2023.9.14 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

AI時代の経済成長を支える「リスキリング」とは

Image by Gerd Altmann from Pixabay

1.リスキリングの現状について

リスキリングとは

ここ数年、ニュースでAI(人工知能)やDXといった言葉を聞かない日がないほど、テクノロジーの進化に伴う社会環境の変化が加速しており、企業は成長力の確保や競争力の維持のため、今まで以上に事業戦略の見直しや再構築の必要性に迫られている。こうした変化に対応すべく「AIの活用」が話題となっているが、それとともに注目を集めているのが「リスキリング」である。

リスキリングとは英語の「re-skilling」を指し、企業側視点では“従業員のスキルを向上させ生産性を高めること”、一方、従業員側視点では“新しいスキルを習得し、転職や昇進の機会を広げることができる”ことを表し、広義に事業戦略の実現に必要な知識・スキルを保有する人材を増やす取り組み全般に使われるようになってきている。

近いニュアンスの言葉として「リカレント:いったん仕事から離れて、大学や専門学校などの教育機関で学ぶこと」や「スキルアップ:現在担当している業務について、より高度な知識・技術を身に付けること」などがある。それらが個人主体で取り組むものであるのに対して、「リスキリング」には企業が主体となって戦略的に社員に学ぶ機会を提供するという意味合いがあり、その点に大きな違いがある。

世界的に取り組まれるリスキリング

このリスキリングへの取り組みは、世界的な潮流となっている。古くは2018年に行われた世界経済フォーラム年次会議(通称「ダボス会議」)で「リスキリング革命」のセッションが行われ、また2020年の同会議では第4次産業革命に対応するため「2030年までに全世界10億人をリスキリングする」との宣言もされている。そのほか2021年の同会議でも「ジョブリセットサミット」が開催され、「教育、スキル、生涯学習」がテーマの一つとして議論されている。

こうしたニーズの高まりを受け、岸田内閣では2022年9月に、総合経済対策としてリスキリング支援に今後5年間で1兆円の政府予算を充当する旨の方針を明らかにしていて、国家レベルでも国の生産性向上のためリスキリングに取り組む姿勢を打ち出している。

2.日本でもリスキリングが重要とされる背景とは

求められるビジネス人材の変化

現在、若年社員を中心に、仕事選びで重視する点が一昔前に重視された「休みの取りやすさ、人間関係、収入」などから、社会貢献や、知識・スキル獲得といった「自己成長」に関する項目に移ってきている。

一方、企業側が社員に求めるニーズも変化してきている。経済産業省が公表した「未来人材ビジョン」レポートによると、現在は「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」といった能力が重視されるとあるが、将来は「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」という能力が一層求められるようになるとある(図1)。

【図1】56の能力等に対する需要

【図1】56の能力等に対する需要
(出典:経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月)
(2015年は労働政策研究・研修機構「職務構造に関する研究II」、2050年は同研究に加えて、World Economic Forum “The future of jobs report 2020”, Hasan Bakhshi et al.,
“The future o skills: Employment in 2030”等をもとに、経済産業省が能力等の需要の伸びを推計))

こうした経緯からもわかるとおり、今後求められる能力を身に付けるための人材教育制度は、これまでの延長では対応できないと考えられるようになってきている。

雇用形態の変化

日本企業では従来、メンバーシップ型でOJTや人事・配置転換などにて人材開発を行ってきた経緯から、社員に対しての人材投資額が他の先進諸外国と比べて低いことが明らかになっている。厚生労働省が公表したGDP比における人材投資(OJT以外)の国際比較のデータ(図2)によると、日本の値は0.1%で、この数値は米国2.08のおよそ1/100以下。さらに、1995年から直近のデータまで右肩下がりの状態にある。

【図2】人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)

【図2】人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)
(出典:経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月)(厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」をもとに経済産業省が作成))

このあたりからも、日本の就業環境は、世界的基準とやや違っていることがわかる。もちろん、単純に違っていることが悪いというわけではないが、日本も世界で採用されているジョブ型に雇用形態が移行していく傾向にあり、企業・個人それぞれが変化への対応策を考えていかなければならない時期にきている。

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3.先行導入事例とプラットフォームサービス

4.まとめと今後への期待

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