2023.10.30 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

サイバネティック・アバターとパブリシティ権 〜場合分けによる分析〜 「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載7回

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1.はじめに

サイバネティック・アバター(CA)が無断撮影をされるといった場面や、CAとして第三者の写真等を利用する場合については、第5回でプライバシー、第6回で肖像権1をそれぞれ検討してきたが、これらに加えて、又は関連して、パブリシティ権が問題となることもある。

そこで、以下、パブリシティ権の一般論を概観した上で(2)、パブリシティ権が肖像権と類似することから、CAの文脈におけるパブリシティ権と肖像権の相違(3)を述べた上で、パブリシティと肖像(4)、氏名(5)及びアバターそのもの(6)との関係をそれぞれ検討する。

2.パブリシティ権の一般論の概観

パブリシティ権に関するリーディングケースであるピンクレディ事件判決2は「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」として、パブリシティ権を認めた。

その上で、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるとして、「肖像等を無断で使用する行為は、〈1〉肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等3として使用し、〈2〉商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、〈3〉肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」と判示している。

なお、CAにおいては、架空のキャラクターをアバターとする場合があるところ、ピンクレディ事件以前に、ギャロップレーサー事件4は競争馬の名称が無断利用された事案で、既に物のパブリシティ権を否定していた5。そこで、いわゆる架空のキャラクターや所有物等について、キャラクターの著作権者や競走馬等の所有者が当然にパブリシティ権を持つものではないことには留意が必要である。

3.CAの文脈におけるパブリシティ権と肖像権の相違

(1)パブリシティ権の方が範囲が広いこと

パブリシティ権においては、肖像に限らず、氏名等も含めて保護される。その意味で、パブリシティ権は肖像権と比べて保護の範囲が広い。

ピンクレディ事件判決は前記の通り、パブリシティ権の対象を「肖像」としているところ、同判決は、肖像等を「人の氏名、肖像等」と定義している。そして、同判決の調査官解説も、本人と似ている動物の図柄が需要者にとって本人を識別するものとして著名であればこれも肖像等に含まれるとする6

そして、CAには「中の人」が存在することが多いところ、「仮想空間におけるアバターの肖像等も、その背後の自然人を識別する情報と解し得る場合には、パブリシティ権による保護の対象となり得るように思われる。」7と指摘されている。つまりAという有名人と似ているA’という動物の図柄がA本人を識別するものとして著名であるとしてパブリシティ権の対象となる場合と同様にCAの「中の人」であるBと似ているB’というCAもまたB本人を識別するものとして著名であるとしてパブリシティ権の対象となる可能性があるということである。

(2)パブリシティ権の方が侵害態様が限定されること

もっとも、パブリシティ権は、その侵害態様が、顧客吸引力を違法に利用するというものに限定される8。単にその肖像が写り込んでいるだけに留まる9とか、ファンが趣味で有名人の肖像をCAとして利用する行為等であれば、パブリシティ権侵害に該当しないだろう10

一方、肖像権についてはそのような態様に限定されず、より広い範囲において侵害が認められる。

CAの局面においても、そのアバター等を使って商品の広告・宣伝を行うなど、専ら当該肖像の顧客誘引力を利用することを目的として、当該肖像の利用が行われる場合には、パブリシティ権の侵害に該当すると判断される可能性が高くなるだろう11

4.CAの肖像に係るパブリシティ権

権利者の許諾があれば第三者も適法に肖像等を利用することができる。以下では、権利者の許諾がないことを前提に検討する。

(1)芸能人等の肖像をCAに利用する場合

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

芸能人等の肖像について高精度なアバター化をして、それ自体を商品とすることが可能である。例えば、Gateboxといわれる商品は、円筒形の装置内部に身長約15センチの3Dキャラクターを投影し、コミュニケーションを楽しむことができるものである。そのような「展示用ショーケース」においてアバター化された芸能人等の肖像が観賞されるのであれば、これは肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合に該当すると理解される。

また、CAには物理空間のロボットも含まれるところ、いわゆる芸能人を模したヒューマノイド・ロボット等を物理空間におけるCAとして利用する場合も、そのようなCA自体が、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合となる可能性はあるだろう。

