2015年10月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:「無料」時代の「ジャパンモデル」


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かつて「ケータイ」もなかった学生時代、電話と言えば下宿のピンク電話か公衆電話であり、黄色のボックス公衆電話で100円玉が気持ち良く吸い込まれていたのを思い出す。750km超のダイヤル通話料が3分720円、遠近格差1 : 72という時代だ。ましてや海外への電話などは必要とすることもなかったが、どれほど高額だったのだろう。

この夏、米国での新生活に向け出国する娘夫婦を成田空港で見送った。遅ればせながら、必要にかられ我が家では夫婦2台のタブレットにLINEとスカイプをインストールした。当然のことながら、国際電話料金がいくらなのかも知る必要もない。まさに隔世の感がある。

スマートフォンの普及でメッセンジャーアプリが急速に拡大し、日本でもLINEやFacebookのMessengerに代表されるメッセンジャーアプリで、通話とメールはアプリ間で無料で利用するのが当たり前になった。若者だけでなく年長者にまで幅広く利用されるようになり、「ガラケー」が主流だった10年前には予想もできなかったことだ。

メッセンジャーアプリは突然登場してきたものではない。インターネット上でアプリを介して通話をするという現在のメッセンジャーアプリの原型は、PCの時代から存在していた。スカイプだ。PCを前にしていると、相手もPCの前にいないと通話できないことから、利便性に欠けていたことも事実だ。スマートフォンの登場によって、誰もがメッセンジャーアプリで通話やメールを楽しむようになった今でもスカイプは利用されているが、以前ほどの存在感はなくなっている。やはりPCで利用するものというイメージが強すぎたことやWhatsApp、FacebookのMessengerの台頭がより大きかったということだろう。

スマホの急速な拡大とメッセンジャーアプリの普及に伴って、VodafoneやTelefónicaなど世界の通信事業者らが2011年にRich Communication Suite (RCS) というアプリの開発を共同で行ったことがある。通信事業者にとってはそれまで自社ネットワークを介した音声やパケット収入に依拠していたため、自らサービスを開発して提供することは新たな挑戦であった。但し、これが普及して世界中で利用されることはなかった。

一方、日本では「ガラケー」の時代から、i-modeなど通信事業者が提供するサービスに利用者も親しんでいた。自社が提供しているメールサービスをスマートフォン上でも提供しており、音声通話による収入をみすみす減少させることに繋がるため、メッセンジャーアプリを自社で開発、提供することはなかった。

確かに、メッセンジャーアプリの普及と拡大によって、音声通話の利用者は減少し、ARPUは下がるだろう。アプリ間の無料通話が台頭してきて、通信事業者の経営が悪化するのではないかとの議論もある。SMSが重要な収入源であった海外の事業者はメッセンジャーアプリの影響を相当受けるだろうが、日本ではメッセンジャーアプリが登場する前から、すでにコミュニケーションの中心が「テキスト(メール)」に移行したため、音声ARPUの低下が続いてきたこと、また早い時期からユーザーが「キャリアメール」に慣れ親しんできたことで、SMSの収入に依拠していなかった背景もあり、海外事業者ほどの影響は受けなかったと言えるのかもしれない。

メッセンジャーアプリもゲームや動画と同様ネットワーク上で動くアプリの一つにすぎない。通信事業者としては、自社のネットワークを利用してもらうことでパケット収入が入れば本業たる通信事業での収益となる。メッセンジャーアプリの台頭で収益に影響を受けるというよりも、ユーザーがどのようなアプリを利用しようとも、そのインフラとして自社のネットワークを利用してくれればと、ある意味で割り切らざるを得ない。その転換点がまさに「音声定額制、パケット従量制」の新料金プランの導入だ。

かつてNTTドコモがi-modeをプラットフォームとして提供していた頃、そのプラットフォームに集まるコンテンツ(サイト)に多くのユーザーがアクセスし、また公式サイト以外にも多数の「勝手サイト」と呼ばれるサイトも存在していた。そしてそれらがアクセスされることによって、通信事業者はパケット収入を得ていた。i-modeのようなプラットフォームサービスは、通信事業者にとってはコンテンツによる収入よりもパケット収入の方が遥かに大きかった。

通信事業者にとっては、自社でサービスを提供するよりも、ネットワークを利用してもらうことに専念し、パケットのみで稼ぐ、いわゆる「土管屋」になりきるというモデルも成り立つ。ただ、「土管屋」になりきる思い切りもできにくいというのが現状かもしれない。

LTEの登場によって、パケット収入は増加しているが、通信事業者がネットワークのみで差別化することは難しくなってきている。LINEを利用しているユーザーにとってはネットワークがドコモであれ、KDDIであれ、どこでも同じだ。さらに端末もiPhoneの登場によって横並びとなり差別化は難しい。そこで各通信事業者は差別化と新たな収入源を求めて、従来とは違う新たな領域での取り組みを行っている。

ドコモは従来の音声通話やパケット収入だけに依拠しないdグルメ、dアニメストア、dTVなど「スマートライフ領域」に注力し、多くの企業との間で出資・提携を行っている。そしてARPU試算方法も変え、「スマートARPU」を新たに加えた。音声ARPUが減少するなか、スマートARPUは増加傾向にある。KDDIも同様に、au WALLETや物販などに進出してきている。このような通信事業者の他領域への参入は、動画サービスやコネクテッドカーに代表されるIoT分野などに進出している海外の通信事業者とは方向性が異なる「ジャパンモデル」とも言える取り組みだ。

「スマートライフ領域」に代表される「通信事業者による通信以外の収入の確保」は、競合も多く、どこまで成功するのかまだ先は読めない。利用者が通信事業者のポータルで買い物をしたいと考えて、そのような消費行動に移るのかどうかはもう少し様子見が必要だろう。ただ、ドコモがローソンと提携したり、KDDIがauWALLETを普及させたりと着実に通信事業者が“リアル”な世界に進出し、その存在感が高まっているのも事実だ。新料金プラン導入という大きな転換点を迎えたなかで、今後も「ジャパンモデル」の動向からは引き続き目が離せない。

さて、我が家のタブレット、かれこれアプリのインストール後2~3カ月になるが、活躍しているのは、以前と同様、配偶者の端末だけだ。母親と娘は姉妹のようになるというが、米国での様子は配偶者を通して聞くのが現実だ。

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