼ぐ力を身につけることが何より重要ではないかと考えます。つまり、そこに“まち・ひと・しごと”の繋がりがあるからに他なりません。地方には地場産業に従事する中小企業が多く存在しているので、その一社一社のレベルアップが遠いようでも結局は近道なのです。

地場産業一社一社の稼ぐ力、特に域外に向けたそれを育成することになりますが、そのためには何より当該企業の経営力こそが基盤になります。例えば自治体の産業振興を担当する商工労働部などでは、昔から地場産業の業界団体と補助金などの助成策についてベテラン経営者の方々と意見交換などを行っていることが多いかと思いますが、少し視点を変えてブランドやデザインへの傾注やICTを活用した経営の合理化(見える化)を推進する、具体的には予算や年間スケジュールの作成に止まらず進行に対応した予算と実行の対比分析、中期経営計画による会社動向の判断など企業経営の基盤をICTを使って見える化することが経営力アップの道筋となります。これまでどおりを続けるための方策ではなく、人口減少・人手不足時代において域外に向けて稼ぐ力をブランドやデザイン、ICTによって生み出すことが地域の雇用を創出して人口減少の歯止めとなります。補助金に自分を合わせる単発策ではなく、ICTを活用した継続的仕組み(見える化の促進)作りが重要です。ICTを使ってこそ会社決算の詳細で具体的な分析が早期に可能となり、商品・サービスや事業の集中と選択が可能となります。棄てる覚悟を生み出すこともまた重要な経営力となります。

地場産業の振興について述べてきましたが、地方圏での就業者構成をみると、卸売・小売、製造、医療・福祉の順であり、この3分野で全体の半数以上を占めています。特に大都市圏と比較してみると医療・福祉と卸売・小売の就業者構成が高くなっていて、地方の雇用が支えられているのが分かります。地方創生でしばしば指摘される観光(ここでは宿泊・飲食)や農林漁業の就業者は前の3分野に比べれば高くありませんが、ただこの2分野が外国人観光客のインバウンド需要や農産物の輸出商品化などでは新規分野となっていますので、今後の伸びしろが大きいと想定できます。

前述の3分野、卸売・小売、製造、医療・福祉の労働生産性を見てみると、大都市圏の水準の7割程度と低くなっていて、このことが地方での賃金水準が抑えられて雇用吸収が進まない要因となっています。また宿泊・飲食や農業ではそもそも生産性が低いので、若者の雇用の場とはなり得ていないのが実情です。地方圏での就業者比率の高いこの3分野こそ、ICTを活用して生産性を高めることが可能な分野です。大都市圏との生産性の差を縮めない限り、賃金は上がらず雇用も安定しません。経営管理から商品・サービス開発、顧客動向把握、マーケティングまで、クラウド利用やビッグデータ解析を取り入れたICT活用こそ生産性を高める道筋です。要は身近に存在するさまざまなデータを収集蓄積して、そこから経営に意味ある情報を引き出す方策に尽きます。これこそが地域の地場産業のイノベーションであり、域外から稼ぐ力を創出する道になります。医療・福祉分野でも2割強の生産性格差が大都市圏との間にありますが、地方での人手不足・若者不足の現実を踏まえると、この分野こそICTの活用によって高齢者の健康増進(ヘルスケア)から福祉・介護まで連携した取り組みが期待されるところです。老齢人口の比率増加は、もし医療・福祉分野が若年労働力の地域での受け皿となれるのなら人口減少の大きな歯止めとなります。何よりも人的な生産性の向上が必要な分野です。今年から配付が始まるマイナンバーの有効活用が第一歩になるでしょう。

卸売・小売の分野では商圏のあり様によっては必ずしも域外から稼ぐ力を生み出すことは難しいところがありますが、その場合でも地域(商圏)内の情報発信・情通流通の活発化によって地域経済の活性化を図ることが可能です。紙ベースの地域情報誌の一層の活用と併せて地域(商圏)独自のホームページやブログなどによる発信や交流によって紙媒体とネットとの複合化が図られて地域(商圏)内の消費が促進され、小さくても活性化した地域経済を作り出すことができます。ここでもICTを取り込む工夫が求められます。

最後に地方創生で忘れてはならない取り組みに、ふるさと納税制度があります。これは2009年度(平成21年度)から始められた寄附金制度で既に6年間の実績があり、昨年度(2014年度)では全国で13万人(142億円)に利用されています。趣旨に賛同して自治体に対して個人が自分の意思で寄附をする制度です。金額の限度はありますが、所得税と住民税でほぼ寄附金全額が税額控除される仕組みとなっています。直近では、それぞれの自治体から地域の産物(農産品が多い)がお礼の形で送られてくるメリットがしばしばニュース等で取り上げられていますが、この制度の本質は寄附者個人による地方創生行動にあると考えます。農業など地域の産業振興だけでなく、自然環境の保全や地域文化の保護など多面的な地方創生が可能となる仕組みです。

現在のところは財政上の理由が主たる取り組みとなっていますが、さらに寄附金の使途や寄附者と自治体との関係に工夫を凝らして、新しいふるさと作り、域外の特別な住民認定、さらには里帰り高齢者や人材の還流を進める具体的な施策などに繋げることができるのではないかと思っています。ここでは継続的なふるさと納税(寄附)者のリスト化と自治体の政策決定への関与や医療・福祉を含めて自治体の公共サービスの利用など、それぞれの自治体の施策の違いがこのふるさと納税制度活用の満足度・優劣を計る実際の証明となるでしょう。この制度が始まって6年が経ちますが、東日本大震災後の2012年度に避難者支援を含めて74万人・649億円に達した実績がその後急減しています。改めて地方創生政策の一貫として自治体独自で決められる幅の大きい財源と施策であり、特に地方圏に有効に機能する方策なので、各自治体における政策的工夫が求められます。ここでもふるさと納税者との継続的なコンタクト、特別域外住民の登録(二重住民票)、政策決定への意見など対話や収集、公共サービスの案内と利用手続きなどふるさと納税者が全国に分散しているだけに、ICTによるシステム化が制度運用の要になります。国の意向による地域間競争でなく、自治体独自の新しい視点からのサービス競争がICTを上手に取り入れて進むことを期待しています。

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