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

ユーザーが、自らのCAとしてアバター化された芸能人等の肖像を利用することができるよう、企業等がアバター化された芸能人等の肖像を提供するということがある。この意味は、多くの企業が提供する様々なアバターのうち、ユーザーに自分の企業のものを選んでもらうために当該芸能人等の肖像を付するということである。そうであれば、商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合に該当するように思われる12

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

例えば、メタバースにおいて、アバターを利用して何らかの商品やサービスの宣伝・販売をする場合において、そのような販売員や広告を行う主体たるCAが芸能人等の肖像を利用していれば、それが肖像等を商品等の広告として使用する場合に該当する可能性がある。

なお、メタバースにおけるインフルエンサーその他のユーザーが商品を宣伝する際において、そのような宣伝者がたまたま芸能人の肖像をアバターとしていた、というだけでは、直ちに、当該商品の販売者が肖像等を商品等の広告として使用するとまでは言い切れないだろう。この点は、必ずしもパブリシティ権の判断と一致しないものの、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが 困難である表示」という告示13が「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が 当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」とした上で、同告示の運用基準14が景表法の文脈において、どのようなインフルエンサー等の行為が事業者の表示とみなされるのかを議論しており、ここにおける議論が一定程度参考になると思われる15

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

上記3(2)のとおり、パロディアカウントやファンアカウント等で、商品やサービスの販売等顧客吸引力と無関係に芸能人等の肖像を利用するだけであれば、パブリシティ権は侵害しないと思われる。但し、その場合には、なりすまし(連載第8回掲載予定)等の問題は別途生じ得ると思われる。

(2)CAの肖像が顧客吸引力を有する場合

CAの肖像の中には、VTuberの肖像のように、それ自体顧客吸引力を有するものがある。ここで、その顧客吸引力のある肖像が、「中の人」の顔写真そのものであれば、この点において、「肖像」として扱われるべきことに争いはないだろう。

問題は、典型的なVTuberのように、一応ヒトの形はしているものの、その外観は、いわばアニメキャラクターのような、イラスト調であって、かつ、その肖像が中の人本人をモデルにしたものではない16という場合である。このような場合に関する一つの考え方は、まさにVTuberはそのようなアバターを纏って活動している芸能人であるというものである(ここでは、アバターは覆面レスラー等の覆面と同様の役割を果たす)。このように考えれば、芸能人がその肖像について顧客吸引力を持つのと全く同一の意味で、そのアバターについて顧客吸引力を持つことになる。そこで、アバターは、そのような芸能活動を行う「中の人」の芸能活動上の「肖像」だと解することができる可能性がある17

もう一つの解釈は、それは「肖像」ではないものの、その芸能人(VTuber)と密接関連する図柄として、顧客吸引力を持つという解釈である。

筆者としては、少なくとも(イラスト調であっても)人間のアバターの場合は、前者の解釈に親和性を持っているため、以下ではそれを前提として検討する。しかし、後者の解釈を採用する場合であっても結果として妥当な結論を導くことができるものであり、必ずしも、前者の解釈しか妥当な結論を導くことができないものではない。また、仮に前者の解釈をした場合でも、およそ「肖像」と言い難い、例えば動物のアバターについては、やはり、その芸能人(VTuber)と密接関連する図柄として、顧客吸引力を持つという解釈を取らざるを得ない。よって、まずは以下でCAの顔や姿態が「肖像等」として保護される場合について論じる。その上で、下記6において、上記の議論の結果として、やはり問題となる(顧客吸引力が利用されているところの)図柄等が「肖像」とは言い難い場合について別途検討することとする。

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

VTuberのアクリルキーホルダー、アクリルスタンド等CAの肖像それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用することが考えられる。なお、オンライン上でもオンライン写真集のような形で提供されることがあるだろう。その場合には、当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る18

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

VTuberとのコラボ商品等として、商品にVTuberの肖像を付す等、CAの肖像を商品等に付してその差別化を図ることが考えられる。この場合にも当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

VTuberコラボ商品等として、VTuber等のCAを商品等の広告に利用することは最近ではよく見られる。この場合にも当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

また、他人のCAの肖像を自らのCAに利用した上で、自らがそのCAを利用して商品を販売・広告するということであれば、当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

