2017年8月2日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

韓国:Facebookとの対立から垣間見るネットワークの課題



昨年末、韓国の一部の利用者の中でFacebookのサイトにつながりにくい事象が発生した。マスコミはFacebookと通信事業者間で行われていた費用負担を巡る交渉が難航したことでFacebookが同通信事業者の加入者のアクセスを制限したと伝えた。多くの報道でFacebookという巨大なグローバル企業による国内企業に対する「不当な対応」、「弱いものいじめ」であるとの論調が目立った。しかし今回の一件は、韓国という地域的な事象ではなく今後世界中で起こり得る問題であることを示唆していると考えられる。

Facebookへのアクセス遅延

経緯

事の発端は2016年12月、固定通信事業者SK Broadband(以下「SKB」)のネットワークで遅延が発生したことだった。SKB利用者から「Facebookに接続するのに5分以上かかる」、「FacebookとInstagramだけ接続に時間がかかる」という苦情が上がりネット上でも話題になった。これがマスコミで報じられ事態が公になった。
当時FacebookとSKBはキャッシュサーバーの設置について協議を行っていたが費用負担で折り合いがつかず、交渉は中断したと伝えられた。
韓国放送通信委員会 (KCC) が5月22日、電気通信事業法の禁止行為に該当するかどうかFacebookに対する調査を実施する方針を明らかにすると、Facebook Koreaは「韓国で通信ネットワークに関する規定が策定されれば当社は従う用意がある」との立場を表明した。

6月7日現在、KCCの調査結果は発表されておらず、調査は続行されているものとみられる。

Facebookと韓国通信事業者の接続状況

海外でのサービス提供時に1カ国に1台キャッシュサーバーを設置するというポリシーがあるといわれる。韓国ではFacebookはKTのネットワーク内にキャッシュサーバーを置いている(図1)。
SKBのFacebookへの接続経路は二つある。香港にあるFacebookの接続ポイント(PoP : Point of Presence)で接続する方法が一つ、ほかにKT内のキャッシュサーバーに接続する迂回ルートだ。Facebookへのアクセスが急増したことで遅延が発生するようになり、FacebookはSKBに対し専用ネットワークの拡張やキャッシュサーバーの設置を求めたとされる。
SKBは「Facebookがキャッシュサーバーへの迂回ルートを故意に切断した」と主張している。一方、FacebookはSKB加入者のFacebookへのルート変更は行っておらず、既存の2社間契約に基づき従来通り香港のPoPを経由して接続していると説明する。両社の主張は食い違い、どちらに過失があったのか現時点では明らかではない。

【図1】Facebookと通信キャリアの接続状況(イメージ図) (出典)各種報道記事をもとに作成

【図1】Facebookと通信キャリアの接続状況(イメージ図)
(出典)各種報道記事をもとに作成

韓国内の争点

当初、SKB利用者のFacebookへのアクセス遅延の問題は、「国内通信事業者」とFacebookという「海外のコンテンツ事業者」間でネットワークに関わる費用をどのように分担するかがこじれたことによるものと捉えられていた。
しかし両社間の交渉のこじれが報道される過程で、Google傘下のYouTubeが韓国国内の通信キャリアから無償でキャッシュサーバーの提供を受けているという特別待遇が明らかになった。新たな争点として「国内外のコンテンツ事業者」間に存在する不公平が浮き彫りになり、海外コンテンツ事業者に対する不満が噴出した。
NaverやKakaoなど韓国屈指のネット企業も、売上や利用者の規模ではFacebookやGoogleには遠く及ばない。国内で利用されるSNSや動画サービスの上位はFacebook、YouTubeが占めており、両社は国内のオンライン広告市場で国内企業とは桁違いの売上を上げている。例えば2016年1年間で見れば、YouTubeは1,169億ウォン(約117億円)、Facebookは1,016億ウォン(約102億円)に対してNaverは456億ウォン(約46億円)、Kakaoは341億ウォン(約34億円)とされている(DMC Media調べ[1])。
相対的に規模が小さい国内企業が年間数千億ウォン(数百億円)のネットワーク利用料を支払っているのは不当であり、海外企業にも費用負担を求める制度的な枠組みが必要だという指摘も出ている。また、これら海外事業者の韓国法人は有限会社等の形態で設置され、財務状況の開示が義務付けられていないことから、経営の透明性を求める声も出ている。

大容量コンテンツに耐えうるネットワーク

報道では「グローバル事業者vs国内事業者」、「グローバルコンテンツ事業者vs国内通信事業者」、「グローバルコンテンツ事業者vs国内コンテンツ事業者」等、事業者の「規模」や「影響力」の観点から通信事業者やコンテンツ事業者を対比させる構図が多く見られる。様々な「不平等」「不公正」が提起される中で、結局ネットワーク費用を誰がどのように負担していくかという問いの行き先を探しているように見える。
ネットワークの拡張や増強に必要な費用をどのように負担するかは一般的に事業者間交渉に委ねられている。したがって当事者間の力関係や交渉力によって決まる。韓国国内であれば通信事業者間あるいは通信事業者とコンテンツ事業者間でも交渉の行方は想定範囲に収まっていただろう。しかし海外企業、それも世界規模で事業展開する企業との交渉は容易ではない。交渉のテーブルに着くことさえままならないだろう。
ネットワークを流れるコンテンツは写真や動画、特にストリーミングが増大している。日本や韓国をはじめ欧米先進国ではブロードバンドの普及、光ネットワークのカバレッジ拡大、サーバーの高性能化などにより、固定インフラ、コアネットワークは安定感を高めていった。それぞれの技術革新も相まってトラフィック増に耐えられるよう設計され基盤は整っていると考えられていた。
コンテンツが大容量化するスピードは速く、ネットワーク側はトラフィックの流れを支え続ける必要がある。今後4Kや8Kなどの映像の高精細化、ARやVRなどの活用によりコンテンツの大容量化はさらに進む。2020年前後に5Gも商用化される予定であり、ネットワークを行き交うトラフィックは増加の一途をたどる。
私見ではあるが、今回のSKBの一件は同様の事態が世界中どこでも起こり得るという問題であり、エンド・エンドの通信を支えるコアネットワークの在り方に課題を投げかけていると考える。

[1]http://www.segye.com/newsView/20170526002108

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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