CAの肖像を利用していても、その顧客吸引力を利用していない場合、例えば、単にそのCAが特定の活動をしていたことを伝えるだけのために肖像を撮影してSNSで投稿するだとか、友人やファンとしてCAと交流をしたことを記念に残すため交流の姿を撮影する等は、仮にそのCAの肖像がそれ自体顧客吸引力を有するに至っていてもパブリシティ権を侵害しないものと思われる。但し、その態様によってはプライバシー侵害(第5回)や肖像権侵害(第6回)の可能性がある。

なお、単に他人のCAの肖像を自らのCAに利用するというだけで、そのCAを利用して商品・サービス等の宣伝販売等を行わない、ということであれば、確かにパブリシティ権侵害にならない可能性が高いだろう。しかし、そのような肖像の利用がなりすまし(第8回掲載予定)等の問題を生じさせる可能性はあることには留意が必要である。

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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5.CAの氏名に係るパブリシティ権

6.肖像といえない場合

7.CAに関するパブリシティ法をめぐる議論を深化させるために

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授及び情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員に貴重な助言を頂戴し、また、早稲田大学博士課程杜雪雯様及び同修士課程宋一涵様に脚注整理等をして頂いた。加えてWorld Trend Report編集部の丁寧なご校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。

  1. なお、第6回脱稿後に中島基至「知的財産権訴訟における肖像権判例の最前線」別冊L&T9号(2023)76頁以下に触れた。
  2. 最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁。
  3. なお、同判決の判決文中において「商品等」は定義されていない。ただ、中島基至「判解」(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)法曹会『最高裁判所判例解説民事篇平成24年度(上)』(2015)40頁は「『商品等』とは、商品又はサービスとして『商品化』されたものをいい、肖像等の使用が私的なものにとどまれば違法性を欠くというべきであるから、業としての行為(商業的利用行為)に限られると解される」とする。
  4. 最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁。
  5. そこで、純粋なキャラクターに対するパブリシティ権は、立法論の問題である。原田伸一朗「キャラクターの法的地位:『キャラクターのパブリシティ権』試論」情報ネットワーク・ローレビュー17号(2019)1頁参照。創作されたキャラクターの肖像について、これを商業的に利用する権利に関しては、一般に、パブリシティ権でなく、知的財産法による保護の対象となっているとするメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」(以下「論点整理」という)38頁も参照。
  6. 中島・前掲注3)41頁。
  7. 斉藤邦史「仮想空間におけるアバターのアイデンティティ」法セ2023年2月号 29頁。
  8. 佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務〈第3版〉』(弘文堂、2020)447頁。
  9. 論点整理・30頁。
  10. 上野達弘「メタバースをめぐる知的財産法上の課題」Nextcom冬号(2022)12頁参照。
  11. 論点整理・33-34頁参照。
  12. なお、この場合を肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合に分類することもできると思われるが、ユーザーがその「中」に入って操作をするためのアバターとして提供する際のユーザーによる利用は「鑑賞」の域を超える場合も多いと思われるので、実用品としての操作可能なアバターについて、その差別化のため芸能人等の肖像が付されているという本類型と理解することが適切であるように思われる。
  13. 内閣府「令和5年内閣府告示第19号」(2023年3月28日)〈https://www.caa.go.jp/policies/policy/ representation/fair_labeling/public_notice/assets/representation_cms216_230328_07.pdf〉
  14. 消費者庁「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(2023年3月28日)〈https://www.caa.go.jp/ policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf〉
  15. この点については松尾剛行『実践編 広告法律相談125問』(日本加除出版、2023年)参照。
  16. 実務上、肖像(アバター)が決まった後に、中の人を募集することもあり、その選択の際に肖像に中の人の顔が似ているという部分は通常重視されない。
  17. この点は、第3回の名誉毀損で議論した、大阪地判令和4年8月31日判例タイムズ1501号202頁がアバターの表象をいわば衣装のようにまとって、動画配信などの活動を行っているといえるとしてVTuberが名誉感情侵害から保護されるとした事案が参考になるだろう。
  18. なお、パブリシティ権は人格権に由来する権利とされているので、いわゆる「中の人」が複数の場合においてどの人の人格に由来するのかという問題はあるものの、この点は第3回で論じた同定可能性とも通じるところがあり、ここでは詳論しない。

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